2017.01.06高知観光のカリスマがやって来た!

高知観光のカリスマがやって来た!

観光客にもっと来て、楽しんでもらいたい、でもどうやって?
高知県の着地型観光のカリスマ、城西館コンシェルジュの近澤真弓(ちかざわまゆみ)さんが、その手法の一端を披露してくれました。

昨年の12月14日に開催された第5回仁淀ブルー・ブランド化事業ワークショップでは、『仁淀ブルー観光の現場からの証言』と題して講演&トークセッションが行われました。講師は城西館コンシェルジュの近澤真弓さん。ちなみに城西館は高知市の観光ホテルで、創業は明治7年。皇族や各界の名士が利用してきた老舗です。近澤さんは城西館発のオプショナル高知県体験型観光ツアー『とさ恋ツアー』をいくつも開発し、ヒットを連発している注目人物であります。


近澤さんが担当する『とさ恋ツアー』のように現地集合・解散する観光ツアーは『着地型観光』と呼ばれています。対して、主に都会にある旅行会社が出発地から目的地まで参加者を連れて行くのは『発地型観光』。観光客の受け入れ先がツアーの内容を作る着地型観光では、地元ならではプログラムを提供できるのが強みです。
近澤さんは「高知と着地型観光の相性は抜群です」といいます。
「海、山、川に恵まれていて自然豊か。食材の宝庫で独自の食文化もある。地元の食べ物が美味しかった県No.1の評価もあります。人もあたたかいし、龍馬など偉人も多く、それにともなう史跡も魅力的ですから」

article_06402.jpg城西館コンシェルジュの近澤真弓さん。

さて、今回のワークショップの副題は『着地型観光コンテンツ、どう見つけ、どう育てる?』。近澤さんはツアー商品の販売やプロモーションについて手の内を明かしたり、受講者の質問に答えてくれたのですが、この記事では、副題にある『どう見つけ、どう育てる?』に絞って報告します。

近澤流、ツアー商品の見つけ方、育て方

まず『どう見つけ』ですが、近澤さんの答えはシンプルでした。
「頼りは、観光協会さんや地域支援のみなさん、地域おこし協力隊など、地域のことをよく分かっている方々。私にとってとても大切な人たちです」
というのも、城西館コンシェルジュとして『とさ恋ツアー』の業務を担当し始めたころは、高知のどこにどういう素材があるのか全くわからない状況だったと近澤さん。
「なので、『こんなのがあるよ』と地域の人にお声をかけていただいて、現地に見に行って、いろいろと話を伺って、商品になりそうなコンテンツを見つけていくというやり方をしてきました」
「紹介していただいたものをすべて商品にしたいとは思うんですが、それをやるとなかなか大変なので(笑)。ある程度ですね、商品の価値とか、団体向けだとか、個人向けだとかを自分の中でふるいにかけて、商品化しています」
さて、着地型観光のコンテンツを見つけられたとして、それをどうやって商品化していくのか。近澤さんはそのポイントを5つあげてくれました。

1,作りたい商品の『目的の明確化』
2,その『地域ならでは強み』は何か
3,誰のための商品なのか、『ターゲット』は?
4,『観光資源の磨き上げ』。商品に『付加価値』をつける、『既存の商品をアレンジ』する。
5,商品に目を留めてもらうための『販売促進』や『販路』の確保、『情報発信』のしかた。

次に、商品をどのように育てていくのか?
まず基本の、ベースの商品を一つ作ってみるのだと近澤さん。
「最初から飛ばして、あれやこれやと詰め込まない。まずベースになる商品を出して、お客様からの意見を聞きながら修正をかけていって、その地域ならではの商品に育てていくことが大切だと思います。また、ツアーの受け入れ先に無理をさせない。ツアーを実施するほうも無理をしてはいけない。いかに継続していけるツアーにするかが、商品作りでは大切です」
そして具体例をいくつかあげてくれました。要約になりますが紹介していきましょう。

●いの町・トレッキングとウォーキング
いの町観光協会の案内でその魅力を発見し、瓶ヶ森やその周辺の山並みで7年連続開催。ゲストに飽きられないように、季節やコースをちょっとずつ変えている。その季節ならではの草花との出会いや、地元(本川地区)のお母さんたちの手作り弁当などで付加価値を高めている。また、山に詳しい地元の人をガイドにしていて、それもゲストには好評。トレッキング後に、囲炉裏がある秘境の料理屋という非日常空間で懐石料理を味わって、温泉を楽しむ、というふうに、『山登りだけ』というツアーにしていないのが城西館流。

article_06403.jpg瓶ヶ森山頂からの眺め。奥に見えるのは西日本最高峰の石鎚山。

●佐川町・梅花黄蓮(バイカオウレン)見学ツアー
ツアーの提案者が持参したシコクバイカオウレンの花畑の写真を見て、「これ、いける」となった。すでに現地で花を巡るウォーキングがあり、形が出来上がっていて、商品化しやすいのもよかった。2016年からツアー化。歩いて、美味しいものを食べるというのが城西館のツアーなので、食をプラス。今年は昼食に大正軒(佐川町のうなぎ専門店で、高知県を代表する料理屋の一つ)を選び、そのためツアー料金は昨年よりけっこう高くなったが、たくさんの参加申し込みをいただいた。

article_06404.jpg佐川町、牧野公園のシコクバイカオウレン。

●土佐市・鰹節工場見学
高知といえば鰹、高知市からのアクセス良好、見学時間も手ごろということで、とさ恋ツアーでNo.1人気。ツアーを受け入れてくれる鰹節工場のお父さんは、最初はあまり乗り気でなかったようだが、たくさんのツアー客が訪れることでやる気倍増。
「削りたての鰹本節をゲストに出してください」とだけ近澤さんはお願いしていたが、ついにはダシ汁を工場が自発的に提供してくれるように。生産者の顔が見られるのでゲストは安心してこの工場の鰹商品を買う、よく売れるので鰹節工場は一生懸命もてなすようになるし、工場のお父さんのトークも磨きがかがってお客が喜ぶ。と、良いサイクルで人気が高まっていった。
このツアー商品を立ち上げるとき、鰹節工場にお金がきちんと落ちる仕組みをつくり、ツアーの受け入れ先に無理をさせなかったことも上手くいった理由の一つ。

article_06405.jpg鰹節工場見学を解説する近澤さん。

●いの町・SUP体験ツアー
SUP(サップ)とはスタンダップ・パドルボードの略で、水面に浮かべた大きめのボードに立って漕ぐアウトドアスポーツ。清流日本一の仁淀川でのツアーということでまず付加価値がある。それから、城西館の若い客室係にSUPを体験させた。客室係たちはとても楽しかったらしく、SUP体験を宿泊客にどんどんお奨めしていて、それが集客に一役買っている。プロモーションのしかたにも一工夫。水辺が恋しい気候になったら城西館で動画を流すようにしていて、それを見て参加申し込みする人も多い。
また、昼食(バーベキュー)とセットにして販売したことで、さらに人気ツアーに。
団体でも個人でも、「昼食をどこに食べに行けばいいのか? 」というのはけっこうな悩みらしい。

article_06406.jpgSUPとはこんな乗り物(城西館のツアーの画像ではありません)。

●須崎市・手ぶらdeイカダ釣り
非日常を求めるお客様に人気がある商品。なんで高知まで来て釣りをするの? と思うかもしれないが、釣りを求めるゲストはとても多い。
まず、手ぶらで気軽に楽しめる「手ぶらdeちょい釣り」という商品を作ってずっと販売していたのだが、もっと本格的に、というゲストの要望に応えてイカダ釣りバージョンを開発。きちんとしたベースとなる商品を作り、それを継続していくことで、新たな商品と顧客の獲得に至る好例。

着地型観光と地域振興

「ツアー商品作りでは、現地の観光協会などとの連携が本当に大切。私がツアーをやるときは、城西館単独でとは思っていなくて、観光協会などのスタッフも含めて一つのチームとして取り組んでいます。城西館だけではできないんですよ」
着地型観光の商品開発では、地域にある素材や人が宝だと、近澤さんは力を込めました。
「地域の人たちも関わってくれれば、その地域が盛り上がっていきます。そして、ツアーが売れれば売れるほど地域の宣伝になり、地域のファンも増えていきます」
地域と観光業の幸せな関係――近澤さんの仕事の先には、そんな未来があるのだろうなと私は思いました。

◆近澤真弓さんについては、こちらの仁淀ブルー通信記事もご覧ください。
◆城西館 http://www.jyoseikan.co.jp/
◆とさ恋ツアー http://tosakoi.jp/

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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