2016.12.23半月遅れの落ちアユ漁に見る、仁淀川のいま

半月遅れの落ちアユ漁に見る、仁淀川のいま

産卵後のアユを捕る落ちアユ漁は、日本の川の風物詩の一つ。高知県内の河川では12月1日から一斉に落ちアユ漁が解禁されましたが、仁淀川だけは解禁日が12月15日と遅くなっています。なぜでしょうか?

「若鮎」「鮎狩」「落鮎」と俳句や連歌の季語になるなど、その一生が日本人(本州や四国、九州に暮らす)の季節感と強く結びついているアユ。秋に河口近くの川の下流部で生まれ、海に下って冬を越し、春になると生まれた川を遡上していき、夏の終わりまでは中流域で大きく育って成熟、秋になると下流部に下って産卵して、1年で一生を終える魚です。

article_06202.jpg仁淀川の下流部は空が広い。海まであと約6㎞。

漁業協同組合がある川の多くでは産卵期のアユ漁が禁止されていて、産卵を終えただろう頃に再びアユ漁が許可されます。これが落ちアユ漁の解禁。仁淀川ではそれが12月15日からと、他の高知県内の河川よりも半月遅れになっています。その理由を、仁淀川漁業協同組合の副組合長・傍士定明(ほうじさだあき)さんに伺いまいした。小学生の頃からアユやウナギを獲るなど仁淀川で遊んでいて、御年76歳になった今も釣りキチ少年の心を忘れていない人物であります。

article_06203.jpg傍士定明さん。先日のイベント「越知おいしいキャンプウィーク」で仁淀川移動水族館を作ったときには、魚集めに同行してくれました。

なぜならアユが減っているから

「やっぱりアユが減りゅうきよ、仁淀川では。川は綺麗になってきたというに、どういうわけかアユだけでなく他の在来の魚も減っている」とのっけから衝撃発言の傍士さん。ここ数年間、日本の一級河川では水質が最も良好な仁淀川ですが、流れのなかでは事件が起きているようです。
「私が子供の頃ですが、仁淀川のアユは虫みたいにたくさんいた。昭和40~50年代ぐらいが最盛期で、年間470トンぐらいのアユの漁獲がありました。それが今なんと、多めに見積もっても約70トン。このままでは、仁淀川のアユは絶滅危惧種になるのでは」
昭和40、50年代といえば、仁淀川流域では下水道も浄化槽もあまり整備されていないし、田畑ではきつい農薬を使っていた時代。その頃に比べればかなり綺麗な流れになった仁淀川ですが、アユ資源の量は減少の一途をたどっているそうです。
「このように減りゆう状態では、落ちアユ漁についてもちょっとばかり考慮が必要。落ちアユを捕るといっても、産卵前のアユも捕れるわけです。親がおらにゃあ子がおらん、子がおらにゃあ親はおらん。少しでも多くのアユに卵を産んでもらって、アユ資源が回復傾向になるまで、落ちアユの漁期を少し短縮していきましょう、ということで、解禁日を他の河川よりも半月延ばしているんです」

article_06204.jpg投網で落ちアユを狙う。

孵化したアユに適した季節が、変わりつつある

流れが美しくなったにもかかわらず、なぜ仁淀川のアユ資源は減っているのか?その原因はいろいろあるようです。
「アユを捕る道具や技術が発達して、人間が捕りすぎていることもあります。が、それ以上に、カワウやアオサギや外来魚(ブラックバスやニゴイ)などの増加による食害の影響が大きい。アユの稚魚が遡上する段階でかなり食われてしまうため、仁淀川での適正なアユの生息数(400万~500万匹)になかなか届かないんです」と傍士さんはいいます。他にも、川の水量が昔より減った、珪藻類(アユの餌)がつく適度なサイズの石が川の中から減って、砂や礫が増えた……など、アユが豊富だったころの川とは異なる点がいくつもあるようです。

article_06205.jpg仁淀川の汽水域。奥に見える仁淀川河口大橋の向こうは太平洋だ。

そして、卵から孵化したあとのアユにとって深刻なのが、汽水域の変化。
「汽水域というのは川の河口辺りで、川の水と海水が混じり合うところ。アユは孵化して仔魚(しぎょ)になったら、なるだけ早く汽水域へと流下しなければ生きていけない。汽水域に入らないと、アユの仔魚に必要な餌であるワムシなどの動物性プランクトンがいないんですね。問題なのが、汽水域や海の水温。10月の中頃から仁淀川のアユの仔魚は汽水域に流下していくのですが、ここ何年も仁淀川河口ではその頃の海水温が高めで、仔魚はほぼ生き残れないのです(※多くのアユ研究者の見解)。海と川との温度差で死にますし、水温が高いとスズキなど海の魚が活発なため、アユの仔魚はたくさん食べられてしまうのです」
では、生き残る確率が高いのは、いつごろ孵化した仔魚でしょうか?
「この頃では、海水温が下がる12月ぐらいに産み付けられた卵が、生き残る確率がものすごく高い。つまり仁淀川では12月の親アユを大切にしないといけない。昔は、孵化して仁淀川を流下するアユの仔魚がいるのは12月20日ぐらいまでだった。しかし昨今では、地球温暖化のためか1月10日にアユの仔魚を確認したことがあります。卵からその状態の仔魚になるまで約20日間なので、前年の12月20日ぐらいに親アユが産卵したということになる」
つまり、12月15日の落ちアユ漁解禁後でも、産卵する前の、つまり将来有望なアユを供給する前の親アユを捕ってしまう可能性があるということ。だから仁淀川の落ちアユを全面禁漁にすればいい、という意見もあるそうです。
「でも、昔からずっとやってきた落ちアユ漁を楽しみにしている人もいる。あなたたちが落ちアユを捕らんかったら、次の年に俺たちがもっとアユ釣りを楽しめる、みたいに、みんながみんな自分の懐勘定ばかりしていくのはいかん。みんなが、一つの決まりの元に、平等で、統制のとれた漁の楽しみ方を、というのを仁淀川漁業協同組合としては目指していますから」

article_06206.jpg落ちアユは比較的簡単に釣れるので、老若男女に親しみやすい。

たくさんの人に危機感を持ってほしい

「日本全国、どの河川でもアユ資源が急速に減っています。例外はなぜか東京の多摩川。仁淀川より全然清流じゃないのに(笑)。そして、落ちアユを全面禁漁にする川は全国的にどんどん増えている。それは、将来につながるいいことだと思います。でも、伝統ある季節の風物詩を禁止するというのは、ものすごく勇気がいったことでしょう」
つまりは、それだけ事態が深刻だということ。しかも原因はいろいろあって、劇的に解決するにはお金も人材も必要で、大掛かりなことになりそうです。個人としては、どうあるべきなのでしょうか?
「やはり、仁淀川に関わる人たち、流域の人たちが他人事とは思わす、危機感をもつことが重要ではないでしょうか。例えば釣り人であれば、必要以上にアユを捕りすぎないとか、家族と親戚分ぐらい釣ったら満足して竿を収めるとか。わしゃあ1日で60匹も釣ったぞと自慢するのではなく、『晩飯分は釣った、いつでも釣れるからまた今度来ればええ』という腕や気持ちを誇りにするとか、『仁淀川はわしの冷蔵庫みたいなもんやき、必要なとき行って釣ればいい』と仁淀川を豊かさのほうを自慢にするとか」
そして、多くの人が仁淀川を好きになって、より深く関心を持ってもらうことが大切ではと傍士さん。
「私はね、地元の釣り仲間たちに、仁淀川に釣りに来た人に本当の情報を教えてやれといっているんです。釣れるポイントやコツとかを隠さずに。『自分だけの川じゃないでよ、大きな心で、みんなが楽しめないといかんで』とね。私はよく、ここで釣れ、こう釣れ、と川でたまたま会った人に教えているんです。そういうことをしていれば、仁淀川にはおもしろいおんちゃんがいる、教えられた通りやったら釣れたし、楽しかったな、魚も人間もいい川だなあとなるじゃないですか」
なるほど、けちけちせずに、おおいにもてなす作戦。「いごっそう」と「はちきん」の高知人らしいやり方だと私は感心しました。
「そして仁淀川での釣りが大好きになって、自分の川だ、自分の漁場だという愛着や誇りが芽生えたら、捕りすぎたらだめだという気持ちになるだろうし、アユ資源の減少についても危機感を持つ人が増えるんじゃなかろうか」

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これは投網の一種で小鷹網。鷹の翼のように広がって鮎の群れを囲い込む。

さて、冬を迎える仁淀川。この地の釣りキチたちは冬休みに……入りません!仁淀川の支流である上八川川と小川川では、今年も2017年2月末日までアマゴ冬季釣り場を開設。フライ ・ テンカラ ・ ルアーを使ったキャッチ&リリース方式で、日本中の自然河川がアマゴ禁漁になっている期間中に、目も醒めるような清流でアマゴ釣りが楽しめます。「いいサイズのアマゴをどっさり放流してきたから、こじゃんと釣りに来てください」と、傍士さんも自信満々でしたよ!

◆落ちアユ漁についてのルールなどは、仁淀川漁業協同組合のホームページへ
◆アマゴ冬季釣り場については、仁淀川漁業協同組合のこのページ
または、http://hodonodani.sakura.ne.jp/newpage10.htmへ。
仁淀ブルー通信2016.02.12配信記事 もご覧ください。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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