2021.07.16「女性アユ釣り師が友釣りのリアルを実況中継!」第1回「待ちかねた解禁、長者川」
仁淀川の本流・支流を漁場にアユの友釣りを生業(なりわい)にしている川漁師がいる、それも女性の。奥が深すぎて、その真の面白さがなかなか伝わりにくいアユの友釣りの一部始終を、日本で唯一の(たぶん)女性川漁師・西脇亜紀さんが女性目線の皮膚感覚でレポートする注目の新シリーズです。
今年もこの日がやってきた。
6月1日は鮎師にとって、年明けのお正月のようなめでたい気持ちと、またアユとの真剣勝負が始まる緊張感でなんともいえない高揚感に包まれる特別な日。私がアユ釣りをはじめて7シーズン目の開幕。今年も解禁は同業の夫と共に仁淀川上流の支流、長者川で迎えた。
私は6月から9月のシーズン中ほぼ毎日川に入るので、解禁日だからといって特別に早起きするわけではない。朝はゆっくりと準備をし、なじみのオトリ屋さんに顔を出すと「プロなのに仕事を始めるのが遅すぎる」と笑われた。あちこち顔見知りに声をかけつつ、午前10時ころに長者川に到着した。
じつは仁淀川支流の長者川には友釣りに必須のオトリ鮎を売る店がない。やむをえず別の支流・土居(どい)川が流れる池川地区のオトリ屋さんで養殖アユ2尾を調達した(オトリ用のアユは養殖されたものがほとんど)。2尾買うのは、最初のオトリを何らかの理由で(根掛かりや糸切れなど)失ったときのリスクマネジメントなんですが(笑い)、絶対に1尾しか買わない頑固者もいます(我が夫)。
オトリ屋さんの目の前を流れる土居川もアユ釣りの名場所、今年もたくさんの釣り人がすでに川の中に立ち込んで竿を出していました。
長者川には友釣り専用区が4カ所、森・川渡・実間・長者に設けられています。7月14日まではこの区間では友釣りしかできない規制区間で、ここ以外ならば「シャクリ漁」といって水中を水鏡で見ながら短い竿から伸ばした糸の先につけた針でアユを引っかける漁法も許される。シャクリ漁が入ると友釣りはどうしても分が悪いので、できれば友釣り専用区に入りたい。
いろいろ下見をした中でアユの魚影が多く見えた、森地区の友釣り専用区の一番下流側に入ることにしました。対岸に釣り人がひとりすでに入っていたけれど、この場所ならはす向かいにお互いが並ぶカタチになるので、気にならなかった。
朝早くから竿を出さないのには理由があります。解禁日の6月1日はまだまだ朝夕肌寒さが残るので水温も低い。水温が低いとアユの活性が落ち、高いと活性が上がる。あまり高すぎても元気がなくなる。友釣りは野生のアユ(野アユという)の目前にオトリを送り込んで、野アユの縄張り本能にスイッチを入れる釣法なので、野アユの活性が高くないと具合が悪い。晴れならば10時ころから徐々に水温が上がり始め、アユの活性が上がり、掛かりも良くなるので、ゆっくり下見をしながら時間つぶしをしているということもできます。
「よし、ここにしよう」
下見を終えて私と夫が竿を出したのは友釣り専用区の最下流で、歩道橋の上流側の毎年何度かいい思いをさせてもらう場所。ここならばアユがつく大石や、オトリを運ぶ手順、川渡りのルートにも悩まない場所で釣れ筋もすべてわかっています。
ここで友釣りの手順を説明しましょう。
1.竿に仕掛けをセットして
2.錨(イカリ)針と呼ばれる4本の針が束ねられた掛け針を仕掛けの先端につける。
3.腰に差したタモ(玉網)に養殖のオトリを移し、親指と人差し指でオトリの目を塞いで暴れないようにして、
4.薬指と小指で腹を押さえ、オトリに鼻カンを通します(オトリアユはこの鼻カン経由で仕掛けにつながる)。
5.最後に尻針を打ち、錨針がオトリの尾ビレから1~2cm後方にぶら下がるようにする。
毎年解禁日はこの鼻カンを通す瞬間が一番緊張する。失敗するとオトリを弱らせてしまい、釣果に大きく影響するからです。次には、かかったアユをうまく水面上に抜いて、タモでキャッチできるか、アユはどのくらいの大きさに成長しているか、そして、いちばん肝心の「釣れるか?」、いろいろな不安と期待が交錯します。
「よし、今年もお願いね。」
そっと手で送り出し、仕掛けについた目印をじっと見ます。
「さあ、釣れるかな」
オトリの泳ぎに連動して、スイっと目印が下流から上流に向けて引っ張られる。
「よし、よし、元気、元気」
解禁日は釣り師にいじめられていないので、縄張りをもった野アユがいればすぐに掛かる。
ところが今年は反応がない。
「あれ? やっぱり先行者がいたかな?」
このポイントに朝早くから誰か別の釣り人が入っていたら、やる気のある野アユはすでに釣られたあとなので、反応が渋くなる。オトリの尻ビレに刺した尻針が外れていないか確認する。尻針の先には錨針が吹き流しのようにセットされているが、これが外れていると、野アユが縄張りを守ろうと体当たりしてきても錨針にうまく掛からないから尻針は常にチェックしないといけません。
「大丈夫、もう一度」 同じポイントに竿を慎重に操作してオトリを送り込む。オトリが水の流れになじみ、落ち着いたところで「トン!」という軽い震動が竿から手に伝わってきた。と同時に、道糸につけた目印が下流から上流に向けてスーッと走った。
「あれ? 追われたかな?」
オトリの周りに他のアユがいると、オトリの動きが微妙に変化する。しかし、今の動きは追われたというより、一緒について行ったように感じる。
「群れアユか。」
まだ縄張りを持たず、群れになって泳ぐアユが近くにいると、オトリは群れに飛び入り参加して(笑い)泳ぐことがある。その場合は一緒に泳いでいるうちに掛かるので、しばらく様子をみる。
「ひだり、みぎ。奥にまわって、上(かみ・上流側のこと)」
オトリの動きに注目する。
「掛かりそうだけどなぁ」
今日は根気戦になりそうだと思いながら、空を見上げる。
今までは、県外にいたときも仁淀川をホームにしてからも、解禁日は曇り空の日が多かった。でも、今年はスカッと晴れて、青空に白い雲が浮かんでいる。
釣り仲間が「こんなに最高の解禁日は近年なかった」というほどいい天気だった。
5月の末に大雨が降って、長者川は茶色い濁流になるほど増水した。解禁日は増水か、濁りが残るかで釣りができない可能性も、と心配していたのだが、水量やや多めで天気は晴れという絶好のコンディションです。
「釣れるはず、なんだけどなぁ」
今年は例年に比べ稚魚の遡上数が少ないという話が耳に入っていたので、もしはずれ年ならアユ出荷の予約注文分に追いつくのには時間がかかりそうだなと心配ではあった。
ツイッと目印が下流側に引っ張られた。
「あれ? もしかして…」
オトリが単独で泳いでいる時にはない目印の動きだ。そっと竿を持ち上げて、オトリの鼻先を上げてみる。すると、一気に下流に向かって目印が動き、仕掛けをサーっと引っ張って行った。
慌てて体制を整え、足に力を入れて竿をグッと持ち上げる。
「やっぱり掛かってたんや」
オトリが水面から顔を出すと、その後方で掛かったアユの背ビレが水を切ってしぶきを上げた。
「あっ! 引っ張られる!」
片足が浮き、すごい力で竿を引っ張る。竿の弾力を使って、アユの泳ぐ方向に合わせて力を抜き、一気に抜き上げる。空中にキラキラ水滴を飛ばし、オトリと一緒に今年第1号の野アユが飛んできた。腰からタモ網を素早く抜いて、2尾(オトリと野アユ)のアユをしっかりキャッチした。やれやれ。解禁の長者川にしては大きめの、よく肥えた19cmのアユだった。
結局、解禁日の釣果は27尾。時間をかけてゆっくりとしたペースで釣り進んで、時速4.5尾はまあまあのペースだ(私と夫はプロの川漁師なので時速何尾かを常に意識している)。
長者川の野アユは追い星(ボディの側面の両側にでる黄色の大きな斑点)の黄色が濃く、香りも強い。
こうして夏の間、雨の日も風の日も、大水が出ない限りほぼ毎日私たち夫婦の友釣りの日々は続きます。次回のレポートは7月後半のハイシーズンに突入した池川地区、仁淀ブルーの総本家・安居川の友釣りのリアルをお伝えする予定です。
(『鮎屋仁淀川』経営・西脇亜紀)
★次回の配信は7月30日予定。
「新しい仁淀川の遊びかた「ザブ」が登場!」をお届けします。
お楽しみに!
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