2021.08.13「女性アユ釣り師が友釣りのリアルを実況中継!」第2回「土居川の友釣り体験スクール」

「女性アユ釣り師が友釣りのリアルを実況中継!」第2回「土居川の友釣り体験スクール」

 仁淀ブルーの本家お膝元といってもいい仁淀川町池川地区を流れる土居(どい)川。
 土居川は池川大橋から上流に安居(やすい)川との合流点を経て土居川岩丸橋、安居川富岡橋までが友釣り専用区となっており、多くの友釣り師が竿を出す人気のエリアだ。

7月某日 仁淀川水系 土居川

      土居川 夏休みには遊泳の子供たちでいっぱいになる。

 私は県外から訪れる女性のアユ釣り師の方には、ここが一番入りやすいとおすすめする。その理由は、
1.キャンプ場や公園が河原に沿って複数あり、駐車スペースとトイレが釣り場から近い。
2.岩の間に適度に砂が入っているため、足場がよく、アユがつくポイントもわかりやすい。
3.両岸から木の枝の張り出しが少なく川の上部がひらけているため、竿の取り回しがしやすい。
4.全区間を通じて川の流れが穏やかで、水が青くきれいなので「仁淀ブルー」を体感できる。
5.釣れるアユが美しく、美味しい。
6.帰りに「ひとっ風呂」浴びられる日帰り温泉が近くにある。

 女性釣り師にとっての最大の心配ごとはトイレ。
 私は、あらかじめトイレコントロールを行っている。水分を採る時間帯と量を一定にしておくと、ある程度トイレタイムが決まる。また昼食や休憩時など、トイレに行ける機会があれば迷わず済ませておくことで、長時間にわたる釣りでもさほど心配がない。土居川近辺は公衆トイレが多く、この点でも女性が安心して釣りを楽しめるエリアといえる。

article255_01.jpg 池川地区の公衆トイレのひとつ。内部も掃除が行き届いていてきもちいい。

 アユ釣り時のファッションについて。アユ釣り師は圧倒的に男性が多く、ウエアやタイツ、タビなど身につける物すべてが男性用に作られている。そのため、女性向けの色使いやおしゃれなデザインのものはないので、ここは諦めざるを得ない。カラダを冷やすのは禁物なので、上半身は冬用のハイネックシャツにウィンドブレーカーを重ね着する。見た目には物々しくて暑そうに見えるが、ずっと川の中にいるとこれでも寒いくらいだ。

article255_02.jpg 私はこんなライトスタイルで川に入る。ジョギングウエアに道具を入れるポーチ、日焼けと虫予防のフェイスマスクと帽子があれば充分。

初心者に指南役が必要な理由

 この土居川の友釣り専用区は、ポイントも絞りやすく歩きやすいため、私たちが実施している「アユの友釣り体験スクール」のポイントとして選んでいる場所でもある。
 昨年から始めたスクールの自慢は、これまで「ボウズ」(釣果0尾)で帰った生徒はひとりもいないことだ。
 アユの友釣りは、初心者にとってはハードルが高い。その理由は、まずは道具が高価で種類も多く、全部新調すると数万円から場合によっては数十万円もかかること。加えて釣り方も難しい。何より最初から最後までの細々とした一連の動作を流れのある川の中に立ち込み、ひとりで全てこなさないといけない。これには慣れが必要で、初心者には手取り足取り教えてくれる先生役がどうしても必要になる。費用とテクニック、この二つの高い参入障壁(笑い)をクリアした者だけが楽しめる敷居の高い釣りがアユの友釣りなのだ。

 体験スクールを始める準備は3年前のシーズンから始めた。
 まずは知り合いに体験スクールのモニターとなってもらい、テストを繰り返した。どうすれば初めてでも釣れるか、レンタルに必要な用品、予約の受付の仕方やアナウンス、釣り場の選び方など、さまざまな課題を1年かけてクリア、準備万端整えて「よし! いよいよ始めるぞ! 」と迎えた昨シーズンだったが、コロナがきた。積極的にPRするわけにもいかず、テストマーケティングのつもりで仁淀ブルー観光協議会と自社のWEBサイトにだけ情報を載せた。私のFB(フェイスブック)でもあえて拡散せず、ほんとにこっそり掲載しただけ。すると、意外にもすぐ問い合わせが入ってきた。結果、昨年は38名の方々が体験スクールに参加してくれたのだ。
「一度やってみたかった」「友釣りを始めたい」「子供にいろんな経験をさせたい」「仁淀川の体験メニューを見て興味を持った」などスクール参加者の動機はさまざまだ。カップルやファミリー、定年後の趣味にという方や、すでに友釣りを始めたがいろいろと難しいことがあるのできちんと習いたいという人などなど、年齢を問わない想像以上のニーズがあった。
 昨年は県外が多かったが、今年は龍馬パスポート(高知県内の主要な観光施設や体験スクールで提示するとさまざまな特典を受けられるパスポート)も使えるようになり、県内参加も増えている。情報の入手先は「仁淀ブルー観光協議会のパンフレットで見て」「web検索で見つけて」というケースが多い。その中には「釣りははじめて」という人も混じっている。

アユ友釣り体験スクールの概要

 参加者は体験時の服装を準備するだけ。長袖長ズボンの濡れても良い服装で来ていただき、必要な道具、竿やオトリを入れる引き舟、仕掛け、掛け針、ベルト、タモ(玉網)、アユタビ、偏光グラスはこちらで用意する。
●授業料:大人8,000円、小人(高校生以下)5,000円。
 持ち帰り用の発砲クーラーボックスや障害保険、日釣り遊漁証も授業料に含まれる。
●時間:3時間。
 授業は午前中と午後の2回、1日2組を受け入れる。当日の釣り場は、他の釣り師の邪魔にならない場所で、初心者でもオトリ操作が簡単な浅場で、かつ直近の釣果がよい場所を中心に先生(私と夫)が選んでいる。

article255_04.jpg 友釣り体験スクールの様子。先生役の夫と私が手取り足取りレクチャーをする。

 スクール参加者は、集合場所に到着したとき眼下を流れる土居川の流れを見て「わあ、水がきれい!」と一様に驚く。土居川は仁淀ブルーの総本家だから水の透明度、川全体の佇まい、川べりに展開する池川の町並み、すべてが美しい。「こんなきれいな川で釣りができるんですね」と目を輝かせる。次に長いアユ竿をみて「わー、長い!」「でも軽い!」と驚く。
 友釣りで最も難しいのはオトリの管理で、鼻カン通し、逆さバリの装着などで手間取るとオトリがすぐ弱る。またオトリを送り出してからの竿の操作、糸の張り方ゆるめ方を間違うとすぐに弱ってしまい、野アユは見向きもしなくなる。掛け針には返しが付いておらず(水中での掛かりを優先しているから)、掛かった野アユを慌てて強く引くと、水面上をバウンドしたりする際に針が外れやすくせっかく掛けた野アユを逃がしてしまう。そこでスクールの授業では、生徒には主に糸の「張り方」と「ゆるめ方」を中心に竿の操作法を教えてから竿を預ける。鼻カン、逆さバリ装着などのオトリの管理と掛かった後の取り込みは私たち先生が手伝うことで、初心者でもちゃんと釣れるシステムを構築している。


article255_05.jpg オトリアユにすべての仕掛けをセットした状態。逆さバリで固定され尻ビレの付け根から伸びた錨型の掛けバリに、縄張りを持ったアユが体当たりして掛かる。

初参加の小学生がトップ成績!

 さて。今日は、夏休み始まりの連休で、友釣り体験スクールの日だ。
「どんなお客さんかな」「今日も無事釣ってくれるだろうか」「満足して帰ってくれるだろうか」と、何度やっててもスクール当日はドキドキする。
 今日の生徒は県内在住のOさんとそのお子さん、小学4年生の女の子。私は女の子の指導を担当した。 
「釣りははじめて?」
「ううん、海でアジとか釣る。」
 用意した竿は6.3m、子供用に短いものを選んだが、それでも子供の身長の4倍くらいある。延ばした竿を持ってもらうが、小学4年生の女の子には少しの風でも支えられなくなるくらい重い。
「じゃあ、一緒に竿を持とうか。」
 竿尻を私が持ち、女の子はその上の方を持ってもらう。二人三脚で微妙な竿の操作でオトリを動かし、ポイントを移動させていく。彼女はとても飲み込みが早く、すぐに糸の張り方を習得した。好奇心旺盛でときどき重い竿を私に持たせたまま、周りの石についた川虫を見つけ、石の苔を手で触ったりして遊んでいる。小学生がひとつのことに3時間集中するのは難しい。私は石の話や虫の話、木の話などを織り交ぜ、飽きないよう工夫しながら女の子と交代で竿を持つようにした。
「あの、大きな石の前にお魚さんがいるの、見える?」
「あ、いた!」
 岩の周りをクルクルと回り、侵入してきた他のアユを追い回している様子がよく見える。
「あのアユはね、自分の縄張りを持っていて、他のアユにこれ以上近づくな!と警告したり、ときどき体当たりしたりしているね。釣れるかな?」
「やってみる。」
 女の子は目を輝かせて竿を持った。
 こういうときの子供の集中力はすごい。一生懸命竿を動かし、オトリを野アユに近づかせようとする。私は竿を彼女に任せて少し後ろで見守っていた。
「どうしても石の前に行かない」
 思ったところにオトリを送り込めないのだ。
「じゃあ、オトリを元気なアユに替えてみようか」
 糸を引き寄せ、私は素早くオトリを交換し、再び川に放した。
 今度はすーっと糸を引っ張りながらオトリが泳いでいく。特に何もしなくても、勝手に野アユの方へ近づいていく。
「行ったよ。さあ、掛かるかな?」
 彼女は真剣なまなざしでじっと岩の前を見つめる。
 2度ほど野アユがオトリを追う素振りを見せた。
「あっ、いま手にグルンときた!」
 竿から手に野アユに追われる反応が伝わったのだ。
「そうそう、その調子、もうすぐ来るよ」
 オトリの下側でくるりと反転した次の瞬間、野アユの白いお腹がキラリと光った。
「あ、いま掛かったよ!」
 と声を掛けた直後、野アユはあっという間に下流まで目印を引っ張って行った。
 女の子は重い竿を抱えて必死の形相で耐えている。両手で竿を支えるのが精一杯のようだ。
「さあ、いまから取り込むよ。頑張って、焦らずに。ゆっくりゆっくり竿を立てて」
 私は声を掛けながら、一緒に竿を片手で支え、強く引っ張りすぎないよう徐々に仕掛けを手元に寄せてきた。
「わあ、大きいね。もう少しだよ。ゆっくり」
「うーん」と声を出しながら、女の子は必死に耐えている。
 私は仕掛けの糸をつまみ、オトリと掛かった野アユを空中に引き上げ、タモにいれた。

article255_06.jpg 追い星の美しい土居川の野アユ。

「はぁ、重かった~」
 すぐ横の岩にもたれかかり、女の子は釣れたての野アユが入ったタモをのぞき込んだ。
「わぁ、大きくてきれい」
 青い空と仁淀ブルーの水に映える背ビレの大きな追い星アユだった。追い星というのは闘争心旺盛な野アユの胸に出る大きな黄色の斑点だ。
 この日彼女は3時間で9尾を釣り上げた。これは7月末現在、我が友釣り体験スクールトップの成績だ。

article255_07.jpg 釣果9尾 タモの中で元気いっぱいの鮎。

自分で釣ったアユのおいしさに感動!

 私の会社「鮎屋仁淀川」で販売している友釣り限定の天然アユは、一尾ずつ竿で丁寧に釣り上げるため、鮮度がよく、高級な贈答品として多くの注文をいただいている。あるとき商品を買っていただいた方から、「友釣りってどんな釣りなんですか?」「一度やってみたい」と声がかかり、当初はどちらかといえば顧客サービスモードで(笑い)準備を始めたというのが正直なところ。
 そもそも「鮎屋仁淀川」ブランドのアユ販売を始めたきっかけ、それは私自身が友釣りをしたときのあの感動、「川がメチャきれい」「掛かりアユの引きがスゴイ」「釣りたてのアユはスイカの香りがする」「塩焼きするとほっぺたが落ちる」をお客様にも体験してもらいたいとの想いがあったから。
 仁淀川の美しさ、仁淀川の天然アユのおいしさを知ってもらいたい。それには自分で釣ったアユを自分で食べてもらうしかない、との想いがあったからこそ必然的にスクールに行き着いたといえるかもしれない。

article255_03.jpg仁淀ブルー友釣りアユの塩焼き。自分で釣ったアユなら最高だ。

鮎屋仁淀川の友釣りアユの販売

article255_08.jpg 「仁淀ブルー友釣アユ」セット。釣ったその日に現場で氷締め、夜のうちに真空パックをし急速冷凍し、この状態で出荷する。パックを開けたときのスイカの香りを楽しんでいただきたい。

(『鮎屋仁淀川』経営・西脇亜紀)

★次回の配信は8月27日予定。
「祝、3年連続水質日本一!仁淀ブルーを体感できる穴場はここ」をお届けします。
お楽しみに!

●今回の編集後記はこちら