2021.12.31椿山探訪—学生たちが見た限界集落の風景(最終回)—

椿山探訪—学生たちが見た限界集落の風景(最終回)—

 山深い高知県吾川郡仁淀川町のさらに奥の奥にある集落、椿山(つばやま)を高知大学地域協働学部の学生たちが訪れるこのシリーズ。これまで春から秋にかけて、学生たちは伝統の太鼓踊りを体験させてもらったり、ウナギ釣りに挑戦したり。山暮らしの一端に触れ、その楽しさと厳しさを実感してきた。今回はついに最終回。ひどいときでマイナス15度にもなるという椿山の、冬支度をお手伝いした。

 12月19日、日曜日。この週末は高知県を寒波が襲来し、山間部では積雪もあった。椿山は標高約700m。道は凍ってないか、大雪なのではないかとひやひやしながら向かった。
 が、心配は杞憂(きゆう)に終わった。今回もお世話になる椿山唯一の住民、中内健一さんによると「朝は猛吹雪」だったそうだが、私たちが到着した午前10時半ごろには雪も止み、青空が見えていた。日陰や橋の上などにうっすら雪が残る程度。ただ、やはり山の上だけあって一段と冷え込み、吹く風も冷たい。

article265_01.jpg うっすらと雪が残っていた椿山。

 今回の私たちの目的は、まき割りの手伝いとミツバチの巣箱作り。まきは中内さんの自宅のストーブに使われる。中内さんは先人たちから「米よりも、まきを絶やすな」と常々言われていたそう。まきが無くなることは命に直結する。過酷な椿山の生活を表現した言葉だ。

 この日の訪問には学生3人のほか、NHKエンタープライズ北海道支社制作部、シニア・プロデューサーの田辺陽一さんも同行。
「北海道とは全然違う。こんな山の奥に、人が住んでいるなんて! ここはまるでネパールです」と興味津々だ。
 学生の中では、初めて訪れた前田大我さんが、迫りくるような山の景色に「うわ、すごい!」と驚きの声を上げていた。
 まずは、まきにする大きなスギの切り株を回収する。直径は40cmほど。椿山に入る直前の道沿い、地元の森林組合が伐採した場所から、一つ一つ担ぎ上げて軽トラの荷台に運ぶ。ただ切り捨てられたように見える木も、椿山では立派な資源となる。

article265_02.jpg まきにする切り株を軽トラに積み込む。

 昼食後にまき割りを始める。くさびをハンマーで打ち込み、大きな切り株を割っていく。

article265_03.jpgくさびを切り株に打ち込む。

article265_04.jpg 割れた大きな切り株。

 手頃な大きさになった切り株に、今度はおのを振り下ろす。うまくいくと、パカッと割れる。これが一発で決まると気持ちいい。

article265_05.jpgおのを振り下ろし、まきを割る。

 まき割りは椿山、いや、日本中の山間地ならどこでも、かつて当たり前のように行われていたことだろう。その当時は、日々の労働の一つであってどちらかと言えばやりたくなかったことかもしれない。しかし、この日訪れたメンバーたちは違った。
「まき割りはレジャーになるね」「楽しい!」とワイワイ言いながら、次々まきを割っていく。学生たちは「やっているうちに、暑くなっちゃって」と、冷え込む椿山でいつの間にか上着を脱いで作業をしている。
 トントントン、カンカンカン、パカッ! 静かな山あいに、くさびを打ち込む音、まきを割る音が響く。それぞれ時が経つのを忘れ、作業に没頭した。

article265_06.jpg 作業に没頭し、次々とまきを割っていく。

 まき割りの傍ら、中内さんは伝統のニホンミツバチの巣箱作りを実演してくれた。現在主流の箱型のものではなく、スギの丸太をくりぬいて作る素朴なものだ。

article265_07.jpg 中内さんが作るニホンミツバチの巣箱。右端は使い込まれたもの。

article265_08.jpg 使い込まれたニホンミツバチの巣箱。下の小さな穴からハチが入る。

article265_09.jpg スギの丸太をチェーンソーでくり抜き、巣箱の原型を作る。

article265_10.jpg 巣箱の中は、ノミで丁寧に丸くする。

article265_11.jpg ハチの巣を絞った後のかす。これを巣箱に塗ると、ハチを誘う。

 巣箱に使うスギの丸太は樹齢50年ほど。直径約50㎝、高さは38㎝、胴回りは約120㎝。中に蜜蝋かハチの巣を絞った後のかすを塗り、置いておくと、ハチが入ってきて巣を作るという。これを中内さんは約100個、集落や周辺の山々のいたるところに置いている。自分でもどこに置いたか忘れるほどだとか。中内さんは「木箱で簡単にできるものもあるけど、やっぱりニホンミツバチはこういう丸いやつの方がえいです。それも2、3年置いちょって古い方が、ようハチが入る」と語る。椿山で使われるあらゆる道具には、先人の知恵が詰まっている。

 まき割りの作業は昼食後から、午後3時近くまで続き、大量のまきを作ることができた。中内さんは「本当に助かりました! いやー、(まきを)見ゆうだけでぬくもってきますね」と喜んでくれた。学生たちは、中内さんと記念撮影。最後の椿山訪問は、充実の活動で締めくくることができた。

article265_12.jpg 学生らが割ったまき。椿山の冬には欠かせないものだ。

article265_13.jpg 学生たちと中内さんが記念撮影。中内さんの愛犬、ラッシュも一緒。

 これから本格化する椿山の冬は厳しい。中内さんは作業終了後、昨年の苦労を振り返った。「集落中の水道管が破裂して、参りました。どれも(凍結防止に)毛布を巻いちょったのに!」。かと思えば、子どもの頃を思い出し、「雪がたくさん降ったら、でっかいかまくらを作るがです。中でぜんざいを食べよったですね」と楽しそうに話す。
 椿山で暮らすのは大変な面もあるが、その中には楽しみも確かにある。ウナギの罠を仕掛けたり、太鼓踊りをしたり、ハチミツの巣箱を作ったりする中内さんは、いつも笑顔で明るく、面白そうにしている。かつて中内さんが筆者に語ってくれたことがある。
 「子どものころは、何でこんな所に生まれたがやろうって、親を憎んだこともあります。けど、自分は椿山のことを知り尽くしちゅうき、今はああ、ここに生まれてよかったなって思います」。
 厳しい山暮らしも楽しみ、好きだからこそ椿山に住み続ける中内さん。その生き方には、高知県の過疎高齢化と限界集落の問題を考えるときの、何かヒントがあるような気がしてくる。

 訪問した学生たちはそれぞれ、「椿山に愛着が湧いた。定期的にまた来たい」「椿山はめちゃくちゃ面白い。ここに1人で暮らして、集落を残していこうとする熱意はどこから生まれるかが知りたい」「毎回、行くたびに非日常を感じる。中内さんは自分たちにはない価値観を持っている」と感想を述べた。
 今回で椿山への訪問は最後になるが、学生たちは講義で学べないことを多く勉強できたはず。これからも、椿山をはじめとする高知の山間集落に感心を持ち続けてほしいと思う。

      椿山の空撮動画。 (ドローン撮影/橋田茂)

(高知新聞佐川支局 楠瀬健太)

★次回の配信は1月14日予定。
「体当たり食レポ・・・・女ふたりぐるめぐり3」をお届けします。
お楽しみに!

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