2018.07.13<清冽な仁淀川を生み出す源の森たち>2 笠取山(かさとりやま)から大川嶺(おおかわみね)
今回彷徨い歩くのは、愛媛県久万高原町にある笠取山(1,562m)から大川嶺(1,525m)の稜線と、その山腹にある原生の森。両山ともに稜線付近は背丈の低い笹原にミツバツツジの群落が広がり、初夏の開花時期には最高の眺望を味わうことができる開放感のある場所だ。
山腹には原生的な森が広がっていて、一部はほぼ純林に近いブナ林になっている。これだけの密度でブナが林立している場所は四国では大変に珍しく、その意味では非常に貴重な森だと言えるだろう。
上の写真:大川嶺の岩場から笠取山(左)を望む。夏の夕暮れにはしばしば霧が湧き上がり、運が良ければ天上の楽園のような風景に遭遇することができる。
高知市内から国道33号線を西に走る。越知町を過ぎ、しばらくは仁淀川の本流を溯りながらの爽快なワインディングロード。移り行く景色を堪能しながら、しばしの間ドライブを楽しむ。
県境を越えて久万高原町に入ると、間もなく右岸から大支流・黒川が合流する。上流部にある”小田深山渓谷”は、東北の奥入瀬渓流のような緩やかな流れで、四国では珍しい渓相だ。黒川に沿って国道440号線を20分ほど走ると、今度は左岸に支流・茗荷谷が北上している。これを源頭まで遡れば笠取山と大川嶺の峰々にたどり着く。
ブナ林を縫って流れる茗荷谷の水量はかなり多い。源頭付近まで上っても、いつも安定した豊富な水が流れている。両岸は笹のスロープが広がり、そこに天然木が林立している。その中にはブナも多数見られるのだが、ふつう四国のブナは渓谷沿いにはなくて、中腹の斜面、もしくは稜線に生えるのが当たり前の景観だ。なのでこの風景は四国ではなかなかお目にかかれないのである。まるで東北のブナ林のようだ。美しい。
この時期茗荷谷の源頭を遡行していると、足元から10cmそこそこの小さな魚影が多数飛び出して上流の岩陰に隠れる。アメゴの稚魚だ。数年前の晩秋、この付近で親魚に出会っているので、彼女たちはここまで上ってきて産卵しているようだ。すぐ上を車道が走っているとは思えないほど、何ともおおらかな自然の営みがここでは当たり前のように繰り返されている。やっぱり貴重な空間である。
茗荷谷を源頭まで上り詰めるとその先は笹原と草原になり、車道が山頂のすぐ下を縫うように走っている。初めから山頂を目指すのなら、車道を利用するのが効率的だ。
この笹原、草原にはたくさんの山野草(高山植物を含む)が自生している。特に夏の頃にはいろんな種類の花々が咲き乱れていて、お花畑になっているところもある。その可憐な姿を見るためにここに通う人も少なくない。草原を渡る爽やかな風に揺れる花たちを見ていると、とっても幸せな気持ちになってくる。
そして特筆するべきは眺望の良さ。山頂付近からは360度ぐるっと見渡せるので、スターウォッチングに最適の空間でもある。そして密やかに夏の夜に乱舞する、陸生の蛍”ヒメボタル”とも、運がよければランデブーできるかもしれない。
(天然写真家 前田博史)
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