2019.10.11シーズン終了直前、まるで格闘技のような仁淀川本流の大アユ釣りの現場に密着!

シーズン終了直前、まるで格闘技のような仁淀川本流の大アユ釣りの現場に密着!

アユの友釣りは数ある釣りの中でも難しい釣りの筆頭に挙げられることが多いのですが、その釣りの現場を覗くだけならそれほどハードルは高くありません。秋の気配が漂ってきた9月末、青空が出たのを見計らって仁淀川町寺村地区の仁淀川本流で大アユ釣りを楽しむ佐川町在住の西脇さんご夫妻に同行取材をお願いしました。

 アユ釣りのハードルが高いのにはいくつかの理由があります。まずは、エサ釣りでもルアー釣りなどの疑似餌釣りでもなく、生きたオトリ鮎を泳がせてそれにアタックしてくる野生アユを掛けバリに引っ掛けて釣るという極めて特殊なシステムなので、繊細で高度なテクニックが要求されること。
 そして友釣り用に開発された専用の道具(全長9mに及ぶ長い竿、掛かったアユをすくい、オトリに鼻缶や掛けバリを装着する際に必要な玉網、釣り人の下半身を岩や冷水からガードするネオプレーン製の専用タイツと足袋、生きたアユをキープするための引き船と呼ばれる移動式コンテナなどなど)の種類が多く、しかも高価なため(高級な竿になると20~30万円以上のものもある)気軽に始めるというわけにはいきません。つまりアユの友釣りは参入障壁が極めて高い釣りなんです。しかしいったん足を踏み入れてみると奥が深く、知的で動的で劇的でさえある(笑い)素晴らしくバランスのとれた自然体験型レジャーといえます。
 今回はその神髄を少しでもお伝えできたらと思い動画を多用して現場の臨場感を味わっていただきます。アユの友釣りのメカニズムは7月26日配信の仁淀ブルー通信「女性アユ釣り師に訊く、友釣りってむずしいですか?」でお伝えしてあるのでそちらをご覧ください。今回はそのときにご登場いただいた女性アユ釣り師・西脇亜紀さんと、現役アユ職漁師のご主人・西脇康之さんの仕事場に同行させていただきました。

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仁淀川の中流域、仁淀川町寺村地区を流れる本流を林道から見下ろしたところ。
河原までは急な踏み跡道をおっかなびっくり降下します。

article195_02.jpgはるか上の林道から10kg近くある重いオトリ缶を背負って急坂を下る西脇康之(やすし)さん。
西脇康之さんは6月から10月半ばまではアユの職漁師として仁淀川流域の本・支流で釣りをし、それ以外の季節は自伐型の林業家として生計を立てている。奥さんの亜紀さんと二人で立ち上げた「鮎屋仁淀川」ブランドを通じ、自ら釣った”釣りアユ”を京都の料亭や「かわの駅おち」で販売しています。

article195_03.jpg西脇亜紀さんはこの出で立ちで川まで降りる。アユの友釣りは道具が多いのでご主人と自分の引き船と昼食を入れたクーラーを背負う。

 林道に車を停め、身支度を整え、必要な道具をすべて背負い、両手にぶら下げて急な踏み跡道を辿り川まで到達するのに20分近くかかりました。途中、滑りやすい個所や岩場などがあり慎重に歩を進めなければならなかったので息が切れましたが、いざ河原に降り立ってみるとどうでしょう。周囲の峡谷は緑にあふれ、その上に真っ青な秋空が広がり、足元には透明な水が瀬音を立ててほとばしり流れるそこは別天地、まるで極楽のようでした(行ったことないけど)。「いま、ここにいるだけで幸せ」「このまま天国に行ってもいい」そんな気持ちになります(笑い)。

article195_04.jpg川原に降り立つとすぐオトリアユを引き船(移動式の活かし水槽)に移し、仁淀川の水と水温に慣れさせる。
仁淀川本流の広大な河原に降り立つ。清冽な水の「仁淀ブルー王国」のど真ん中に身を置くだけで
幸せな気持ちになる。

article195_05.jpg仁淀ブルーの透明で清冽な水は見ているだけで、足を浸しているだけで幸せな気持ちになる。
仁淀ブルーの透明な流れ。
大河のど真ん中に立ち込んで竿を操作する西脇亜紀さん。激流の中、膝上くらいの深さまで入って
大アユのポイントにオトリ鮎を送り込む。瀬音と映像でその臨場感お楽しみください。

article195_06.jpgこの写真を撮った直後に康之さんに大物が掛かった。

 ふたりが思い思いのポイントに入って1時間ほどたったころです。私から50mほど上流のきつい流れに立ちこんでいた西脇康之さんの竿が大きく曲がりました。竿を立てて、掛かったアユが下流に下らないように必死に持ちこたえながら激流の中で踏ん張っている。「うー!」とか「くくっ!」とかいううなり声が康之さんの口から漏れてくる。釣れてうれしいはずなのに苦しそうな表情。なんだか格闘技を見ているようです。

康之さんの竿に大物が来た!
玉網の中に入っていたのは?
どうです、立派なアユですね。

 カメラを落とさぬように倒けつ転びつ康之さんのところまでたどり着き、玉網の中を覗いてみると…なんと!オトリよりもふた回りくらい大きい野アユがバシャバシャと水しぶきを上げている。手に取ってもらうと背びれがぴんと張ったバランスのとれた美しい魚体です。

article195_07.jpg康之さんの友釣り仕掛けにきた野アユの雄と雌(尻ビレがくびれている方)の個体。

 この野アユをオトリにして再びポイントに送り込むとすぐさまアタリがあり、またまた大型のアユが玉網に…。日本一の水質を誇る仁淀川の水が育む珪藻や藍藻類をたっぷり食べて育った大型の「仁淀ブルーアユ」の美しさに魅了された一日でした。

article195_08.jpgこの日の釣果。25cmを超える大型のアユが多数揃いました。(撮影/西脇康之)

 アユの友釣りは日本独自の釣り文化で、掛かった野アユをすぐオトリにして次の野アユを掛ける「循環の釣り」なんですね。いかがでしょう、釣り師を虜にしてしまうアユの友釣りの神髄と仁淀ブルーの水と遊ぶ臨場感を感じていただけましたか?
 今年の仁淀川のアユの漁期は10月15日まで。あと数日で今年のシーズンは終わりますが、年魚(1年で一生を終わる魚)のアユたちはこれから河口まで下っての産卵という大仕事が待っています。晩秋に孵化した仔魚はそのまま海へ下り、河口近くの海辺や港の中でプランクトンなどのエサを食べて成長、越冬をして来年の春、2~3cmの稚アユとなって大群で仁淀川に戻ってきます。
 名残惜しいのですがそれまではおとなしく待つことにします。そしてまた来年遊んでもらうことにしましょう。

article195_map.jpg仁淀川中流域の仁淀川町寺村地区は高知市内からクルマで国道33号線経由90分ほど。仁淀川町役場のある大崎地区のやや手前です。

★次回の配信は10月25日(金)予定
「仁淀川流域サイクリング絶景はここだ!」です。
お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集長 黒笹慈幾)
●今回の編集後記はこちら