2019.04.19高知の自然に出合う!プチ遍路はいかが?

高知の自然に出合う!プチ遍路はいかが?

 四国が誇る伝統文化といえばお遍路。
 それを昔ながらに「徒歩」でとなると、気軽には実行できないイメージですが、つまみ食い的に楽しむことも実はアリ。
 仁淀川が海にそそぐ土佐市の、お遍路の魅力が凝縮されたコースを歩いてみました。


 真言宗の開祖である空海(弘法大師)は青年期に四国で修業し、その足跡が四国八十八ヶ所霊場になったといわれています。それを参拝していく「お遍路」ですが、あまり形式にとらわれないのが特徴です。決まりごとは「88の札所(寺)を参る」ぐらい。1番札所(徳島県の霊山寺)から88番札所(香川県の大窪寺)まで、という順番でもその逆でも構わず、それどころか1番札所からお遍路を始めなくていいし、一度の旅で全部の札所を巡礼しなくてもいい。そして信仰の宗派も問われません。自由だなあ~。

article182_01.jpg塚地峠への遍路道。

 ということで、つまみ食い的にお遍路するというのもあり。仁淀川が海と出合う土佐市には、半日で、しかも昔ながらに徒歩で気軽に楽しめて、高知県のお遍路のエッセンスが凝縮された遍路道があるのです。

article182_02.jpg塚地峠への入り口。

 それが塚地峠から宇佐を経て36番札所青龍寺へと至る約7.5km。そのうち、塚地峠(標高約190m)を越える約2kmの道のりは、お遍路が徒歩のみの時代から残る古道で、「宇佐坂」と呼ばれています。

article182_03.jpg石仏や導石、行き倒れたお遍路さんのお墓などが遍路道には点在している。

 宇佐坂はお遍路さんだけでなく、かつては漁業の港町・宇佐から塩や生のままのカツオを運ぶ人々が往来していました。明治時代の終わりまで、宇佐と内陸部を結ぶ最短ルートとして大いに利用されていたそうです。

article182_04.jpg塚地峠から南へ下ると、照葉樹の自然林が多い森になった。

 宇佐坂には、高知県の低山の自然が色濃く残っています。4月~5月上旬にかけてはシイなど照葉樹林の新緑が素晴らしい。ブロッコリーやカリフラワーを連想させるモリモリとした樹幹の姿は、高知県の春を代表する景観です。

article182_05.jpg暖かくてしっとりとした気候により、植物の勢いがすごい。木の根が岩をも砕きそうだ。

 森の細部に目を向ければ、温暖湿潤な南国ゆえの生命力にあふれたシーンに出合えます。また野鳥も多く、この日の森ではキツツキが木をたたく音が響き、エナガなど可愛い小鳥たちが賑やかに歌っていました。高知県の県鳥で渡り鳥のヤイロチョウも、夏には塚地峠周辺にやってくるそうです。
(ヤイロチョウについては、野鳥写真家・和田剛一さんの仁淀ブルー通信記事『<仁淀川野鳥生活記>3 山の主、森の精霊』をご覧ください)

article182_06.jpg塚地峠。

 かつては茶屋があったという塚地峠。ここから西へと延びる道へ入ると、絶景の展望台があります。

article182_07.jpg塚地峠からすこし枝道に入ったところにある展望所からの眺め。宇佐の町が見える。

 山道を歩いていて、麓に集落が見えると、何かほっとします。そして、いとおしいような気持にもなります。人はいろんな場所で、いろんな暮らしをしていて、泣いたり笑ったりしているんだろうな、なんてことを考えたりします。こういう気持ち、昔の歩き遍路たちも同じように抱いたのかなあ。

article182_08_1.jpg今はちょうどツツジが目を楽しませてくれる季節。
article182_08_2.jpg石が少し滑りやすいので、杖は積極的に利用したい。

 宇佐に下ると、宝永4年(1707年)と安政元年(1854年)の地震の津波被害を記した石碑がありました。建立は安政地震から4年後の1858年。この石碑のおかげか、地元ではかつての悲劇を心に刻み、1946年の南海地震のときは津波での死者が僅か1名だったそうです。

article182_09_1.jpg宝永・安政時代の大津波を伝える石碑。
article182_09_2.jpg道に迷ったらこのようなマークを探そう。

article182_09_3.jpg漁業の町、宇佐。その背後は塚地峠がある山並み。
article182_09_4.jpg宇佐大橋から見下ろした海。

 宇佐大橋を越えて横浪半島へ。間もなく左手に砂浜が見えてきました。あそこを歩こう!

article182_10.jpgこの細やかな砂。仁淀川の流れによって山から運ばれたものかも。

 私は裸足になりました。きめ細かな砂地と、足を洗う波の冷たさが気持ちいい。少し疲れた足裏から伝わる癒しは、全身をほぐしてくれました。そして、でっかい太平洋と空に、雑念が浄化されていきました。お遍路の原点になったお坊さんが、「空海」という名のインスピレーションを得たのは、こんな瞬間だったのかもしれません。

article182_11.jpg空と海。

 そして、湿原の向こう、深い森に抱かれるように青龍寺が見えてきました。手前の湿原は蟹ヶ池といい、その底の堆積物には過去の大津波の痕跡が残されているそうです。青龍寺も、江戸時代には津波で大きな被害を受けました。こんなに穏やかな自然が、いつかは荒れ狂う。生きるとは、そんな大事も受け入れることなのか。

article182_12.jpg蟹ヶ池の奥、山に抱かれるように青龍寺が。

 たった半日歩いただけですが、様々な気づきがあることに、私は少し驚きました。土佐市での小さな歩き遍路、普段の旅行とは一味違う時を過ごせますよ!

article182_13.jpg36番札所青龍寺。

●プチ歩き遍路「塚地峠~宇佐~36番札所青龍寺」
コースタイム/ 塚地公園(25分)塚地峠(30分)宇佐(1時間20分)青龍寺
アクセス・他/塚地公園には駐車場とトイレあり。塚地公園へは、土佐市ドラゴンバスの米山停留所下車、南へ徒歩10分。帰りは、青龍寺より徒歩7分の滝停留所から、土佐市街または伊野駅行きの土佐市ドラゴンバスがある。土佐市ドラゴンバスは本数が少ないので注意。時刻表や路線図は、土佐市ホームページの「土佐市ドラゴンバスについて」を参照。

article182_14.jpg塚地公園にある案内板。「現在地」と記されているのが塚地公園

★4月5日配信号でお報せした予告、スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド「全部レンタルで挑戦!手ぶらキャンプ体験1泊2日完全レポート」は、都合により延期となりました。申し訳ございません。
「手ぶらキャンプ体験」のレポートは8月ごろ配信の予定です。お楽しみに。

★次回の配信は5月3日。
「まもなくエントリー締め切り!サイクリングイベント〈第2回高知仁淀ブルーライド〉の見所はここだ」をお送りする予定です。お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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