2019.07.26女流アユ釣り師に訊く、「友釣りってむずかしいですか?」

女流アユ釣り師に訊く、「友釣りってむずかしいですか?」

夏の仁淀川の主役といえばアユ。その漁はほぼ男の世界ですが仁淀川には女流で、しかも「プロ」のアユ釣り師がいます。おそらく唯一無二の存在の彼女に、アユの伝統漁法の一つ「友釣り」とはなんぞや? 友釣りにチャレンジするには? を教わってきました。

 女流プロアユ釣り師である西脇亜紀さんは、夫の康之さんと共に、友釣りしたアユを販売する「鮎屋仁淀川」を経営しています。そのきっかけは3年前の佐川町への移住でした。

article190_01.jpg西脇康之さん(左)と「鮎屋仁淀川」代表の亜紀さん。

 高知出身で京都で暮らしていた亜紀さんは、生まれも育ちも京都である康之さんの「仁淀川でアユを釣りたい」という釣りキチ移住につきあって佐川町へ。康之さんが佐川町の地域おこし協力隊で自伐林業をするかたわら、夫婦でアユの友釣りを仕事にしてしまったのです。

article190_02.jpg自分の縄張りを荒らされ、一触即発のアユたち。(撮影/横山由可)

 ところでアユの友釣り、「縄張りに侵入した他のアユを追い払う習性」を利用した釣りですが、よく知らない人も多いのでは?
 亜紀さんの実演でその漁法を解説しましょう。

article190_03.jpg友釣りの様子。

 川での雑魚釣りや渓流釣りの竿の長さは3~4.5mですが、アユの友釣りでは川の大きさにもよりますが8m~9m前後の長いアユ釣り専用の釣り竿をつかいます。そして、川の中に入って釣ることが多いので、滑らないようフェルト底のアユ足袋と、体温低下とけが防止のために下半身だけのウエットスーツ、仕掛けなど一切を収納できるベストを着ます。
 竿から伸ばす仕掛けの先端にには、「オトリ」と呼ぶ生きたアユ(オトリアユ)が繫がれています。

article190_04.jpg友釣りの仕掛けの先端。釣り糸に編み込まれたハナカン(遊動式の金属製の鼻輪)をオトリアユの鼻の穴にくぐらせ、そこから延びる仕掛け糸の途中に「サカサバリ」と呼ぶ小さなフックが付いている。このサカサバリをオトリアユの尻ビレの根元あたりに刺し(イカリバリが安定して尾びれの後方にを泳ぐようにするため)、さらにその仕掛けの先端に野アユを引っ掛ける錨針(イカリバリ)を装着してあります。

article190_05.jpgこれが錨針です。本当に錨の形ですね。
オトリアユが弱らないよう、釣り糸をセットするのは手早く。

article190_06.jpgオトリアユにハナカンを装着中。
オトリアユは水中でこんな感じで泳ぎます。尾びれの後ろに見える錨針に、体当たりしてきた野アユがかかります。

 そして釣り竿と仕掛けの糸を操ってオトリアユをポイント(釣れそうな場所)へと導き、そこでオトリアユにできるだけ元気に泳いでもらいます。すると「ここはオレの縄張だ! 」と野アユが体当たり。そのとき、錨針に野アユが引っ掛かる。

釣れました!

article190_07.jpg上がオトリアユ、その下にぶらさがっているのが掛かりアユ。背中に錨針が貫通しているのがお分かりと思う。背掛かりと言ってここに掛かるのが理想。野アユがいちばん元気な状態で上がってくるから。

 釣れた野アユは掛かりどころが悪くなければ元気いっぱいなので、次のオトリアユになってもらいます。友釣りではこの循環を繰り返して釣りをつづけます。

友釣りは敷居が高いのか?

 アユの漁法は友釣り以外にもいろいろありますが、魚体へのダメージの少なさや、釣ったあとの鮮度保持の点で友釣りがいちばん優れていると亜紀さんはいいます。「仁淀川のアユ」というブランド価値、そして友釣りアユの質の良さから、「鮎屋仁淀川」のアユは京都や東京の料亭でひいきにされています。

article190_08.jpg友釣りで釣れたアユ。

 都会の人が渇望する美食がたくさん泳いでいる仁淀川。しかし、仁淀川に限らず、全国的にアユの友釣りをする人は減っているのだと亜紀さんはいいます。

article190_09.jpg広々とした川面に釣り人はポツンと、が仁淀川。

 というのも、友釣り道具一式を揃えるににはそれなりの出費が伴う。専用の釣り竿(2.5万円から40万円超まで!)、アユを生かしておく友船(携帯用生け簀)、釣り糸や針(他の釣りに比べると意外に高価)、オトリの交換や掛かりアユの取り込み時に必要な玉網、ウエットタイツ、川で滑りにくいフェルト底のアユ足袋、釣りベスト、偏光眼鏡(水面の反射をカットして水中を見通せる)などが必要です。加えて釣りのたびにオトリアユ代金(1尾500円ぐらいを2~3尾)と入漁料(日釣り券か年券)がかかる。
「けれど、私はぜんぜんお金をかけていない」と亜紀さんはいいます。
「アユの友釣り人口が減っていることにも関係していますけど、道具ってけっこうもらえるんですよ」。
 なんと、釣り竿をはじめ、亜紀さんの釣り道具はほぼもらいもの。「友釣りにはまっている人は、使わない釣り竿を何本も持っていたりします。また、アユの友釣り師も高齢化で、あまり釣りに行かなくなった人もいます。眠っている友釣り道具が日本各地にはたくさんあるんですよ」。
 お金で道具を揃えるのは手間いらずですが、誰かとつながって友釣りを始めるのはおもしろそう。それに人生を豊かにしてくれそうです。

article190_10.jpg今回の取材地である仁淀川支流・長者川は、山あいの集落を流れていく。地域の人は昔からこの川のアユを捕って食べてきた。

 「夫(康之さん)なんか、初めての川でも知り合いをつくるのがうまい。私もですが、地元の人を見ると、なんとなく『この人、釣り師だ』とわかるんですよね。例えば橋の上から川を眺めている人はほぼ釣り師なので、釣れていますか? と声をかけたり」。
 田舎への移住では、地域との関係づくりが課題の一つ。西脇夫妻も移住者ですが、アユの友釣りのおかげもあって、知人づくりは順調だったようです。
「仁淀川流域への移住者で、アユ釣り未経験の人は、『友釣りしたいんですけど、教えてくれませんか? 』と地域の人に頼むのもいいですよ。釣り道具ももらえるかも(笑)」。

伝統漁法は意外と簡単!?

 道具を手に入れても、そもそもアユの友釣りって難しそうです。亜紀さんはどうやって技を学んだのでしょうか。
「デビューは和歌山県の日置川(ひきがわ)で、最初にオトリアユを夫につけてもらって、あとは放置されました。彼は自分の釣りをするために離れていった(笑)」。
 それまでに釣りの経験はあったけど、友釣りは初めて。でも、その後1時間ぐらいで1匹釣れたそうです。
「アドバイスされたのは、犬を散歩させるようにオトリアユを泳がせること。そして、アユの主食は水中の大石についた苔なので、そこがポイント(狙い目)だということ」。その日の釣果は1匹のみでしたが、友釣り3回目ぐらいでまあまあ釣れるようになったと亜紀さん。アユがいそうな場所を見極める才能があったのでしょうか?
「先輩釣り師に、『どこにアユがいますか? 』と聞いたことがあります。答えは『どこでも』でした(笑)」
 つまり、自然豊かでアユがたくさん暮らす清流であれば、難しいこと抜きにアユの友釣りは楽しめるのでしょう。それって、まさに仁淀川のことじゃないだろうか。

article190_11.jpg苔のついた石を縄張りにするアユ。(撮影/横山由可)

 ところで、プロのアユ釣り師となると、いろいろ苦労がありそうです。
「この大きさのアユを何日までに何匹、という注文に応えないといけません。仁淀川のあの場所、あの支流なら、今これくらいのアユが釣れることを知っておかないと」。
 今後は、アユの友釣りをみんなに広めていきたいと亜紀さんはいいます。
「アユの友釣り体験を仁淀川で始めようと思っています。釣り道具をお貸しして、釣り方を手取り足取り教えます。アユの友釣りって子供でもできるんだ、という体験にしたいですね」。

article190_12.jpgこんな風景にいると、釣れなくても良い一日になりそう。

 仁淀川で、好きなことを仕事にした亜紀さん。それほどアユの友釣りに魅了されたのはなぜでしょうかと聞くと、こんな答えが返ってきました。
「あのころの私は、大病のあとだったんです。そんなとき、きれいでキラキラした清流に行き、アユを釣った。小さな体のアユなのに、すごく力強い引きが竿から伝わってきた。その命の力強さに驚きました。何か力をもらったと思いました。なぜアユの友釣りに魅かれのですかと聞かれると、あのときのことを思い出します」。

article190_13.jpgこの贅沢、仁淀川ならできるかも!(撮影/横山由可)

 からだ一つで仁淀川に来て、美味しいアユを釣って、それを焼いて食べる――仁淀川の命を、自分の力で、自分のなかへ。亜紀さんたちが準備しているアユの友釣り体験は、仁淀川の旅をより深いものにしてくれそうです。

◆「アユの友釣りを西脇夫妻に教わりたい!」という人は、仁淀ブルー観光協議会にお問い合わせください。
鮎屋仁淀川

★次回の配信は8月9日。
「仁淀川河口にテナガエビ釣りに行って珍魚カワアナゴに遭遇!」です。
お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら