2018.07.20無人駅で、清流の女王に出合う
夏の仁淀川といえば清流の女王、香魚とも書く「アユ」。
その姿が踊る涼しげな水槽が、いま人気です。
夏の仁淀川の顔といえばアユですが、仁淀川を旅しても、釣りか素潜りをしない限り生きているアユを目撃するのは難しいもの。しかしこの春から、仁淀川を訪れた人が気軽に「泳ぐアユ」を観察できるスポットが誕生しました。
場所は、観光情報交流スペース「仁淀ブルースクエア」があるJR西佐川駅。その待合所には仁淀川に生息する魚の水槽が設置されていて、そこにアユの群れが加わったのです。
生け簀で泳ぐアユ、というのは料理店などで目にしますが、観賞用としてずっとアユを泳がせている、公共の場の水槽というのは、実は珍しい存在。飼育のノウハウもあまりないようで、この水槽で泳ぐアユたちはちょっとやせ気味であります(笑)。
西佐川駅のアユを管理しているのは、仁淀川右岸のいの町波川にある(有)高知熱帯魚サービスの田村拓也さん。だいたい2週間ごとに訪れ、底の砂利や水槽を清掃し、傷んだ水草を入れ替えたりしながら、初の経験であるアユの水槽の維持にチャレンジしています。
「調子の悪い魚はヒレなどに傷や斑点があることが多いのですが、これをできるだけ早く察知することが大切だと思っています。それから水温と水質の管理に気を付けています。夏場など水温が急に上がるとすぐ死んでしまいますから。また、水が酸性になると魚は病気になりやすいので、中性を保つようにしています。」
でも、水質改善のために水を入れ替えるときは注意が必要のようです。
「水を急激に入れ替えると、pH(ペーハー:注)が変わって魚がショック死することもあります。餌については手探りです。人工飼料などいわゆる熱帯魚の餌をつかったりしていますが、なかなか太らないですね……。」
注: pH0~pH14まであり、pH 7は中性で、それ以下は酸性、それ以上はアルカリ性。アユが生息する川のpHは7~8が多い。
きらびやかな色彩の魚や珍・怪魚など、一般的な観賞魚が入っていないこの水槽、見た目は地味です(笑)。しかし西佐川駅を利用する地元の人たちは、「このアユ、ちょっと痩せちゅう」などと、けっこう足を止めて水槽をのぞき込んでいます。仁淀川流域住民の川魚への愛、なかなかのもの。よい川が流れる地域の日常の姿であります。
田舎の無人駅で次の汽車を待つ、それは何も生まない時間ですが、気ままな旅の空ではちょっといい時間だったりします。目の前を流れていく『見知らぬ街の日常』は、ときに『絶景』よりも心を癒し、見飽きないものです。
観光情報を求めて西佐川駅の仁淀ブルースクエアを訪れたら、アユの水槽がある待合所での一休みをおすすめします。「旅情」という、ちょっととらえどころのない、でも確かにそこにある雰囲気を楽しめますよ。
(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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