2021.05.07その教育に魅かれ、移住する人も! とさ自由学校とは?

その教育に魅かれ、移住する人も! とさ自由学校とは?

 子どもたちに思い出の夏を届ける清流のほとりに、個性的な小学校があります。仁淀ブルーを生み出す新緑の山々に見守られながら、この春、ここに22名の生徒が新たに加わりました。その入学式の様子と、普通の小学校ではお目にかかれない教育方針についてレポートします。

 仁淀川から支流の勝賀瀬川を遡ること約1㎞、網で魚を追う子が似合う流れのそばに、「とさ自由学校」はあります。今年度の生徒数は63名です。

article248_01.jpg この4月から、新入生15名と転入生7名が仲間に加わったとさ自由学校。野外で入学式なんて、素敵です。

 この学び舎での日々は、一般的な小学校とはかなり異なっています。例えば、学習や活動の内容を子ども自身で決めるとか、自然環境を存分に利用した体験学習が日常など。目指す子どもの姿として、「失敗を恐れず自信をもって自己決定できる」「仲間と協働できる」「挑戦できる」「振り返ることができる」をこの小学校は掲げています。

article248_02.jpg 教室の雰囲気や机の配置も個性的な学校です。

 設立したのは、脳神経外科医であり、高知県で医療法人や社会福祉法人の理事長をつとめる内田泰史さん。学校誕生の背景を「この先、国際化や情報化がどんどん進みます。これまでの知識や常識やルールでは、よりよい社会を創るのは難しくなりそうですから」といいます。未来を担う子どもたちに、主体的に行動し、自ら創造し、他者と心を伝え合い、共に価値ある物をつくりだせる力を育んでもらおうと、とさ自由学校は2019年4月に開校しました。

article248_03.jpgとさ自由学校の理事長、内田泰史さん。

 では、その教育方針について、この地の豊かな自然はどんな役割を果たすのでしょう。
「自然と一言でいいますが、そこには山、川、虫、魚、野菜などいろんなものがあります。子どもたちはそこで多くの経験をする。そして、『これは?』と疑問が生まれる。先生に聞くけど、先生も知らないことがある。すると、自分で図書館などで調べる。分かったことを先生に教えてあげる。先生はきっと、『すごいね、教えてくれてありがとう』と言ってくれるでしょう。家に帰ってそれを話せば、親は喜んで聞いてくれるはずです」。
 そんな経験が、勉強を好きになったり、何かに熱中するきっかけになるそうです。つまり、仁淀川流域の自然に恵まれたこの小学校は、いろんな動機が生まれる場所。
「自然での体験から、『こんなことをしたい』という芽が生まれ、どうすべきかを考え始める。そして、目標を達成するためには、あまり興味のないことでも『勉強しなければ!』と決心できたりするものです」。

article248_04.jpg入学式では、地元野菜などを使った給食が来場者にふるまわれました。(撮影/黒笹慈幾)

わざわざ移住して入学!?

 とさ自由学校に入学するために、わざわざ移住する家族も。この春入学の相良奏太くんとご両親、隆之さんと沙織さんは、東京都から高知市へ引っ越しました。

article248_05.jpg 相良隆之さん、沙織さんご夫妻。息子の奏太くんは昆虫のことが大好きだとか。理想的な教育環境ですね!

「東京スカイツリーのすぐそば、墨田区からの移住です」と沙織さん。仕事は子育てセミナーの講師で、子供の教育について、かねてから思うところがあったそうです。
「正解を覚えさせる教育では、これからの世界に対応できないのではないか。勉強ができるというより、自分で考えて生きていく力を育んであげたいと、漠然と思っていました」。
 そして、小学校に上がるのを機に「その環境を親として作らなければ」と決心。当時看護師をしていた隆之さんも大賛成でした。
「東京暮らしでは、子どもへの『ダメ』が増えてしまうのが親として嫌でした。車が多いから駆けださないで、近所迷惑だから大きな声をださないでとか。子どもが子どもらしく遊べる環境を手に入れたかった」。

article248_06.jpg 休み時間には走らずにいられない芝生の校庭。

 そんなとき、ママ友からとさ自由学校のことを聞き、昨年の8月に奏太くんを3日間のサマーキャンプに送り出します。
「奏太は3日間よく泣いていたようです。でも、ママと離れるのは嫌だったけど、この学校は楽しいといってくれました」。
 相良さん家族は高知のことも大いに気にいり、沙織さんの場合は「オンライン化が進んだので、私の場合はどこでも仕事ができる」ということもあり、東京を脱出。縁もゆかりもなかった高知での生活だけど、不安はまったくなく、いまは期待しかないそうです。
「この小学校には、自分で考えて行動するという環境があります。それこそ、私たち家族が求めていたものです」。

article248_07.jpg いの町の和ハーブ栽培家、松岡昭久さんも新入生を大歓迎!

自ら学ぶ力を

article248_08.jpg 「まっちゃん」こと松原和廣校長。

 とさ自由学校の校長は、釣りキチの松原和廣さん。学校長や高知市の教育長をつとめた教育のベテランです。生徒からは親しみをこめて「まっちゃん」と呼ばれています。松原さんの話によれば、この小学校では教えすぎない教育を探っているようです。
「これまでの一般の小学校で10教えていたとしたら、それを5にして、残りの時間は子どもらが興味を持ったことを自ら学んでいく、という教育にしたい。たいへんなことです、自ら学ぶ力をつけるのは。自然体験というのは、そのための大きなツールになります」。
 自然には、子どもたちを刺激し、何かを感じさせる要素が豊かだと松原さん。
「例えば、学校のそばを流れる勝賀瀬川。こういうきれいな川から教わることはいっぱいあります。これがあれば、教員には教えることがないかも(笑)」。

article248_09.jpg とさ自由学校のそばの勝賀瀬川。

 松原さんは、とさ自由学校では三つのフリー、つまり場所と人と時間の自由を求めているといいます。
「これまでの学校では、教室も教師も授業時間も決められています。でも、とさ自由学校には山も川もある。授業は教室だけのものじゃない。そして教えるのは教師じゃなくてもいい。例えば地域のおんちゃんやおばちゃんなど、その分野の達人に習った方が、子どもたちの感動は大きいのではないでしょうか。そして、子どもが熱中したなら、授業時間が2倍になってもいいんじゃないかと」。

article248_10.jpg 入学式では上級生が楽しいダンスを披露してくれました。表現する喜びにあふれていました。

 先進的な教育方針が、多くの保護者の心をつかみそうなとさ自由学校ですが、子どもたちにとっては純粋に楽しい学び舎。駆けださずにはいられない芝生の校庭や、地場の農産物を使ったオーガニック給食……その魅力は盛りだくさんです。ホームページもぜひチェックしてください。

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(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)

★次回の配信は5月21日予定。
「サイクリングの新潮流、仁淀川の野道をグラベルバイクで楽しむ!」をお届けします。
お楽しみに!

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