2021.07.02椿山探訪—学生たちが見た限界集落の風景(第2回)—

椿山探訪—学生たちが見た限界集落の風景(第2回)—

 山深い高知県吾川郡仁淀川町のさらに奥の奥にある集落、椿山(つばやま)を高知大学地域協働学部の学生たちが訪れるこのシリーズ。今回は6月13日、2回目となった椿山訪問の様子をレポートする。イノシシ猟にハチミツ採集など山暮らしの生業に触れ、地域伝統の踊りも体験させてもらった学生たちが見た限界集落の風景とは。

 標高約700mの斜面に、古い家々が並んでいる椿山。3月に訪れた前回とはまた違い、より山々の緑が濃くなり、むんとして、生き物たちのうごめきが聞こえてくるようだ。
 まずは集落の全景を見渡せるスポットへ。集落の中心部を通り過ぎた外れ、墓石が立ち並ぶ墓地を抜けた先にある。道中は険しい。坂道を少しずつ下り、急な斜面のわずかに平らになった場所を突っ切り、草をかき分けかき分け進む。「小学生以来ですよ、こんな山道歩くの。まさか大学生になってこんな道を通れるなんて!」。学生の1人、愛媛県愛南町出身の田中李奈さんがこわごわ進みながら、ちょっと弾んだ声で言う。

article252_01.jpg 椿山集落の全景。

 「すごい…」。椿山を見渡せる場所にたどり着き、学生たちからはため息のような声が出た。よく限界集落を形容する表現に「山に”へばりつくように”家々が並んでいる」というのがあるが、椿山の景色はまさにそれ。過酷な環境の中でも、生活の営みを続けてきた先人たちの暮らしが浮かび上がってくるようだ。
 来た道を集落の方へ戻る途中、道沿いの斜面の上に椿山唯一の住民、中内健一さんを見つけた。イノシシ駆除のための罠を仕掛けていた。

article252_02.jpg イノシシの罠を仕掛ける中内健一さん。

 山での暮らしは作物を荒らす動物との戦いだ。自作の罠を仕掛けながら、「いやー、イノシシが悪さをするんでね。こうやって通り道に仕掛けちょくんです」「この間、ついに椿山にもシカが出たんですよ!」と笑顔で話す中内さん、苦労話をしているのにどこか楽しそうでもある。
 罠を仕掛け終えた中内さんは私たちを先導しながらゆっくりと車で進むが、途中何度も停車し、自ら建てたニホンミツバチの巣箱小屋やユズの苗木を植えている畑、イノシシの罠などを作る秘密基地のような作業小屋を見せてくれた。自らの山暮らしの様子を語るときの中内さんは、いつも生き生きとしている。山で暮らすための生業をとことん楽しんでいるからこそ、不便な場所で生活することも苦にならないだろうことが伝わってきた。

article252_03.jpg中内さん自作のニホンミツバチの巣箱と巣箱小屋。

article252_04.jpg まるで秘密基地のような作業小屋で自作の罠の説明をする中内さん。

 この日は、6月20日に椿山百花堂(氏仏堂)で奉納される太鼓踊りの練習の日だった。平家の落人が集落を開いたとも伝わる椿山。太鼓踊りも、先祖の武将らの霊を慰めるために始まったとされる。「新池川町史」(2002年発行)によると、美しい衣装や被り物を着て踊る中世の民族芸能「風流」、空也上人が始めたとされる「踊念仏」、室町時代に行われた庶民的な歌謡「小歌」が組み合わさって伝わったものだという。
 椿山では直径約65センチの太鼓を抱え、饅頭笠を被った踊り手たちが円になって舞う。両手に持ったバチで太鼓を打ち鳴らしながら、「いざーおーどろー。なーんまーいだー」などと独特の節回しで歌い、躍動感がありながら厳かで神聖な雰囲気が漂う。歌詞には夜這いを思わせる表現など、艶っぽい要素も含まれている。
 椿山に定住する住人は現在、中内さんだけだが毎年4回奉納する太鼓踊りは定期的に帰ってきている出身者や椿山にルーツがある人たちが踊り手になり、存続させている。

article252_05.jpg集会所に保管されている太鼓を氏仏堂まで運ぶ作業を手伝う学生。

 学生たちは氏仏堂の境内で行われる練習を見学させてもらうだけ、のはずだったが、踊り手の1人、両親が椿山出身の瀧本紘平さんが突然、男子学生2人に「ほい、これ」と太鼓とバチを手渡した。受け取った薬師寺康平さんと仲田和生さんはきょとんとしながらも太鼓を抱える。そして特に踊り方の説明もなく、いきなり練習が始まった。

article252_06.jpg 太鼓踊りの練習。

 椿山の太鼓踊りは、リズムを刻みながら歌いつつ円を描くように動き、ときにバチを頭上に掲げたり太鼓を横に振ったりと結構忙しい。まったく何の準備もなしに飛び入り参加した学生2人は戸惑いながら、見よう見まねで必死に踊りについていく。そのうち、だんだんと慣れてきて自然と体が動くようになっていった。

article252_07.jpg 少しずつ様になっていた仲田和生さん(左)と薬師寺康平さん。

article252_08.jpg 田中李奈さんは鉦を担当した。

article252_09.jpg 練習後に椿山出身者と交流する学生たち。

 数曲踊り、すっかり汗だくの学生2人は「全身使うし、見た目以上にキツイ……」。ただ貴重な体験ができ、充実感たっぷりの表情。「このリズムや歌をいつ誰が考えたんやろう」「歌詞の意味がもっとわかったら面白そう」と、何百年と続く伝統の踊りを見て好奇心がかき立てられた様子だった。
 学生3人は2回目となった椿山訪問で、山で暮らすことの厳しさと面白さを知り、脈々と受け継がれている伝統文化にも直に触れた。最後に、学生の1人が目を輝かせて言った。「毎回、ここに来るとタイムスリップした気分になるんですよね」。
 まだまだ奥が深く、訪れるたびに新鮮な出会いがある椿山。次回の訪問では、椿山に泊まり中内さんと一緒に目の前の椿山川でウナギ捕りに挑戦する予定だ。

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(高知新聞佐川支局 楠瀬健太)

★次回の配信は7月16日予定。
「仁淀川アユの友釣り通信 長者川編」をお届けします。
お楽しみに!

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