2021.03.05「越知ぜよ!熱中塾2月」全力集中レポート(後編)

2月19日に配信した「越知ぜよ!熱中塾2月」全力集中レポートの、今回は後編。2月13日(土)に越知町民会館で行われた第4学期の授業の様子をお伝えします。この日の先生は「味の外交官」こと出張料理人の工藤英良さんと写真家の藤田修平さん。工藤さんは10年間にわたりカナダ、中国、フランスの日本大使館の公邸料理人として和食を通じて日本の外交をサポート、帰国後は出張料理のプロフェッショナルとして活躍、併せて飲食店舗のプロデュース、料理講習会、メニュー開発、講演会など幅広く活躍をされています。藤田さんは音楽雑誌やCDジャケット、ファッション雑誌、グラビアアイドルなどの仕事を中心に活躍するポートレート撮影のプロフェッショナル。食と写真のプロフェッショナルふたりがこの日、「越知ぜよ!熱中塾」(以下越知熱中と表記)の生徒たちに伝えたかったことは何だったのでしょう。
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1時限目
1時限目の授業は写真家の藤田修平先生。授業の開始は午後1時からだったのですが、先生は午前10時半に会場の越知町民会館に到着、休む気配もなく、あらかじめ東京から送ってあった大きな荷物を慌ただしくほどき始めました。いったい何事が始まるのかとスタッフ一同見守ること1時間半、会場の一角に出現したのはごらんのような即席のミニスタジオでした。

実はこの即席スタジオ、実際のポートレート撮影の現場の雰囲気を生徒たちに体験してもらうにはどうしたらいいか藤田先生がいろいろ考えた末に思いついたアイデアで、このあと実際に生徒さんたちを被写体にしたポートレート撮影会が行われました。

藤田先生によると、ポートレート撮影の現場でいちばん難しいのは、「よそ行きではない、その人がいちばん輝く表情をどうやって引き出すか」で、そのために「撮影者と被撮影者の間に、一瞬の心の交流を起こすことが必要」なんだそう。
確かに撮影の間、相手に応じてさまざま違った声かけを工夫している様子がわかります。
若い子にはちょっと早口の若者言葉で、お年寄りにはゆっくり聞き取りやすい大きな声で、まるで古い友人のような巧みな口調で語りかけています。すると被撮影者の表情がまるで百面相のようにくるくる変わっていきます。その様子がリアルタイムで会場の大型モニター画面に映し出されると、他の生徒たちから「わっ、かわいい!」とか「あっ、今の表情最高!」とか声がかかり、会場の雰囲気がどんどん盛り上がっていくのです。
実は授業の冒頭で、藤田先生が今まで仕事で撮ってきた人物たちの写真を披露してくれたのですが、そのラインアップのすごさに、生徒やスタッフ一同声をのみました。
ミック・ジャガー、ビル・ゲイツ、アーノルド・シュワルツネッガー、ポール・スミス、キース・へリング、忌野清志郎、三浦雄一郎、隈研吾、滝川クリステル、井ノ原快彦、林や木久扇、林家正蔵、さかなくん、ロバートキャンベル、葛西紀明、ピーター・バラカン、池上彰などなど(敬称略)・・・・
どの有名人もごく自然な表情で、藤田さんのカメラの前で心を開いたことが伝わってくるステキな写真ばかりです。なるほど、これはすごいことです。
目の前で次々と披露されるプロのワザを見ながら感じたこと。それは、ポートレート撮影には、カメラ機材を扱う技術だけではなく、声かけや身振り手振りを駆使した総合的なコミュニケーションのスキルが必要なのだということです。そしてポートレート写真家は撮ることそのもので、被写体になった人たちを元気にすることができる特殊能力者であると思いました。
◆この日の授業に参加した越知熱中の生徒、スタッフ全員のポートレート(撮影/藤田修平)

2時限目
2時限目の授業は出張料理人の工藤英良先生。10年間にわたり海外の日本大使館に勤務、そこで行われる各種レセプションで日本料理を提供する仕事を通じて、日本の食文化の普及に貢献してきた人です。
海外の日本大使館で料理人として勤務するなんて、海外志向の強い料理人にとって、夢のような就職先だと思ったので「どうしたら公邸料理人になれるんですか?」と聞くと、「外務省や現地の大使館で公募が行われるのでそれに応募すればいい」と教えてくれました。意外にもチャレンジの機会は開かれているんですね。
さらに「赴任地が決まって現地で最初にやることは何ですか?」の質問には、「自転車を買って、町をぐるぐる回って市場やレストランの様子など現地の状況を偵察します」という答えが返ってきました。なんだかその情景が目に浮かんできます。工藤先生が外国勤務をエンジョイしていたことが伝わってきますね。

藤田先生が1時限目の授業を行っているとき、工藤先生は越知町民会館の2階の厨房にこもって高知の食材を使った出張料理を作り、2時限目の授業でそれを公開・試食させてくれました。
採用された高知の食材は、須崎産のカツオ、ミョウガ、葉ニンニクのヌタ、佐川町産のフルーツトマトに越知町産のブンタン。ごらんのようにいかにもおいしそうな盛り付けの熱中プレートに仕上がりました。試食会でも生徒たちから「おいしい」「おいしい」の声が続出で、工藤先生も満足そうな「ドヤ顔」をされていました(笑い)。
出張料理のかなめは、現地の旬の食材を見分ける目と、臨機応変、現場主義の料理テクニックなのだなあと、実感しました。


課外授業と視察
さて。じつは工藤先生の授業はこの日だけでは終わりませんでした。授業翌日に急きょ、帰りの飛行機の時間までを使って、佐川町のフルーツトマト農家と夜須町のスイカ農家を訪問して課外授業兼視察を行ったのです。
どちらの農家もオーナーが越知熱中の卒業生だったことが縁で、この日の訪問先に決まりました。


◆トマトハウスナカムラ
https://www.tomatonakamura.com/
越知熱中の卒業生である「トマトハウスナカムラ」の中村陽介さんは東京の大学で美術を学んでいたのですが田舎暮らしに憧れて佐川町に移住、約2年間の農業研修を経て、平成26年に農園を始めたというちょっと変わった経歴の持ち主。ここではフルーツトマトなど24種類のトマトを栽培しています。若い農園オーナーの中村さんは工藤先生の課外授業でどんな刺激を受けたのでしょうか。
工藤先生の次の訪問地は香南市夜須町にある「江本農園」。越知熱中の卒業生が営むスイカ農園で「アンテナスイカ」のブランド名で全国に広く知られています。この農園の特徴はスイカのオフシーズンの冬や春にも甘くて香り高い小玉のスイカをハウスで生産し、通販で全国出荷していること。また、オーナーの江本美江さんはたくさんのフォロアーを擁する「スイカ屋の女房blog~高知家の”はちきん”やきねえ~」も運営し、普段の情報発信でアンテナスイカ・ファンをしっかりとつなぎ止めている近代的な経営戦略を展開していることです。


◆スイカ屋えもと
https://suikaya.buyshop.jp/
〇課外授業の後日談
トマトハウスナカムラのフルーツトマト、江本農園のアンテナスイカの視察後、工藤先生から「出張料理の際の食材として採用を検討します」といううれしいお知らせをいただきました。
料理人と生産者が直に交流することで、情報を共有し、互いを刺激し合い、共にリスペクトする。そういう前向きな関係を築くきっかけを作ることも「熱中塾」の役割の一つだと考えてもいいのではと、この日の課外授業を見ていて感じたところです。
(取材/大鳥愛、写真/西村大樹)
★次回の配信は3月12日予定。
「仁淀川支流の山里で栽培・収穫される『和ハーブ』とは?」 をお届けします。
お楽しみに!
●今回の編集後記はこちら