2018.10.05美しい蝶や仙人(?)、そして仁淀川の大展望! 秋の加茂山ハイクへ
仁淀川を見渡す最高の展望地が、いの町の加茂山(261m)。毎年10月中~下旬ごろ、この山に「アサギマダラ」という美しい蝶がやってきます。
アサギマダラ。「アサギ」という名のとおり、翅(はね)の内側、黒い翅脈(しみゃく)に囲まれた部分が浅葱色(あさぎいろ:水色よりやや濃い色)をしています。翅を広げたときの左右の大きさは約6㎝。日本だけでなく東南アジアやヒマラヤ山脈まで広く分布している美しい蝶ですが、その注目すべき生態は「渡り」をすること。アサギマダラのうち、夏に日本本土で発生したものの多くが秋になると台湾あたりまで渡っていくそうです。秋に加茂山で観察されるアサギマダラは、その長い南下の旅の途上なのでしょう。
ここで加茂山のことを少々。それは、古くから製紙業で栄えた伊野市街を見守るように鎮座する低山で、麓には4つの神社があり、地元小学校の校歌にも名前が登場する、いわば町民の「心の山」。
1995年には「加茂山に親しむ会」が発足し、子供たちの遊び場として広めようと登山道や山頂の整備をしています。山頂や、その緩やかな尾根には2カ所の展望所(第一、第二展望公園)があり、大気が澄みわたれば太平洋に向かう仁淀川の流れを一望できます。また、遊具や山小屋、トイレも山頂周辺にはあり、とさでん伊野駅前駅(いのえきまええき)とJR伊野駅から徒歩で登れる手軽さもあってか、低山トレッキングファンにも注目されている山です。
いくつかある加茂山の登山道のうち、よく整備されているのは槇橋の登山口から山頂を往復するコース。登山口からは杉の植林地や照葉樹林の山道を登っていくのですが、まもなく、鬱蒼とした山中に立派なログハウスが見えてきます。四駆の軽トラックでも登れそうにない狭くて急な山道の先になぜ?
「この家の下の斜面で、秋になるとアサギマダラがひらひらと飛んでいます」とはログハウスのオーナー、永田泰雄さん(75歳)。アサギマダラが好む花が咲くフジバカマを植えて、渡りの途中で翅を休めてもらうそうです。
永田さんのお父さんは加茂山で農業をしていて、中学校ぐらいまで永田さんもお父さんを手伝っていました。よく見れば、雑草に覆われつつありますが、ログハウスの下の斜面は階段状の地形。山肌に人力で何段も石垣を築き、平らな農地を作ったのです。永田さんは定年退職後、お父さんが残したこの土地に、コツコツと独力で、2003年から9年かけてログハウスを建設しました。
「家の材料は、父が植えていた杉の木。それを100本以上伐採して、製材するのに3年費やしました。土台作りや屋根材の貼りつけ以外は自分だけでやったんですよ。」
加茂山に登る人をこのログハウスに招き、山の自然や地域の歴史の話をすることもあるそうです。現いの町長の池田牧子さんも遊びに来るとか。
この地域の人たちにとって加茂山とはどんな山なのか、と聞いてみました。
「いのちの山だったと思いますよ。戦後の食糧難のとき、この山の畑でイモなどを作り、飢えをしのいでいましたから。」
不思議なことに、加茂山では山頂に近い標高の高い場所でも泉が湧いていて、昔その水は田んぼや畑、農作業する人ののどを潤したそうです。今その泉は、永田さんが整備した浅く小さな池へと流れ込み、美しい草花を育み、クルリとした目玉のカエルやカッコいいトンボなどが暮らす小さな自然の楽園になっています。
アラフィフ以上の世代にとって、子供のころの遊び場の一つは「裏山」でした。あのころの裏山にあった自然の不思議や友だちとの冒険、少し怖い気持ちになる瞬間を、今の子供たちも加茂山で経験できることでしょう。
忽然とあらわれる山奥の一軒家には、なんだか仙人をイメージさせる永田さんもいますしね。1本の木からいろんなものを作り、トンボやカエルには楽しく暮らせる池を、そして旅をするアサギマダラには花畑をプレゼントする彼に出会えば、加茂山の自然がより深く心に刻まれることでしょう。
(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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