2019.11.08仁淀川にベストな乗り物かも! パックラフトとは?

仁淀川にベストな乗り物かも! パックラフトとは?

 カヌー(カヤック)にはじまり、ラフトボートやSUP(スタンダップパドルボード)と、川下り用ボートには様々なタイプが登場してきました。そしていま、仁淀川を楽しむのにベストなボートがじわじわと認知されつつあります。それが「パックラフト」。その魅力をベテランリバーガイドが紹介します。

 日本で一般的な川下り用ボート(カヤックやカヌー、ラフトボートなど)はどれも優れているのですが、それぞれに「長所であり、短所でもある」があります。
 例えば
 ●急流では抜群の性能だが、使いこなすには練習が必要。
 ●頑丈な船体だが重たく、車庫ぐらいの収納スペースも必要。
 ●組み立て式カヤックなのでコンパクトに収納できるが、組み立て方はちょっと煩雑。


など、「でもなあ」と二の足を踏ませる何かがあるのです。
 そんな「性能の矛盾」の多くを克服したのがパックラフト。今世紀初めに米国で冒険用の道具として誕生し、日本には約10年前に上陸しました。

浅尾沈下橋付近で取材しました。

 パックラフトは「川下り入門」に最も適したボートだといわれています。そして越知町から下流の仁淀川も、「川下り入門」をやさしく受け入れる流れ。川面での自由を望むなら、「パックラフト×仁淀川」というのは理想的な第一歩といえるでしょう。

article198_01.jpgパックラフトで下る仁淀川。

 今回は、仁淀川と同じく高知県内の清流「吉野川(大豊町)」でパックラフトツアーをしているリバーガイド・藤井勇介さんに仁淀川までご足労いただき、その魅力を語ってもらいました。

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■藤井勇介さんプロフィール
2004年から吉野川の激流「大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)」でリバーガイドとして活躍。大手ラフティングツアー会社勤務を経て、2017年冬に川下りツアー会社「THE BLUE EARTH(ザ・ブルーアース)」を大歩危小歩危で開業。かつては陸上の十種競技の選手で、優れた体力と運動神経の持ち主。そして田舎暮らしの達人でもある。

藤井:パックラフトはいわば一人用のラフトボートです。空気で膨らませて使います。初心者でも扱いやすく、冒険に使われるほどの高い性能も持っています。そして川下りのボートとしてはダントツに軽く、コンパクトに収納できます。

article198_03_1.jpgシートや背もたれなど付属品をつけたまま、ざっとたたんだ状態のパックラフト。きちんとたためばもっと小さくなる。
article198_03_2.jpg収納用リュックサックにパックラフト本体や付属品、パドルをまとめている。このときは無精して、4分割できるパドルを2分割しただけで押し込んでいるが4分割すればリュックサックにきれいに収まる。

article198_04.jpg広げたパックラフト。

article198_05_1.jpg付属品のこんな袋を使ってパックラフトに空気を入れる。手押しポンプより軽いし、故障知らず。まさに原野の冒険での必要性から生まれたボートだ。
article198_05_2.jpgとはいえ、電動ブロアを持っていれば、あっという間に空気が入る。
パックラフトを膨らませる様子。

article198_06_1.jpg空気が入ったら川に浮かべ、水をかける。川の水で冷やされて船体が少ししぼむので、追加で空気を入れます。
article198_06_2.jpg仕上げは口で空気を吹き込みます。

藤井:このパックラフトはホワイトウォーターモデル(急流下り用)なので強い素材でできているのですが、それでも重量は2.7kg。ちなみにパックラフト以外の一人乗りカヌー(カヤック)の重量は15~30kgです。

article198_07.jpg2艇持っても余裕。

藤井:軽くてコンパクトにたためることから、海外では約20年前から冒険に使われてきました。例えば自転車(マウンテンバイク)でアラスカの原野を走りながら、川や入り江に行く手をふさがれるとパックラフトを膨らませて、それに自転車を乗せて漕いで入り江を横断するなどです。

article198_08_1.jpgこのパックラフトには、空気で膨らませる座椅子と足置きが付属。乗り心地は快適です。
article198_08_2.jpg船底には水抜き穴が。大波をかぶっても、船内の水はここから排出されます。

藤井:船体ですが、鋭利な石やガラス、川底の針金や鉄筋などに強くぶつかるとパンクすることがあります。しかし越知町から下流の仁淀川だと、川の石や岩は角が取れて丸いものがほとんどなので、パンクの可能性は少ないでしょう。たとえパンクしても、パックラフトに付属する修理キットやダクトテープで簡単に修理できます。
 それから、浅瀬で船底をこすりながら下っていくのはおすすめしません。パックラフトは軽いので、浅すぎる川面でのポーテージ(パックラフトを担いで河原を歩くこと)は容易です。

船底をこすらないように、パックラフトが浮かんだ状態で乗り込みます。

藤井:パックラフトの安定性はとても高いです。初めて漕ぐ人でも、「ひっくりかえりそう」と不安になることは少ないでしょう。そして、ホワイトウォーター(激流)用カヤックに近い操作性の良さがあります。

これぐらい小回りがききます。

藤井:操作性がよい、つまり右に左にと回転しやすいのですが、まっすぐに、行きたい方向に漕いで行けるようになるのも、パックラフトでは簡単です。仁淀川のように穏やかな流れだと、初心者でも早い人は10分で、かかっても30分あれば、思い通りに漕いで行けるようになります。なじみやすさは、川を下るボートではナンバーワンでしょう。

〈川下りの基本その1〉である、「岸から離れて川の流れに乗って下り、流れから離れて
岸に戻ってくる」というテクニックも、パックラフトならあまり苦労なく身につく。

藤井:パックラフトでは、バウ(船首)やスターン(船尾)の上に荷物を積めます。キャンプ道具を積んで、河原でテント泊しながら数日間の川旅を楽しむ人もいます。

article198_09.jpg船体に防水ファスナーを装備したモデル。船体チューブの内部に荷物を入れられる。アユ釣り道具も入りそうです。

藤井:とても乗りこなしやすいパックラフトですが、そこにはマイナスの面もあります。あまり練習しなくても「そこそこ」漕げるようになるので、激流にチャレンジしやすい。川の危険性についての知識や、緊急事態での対処方法などのスキルが身につく前でも激流を下れてしまう。それはあまりよくないです。

article198_10.jpgベテランリバーガイドの藤井さんは、たとえ今回の取材のように簡単な川下りでも安全のための備えは怠らない。ライフジャケット(救命胴衣)やヘルメットはもちろん、トラブルに対処するための道具(救助用ロープ、カラビナなど)やケガをしたときのためのファーストエイドキットを用意している。

藤井:川という自然へのリスペクト、怖れを忘れてほしくないところです。でも何を怖れたらいいのかわからないですよね。なので、カヌー(カヤック)での川下りが未経験の人は、いきなり一人でパックラフトを始めるのではなく、私がやっているようなパックラフトツアーに参加してみるのも一つのアイデアです。それに、大手のインターネット通販での取り扱いがないなど、パックラフトの購入はまだ一般的とは言いにくい状況ですしね。

article198_11.jpg穏やかな川面では、流れに身を任せ。

藤井:少し厳しい話もしましたが、気軽な癒しの道具としてもパックラフトはいいものです。乗り心地は快適で、ソファーに包み込まれるみたい。静かな水面に浮かんで空を見るのもいいし。木陰の水面で昼寝したり、読書したりするのも最高です。仁淀川のように美しい川に浮かぶだけでも、それは非日常ですから。

◆藤井勇介さんの川下り会社「THE BLUE EARTH(ザ・ブルーアース)」では、吉野川(高知県大豊町)でのパックラフトツアーをしています。来年には仁淀川でのパックラフトツアーも開催予定。また、「THE BLUE EARTH(ザ・ブルーアース)のインスタグラム」ではパックラフトの川下り画像がたくさんアップされています。こちらもご参考ください。

FRONTIER……藤井さんが使用しているパックラフトのメーカー

◆パックラフトのメーカーはいくつかあるが、すべて海外の会社。日本での販売代理店は、サニーエモーション(http://sunnyemotion.com/)、元気商会(http://www.genkishokai.shop/)、モンベル(https://www.montbell.jp/)などまだ少ない。海外のパックラフトメーカーに直接注文して購入するカヌーイストも多い。

★次回の配信は11月15日予定。
次回はアンコールシリーズ。2017.09.08配信の”仁淀ブルーに誘われて~私の高知移住日記 『ハーブ農家編』”と、「その後の近況」をお届けします。
お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら