2018.07.06流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 佐川町編

流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 佐川町編

仁淀川流域の観光振興に必要なのは、「遊び倒せ!」。
自らそれを実践している佐川町長と、そして副町長も交えて、
流域が束になって仁淀川観光を盛り上るための手がかりを探してきました。

第2回 佐川町長 堀見和道さんと副町長 中澤一眞さん
自然と暮らしを遊ぶ体験、まずは町民から!

 この連載では、仁淀川流域の6市町村の首長さんに、この地域の観光振興についてどう考えているのかを聞いています。第2回は、「歴史と文教の町」佐川の堀見和道町長と中澤一眞副町長に登場してもらいましょう。

仁淀ブルー通信編集長・黒笹慈幾(以下黒笹):「堀見さんは流域観光についての設計図をしっかりと頭に描いている人だ」と僕は思っているのですが……。

佐川町長・堀見和道さん(以下堀見):いやいや、そんなわけでは(笑)。

黒笹:今日は、仁淀川流域の観光振興について、現状と将来のビジョンについてうかがいたいのですが、どうでしょうか?

堀見:そうですね(しばらく熟考する堀見さん)。佐川に戻ってくる(注1)前にいろんなことを考えていて、そんななか、小説の『県庁おもてなし課(注2)』に出会ったんです。それを何百冊か買って、静岡や東京にいる友達に配ったりしましたよ。俺は高知に帰るけど、これを読んで遊びに来てよ、この小説に高知の良さが分かりやすく詰まっちゅうきに、と。

[注1:堀見さんは佐川町出身。2013年に、故郷の佐川町長選挙に立候補するため、それまで暮らし、仕事をしていた静岡から故郷に戻ってきました。]
[注2:有川浩著作の、高知県を舞台にした小説。2013年に映画化。]


佐川副町長・中澤一眞さん(以下中澤):高知のダメなところも詰まってますけどね(笑)。

article142_01.jpg堀見和道町長(右)と中澤一眞副町長(左)

堀見:『県庁おもてなし課』のスト-リーには仁淀川流域のことも登場するんですが、それを読んで、仁淀川流域でやるべきことって、まさしくこういうことだなとイメージできた。この地域の魅力はやはり自然、そして自然と共にある日常の暮らしだろうと。だから観光は、自然を遊び倒したり、流域の暮らしを体験してもらうのが一番じゃないかと思いました。

黒笹:なるほど、自然だけでなく、自然と共にある日々の暮らしも観光のコンテンツになると。

堀見:それから思ったのが、観光に関わる人がどれだけ面白がって、その気になるかがすべてだろうなと。仁淀ブルーで観光だというのなら、関係者みんなが仁淀川流域で遊んで体感しなければ。そして、今まで気づかなかった良さを発見して、こんなにええものがあるんだというのを、自分の言葉で伝えられるようにならないと。でなければ、仁淀ブルーで観光振興といっても話にならないのではないでしょうか。

黒笹:そうですね。僕もその通りだと思っています。この春、越知町に『スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド』が誕生しましたが、キャンプ場ができました、さあ来てくださいと宣伝するのは簡単なんですよね。でも、誘う人たちがキャンプの楽しさを知っていないと説得力に欠けます。
 とはいっても、越知町の人の多くがキャンプの楽しさを体感している、というふうになるには、まだ時間がかかりそうです。これって良くも悪くも高知県人の体質だと僕は思っているんですが、誰かがやり始めるのを待つみたいなところがありますよね。どうですか?中澤さん。

article142_02.jpg今年春、開業したころのスノーピークおち仁淀川キャンプフィールド。いまはもう芝生は青々としています。

中澤:そうですね、それまでは、じっと息をひそめて様子見しているというか(笑)。

黒笹:中澤さんは高知県職員として活躍されてきて、定年退職後は、堀見町長の強い要望でこの春から佐川副町長になったわけですが、仁淀川流域の観光のポテンシャルについてどのように感じていますか?

中澤:仁淀川自体がブランドですよね。しかし、上流の仁淀川町から河口の土佐市まで、それぞれの市町村で、同じ流域であってもブランドになる内容というか、特徴というか、『顔』が違う。それぞれの顔をどうやって観光に結びつけていくのか。またその顔について、地域の人たちが楽しみつつ自分たちの財産にしていくようなムーブメントをどうやって作っていくのかが、流域共通の課題かなと思っています。

自治体の枠にとらわれない観光振興へ

黒笹:中澤さんはいま「顔」とおっしゃいましたが、その顔をもとに、6市町村それぞれが役割を担うという方向になればと、僕は思うんです。

堀見:観光振興について役割分担するということですか。どのようにですか?

黒笹:例えば土佐市は、仁淀川の河口に位置していますよね。ということは、仁淀川流域の様々なものが流れつく場所、という見方ができる。なので、観光客がそこに行けば仁淀川流域の産品すべてが揃う場所というか、お店みたいなものを土佐市には担当してもらう。
 また、佐川町ですが、歴史と文化と植物を町の観光の柱にしている。ここは一つ、その経験を活かして、佐川町以外の仁淀川流域の歴史や文化や植物にも目を配り、観光振興に一役買ってもらう。
 そして、仁淀ブルー観光協議会は、それらの情報を統合し、発信していく――というような役割分担をしっかりとするべきではないか。つまり、流域の6市町村が、自分たちのエリアの観光コンテンツをしっかりと見極めながら、流域全体のためにどのような役割を担えるのかを問うことが大切ではないでしょうか。そして、6市町村どうしで自分たちの役割について考えを示し合い、それぞれの役割が何かを共有し、その役割を粛々と果すという方向へ持っていくべきだと、僕は考えています。

article142_03.jpg歴史と文教の町、佐川。
article142_04.jpg「日本の植物学の父」牧野富太郎の故郷、佐川では、牧野氏ゆかりの植物に出会える。写真は牧野公園のシコクバイカオオウレン(開花は2~3月)。

中澤:観光振興を自治体単位でなく、流域全体で考えるということですね。

黒笹:いま、観光振興について6市町が束になろうとしていますが、それは素晴らしいことですよね。それに、仁淀ブルー観光協議会という仁淀川流域の観光を束ねる組織もすでにあります。つまり、観光振興を流域全体で担うための設計図はできている。しかし、設計図どおりに物事を動かすことがまだ足りていないのではないでしょうか。

中澤:なるほど。

黒笹:物事を動かすには、首長さんたちが仁淀ブルーというブランドに対してさらに熱心に取り組んでもらわないと、うまくいかない。ムードを盛り上げるために、なにかみんなが関わりたくなるようなプロジェクトを作る必要があるかもしれません。この流域でみんなのプロジェクトになりそうなのは何ですかね?

仁淀川を遊び倒す合宿を

堀見:うーんプロジェクトねえ(しばし熟考)。ずっと、3年ぐらい前からですが、仁淀川流域を遊び倒すメニューをみんなで考えてみたらと、役場などで言ってきました。2泊とか3泊で合宿して、仁淀川やその流域でいろんな遊びをして、体験型観光についての具体的なメニュー作りをしたらどうだと。

黒笹:仁淀川で釣りをしたり、カヌーを漕いだりしながら合宿するんですね。仁淀ブルー通信で以前記事にしましたが、川を下りながら、岸辺の岩でボルダリングする、というのもできそうです。

article142_05.jpg夏なら川に潜って手長エビとり、という合宿も面白そう。

堀見:越知町のキャンプ場(スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド)ができたことだし、そこでまず1泊2日の合宿をしたらいい。6市町村から3~4名ずつ参加してもらって、6グループに分かれてもらい、アウトドア体験などをする。

黒笹:遊びが仕事になるって、いいなあ(笑)。

堀見:合宿研修というのは効果があります。世の中にはいろんな企業研修のノウハウもありますし。昼は一生懸命頑張って、夜、食事しながらみんなで話をすると結束力が高まってくるわけなんですよ。そして2日目はさらによくなっていく。だから、6市町村で連携して考えなければいかんときには、そういう合宿を年2回はやったほうがええと思うんですよね。

article142_06.jpg夜はキャンプ場でこんな感じ……という合宿なら、参加者殺到だ!

黒笹:合宿の参加者の人選はどうなるんですか?

堀見:そこは大事です。首長が揃っての1泊2日の合宿はなかなか難しい。少なくとも各市町村役場の課長級もしくは補佐級に参加してもらう。それから役場職員じゃない、例えば観光の関係者でもいいでしょうし、全く民間の人でもいい。流域の連携に深くかかわっていきたいという人とか。『行政だけ』にならないように、バランスよくメンバーを組んで合宿するのがいいんじゃないでしょうか。

仁淀川を遊び倒して、見本を示す!?

黒笹:合宿ではないですけど、先日、ここにいる堀見さんや中澤さん、越知町の小田町長夫妻なども参加して、僕らはスノーピークおち仁淀川キャンプフィールドでキャンプしました。そのとき堀見さんはフォールディングカヤック(折り畳み式のカヤック)を持って来られて、その組み立て方がとてもスムーズで、ベテランの雰囲気でした。けっこう漕いでますよね。

article142_07.jpgフォールディング(折り畳み式)カヤックを組み立てる堀見町長。アルミニウムの骨組みをカヤックの形に組み立て、防水の船体布に入れていきます。後ろに見えるのは堀見町長の軽キャンピングカー。

堀見:昨年からですが、もう6~7回ぐらいは仁淀川で漕いでます。カヤックって、実際にやってみると、ほんと楽しいですよね。

黒笹:自治体の首長でカヤックを趣味にしている人はとても珍しいと思うんですが、きっかけは何だったんですか?

堀見:おととしの夏のことなんですが、瀬戸内海のしまなみ海道にある弓削島(ゆげしま・愛媛県上島町)に友人がいまして、そこに遊びに行ったときシーカヤックを体験したんです。そのときシーカヤックのガイドに、「仁淀川流域に住んでいるんですか、それやったら、なんで仁淀川でカヤックやらんのですか!」といわれたんです。あんなええ川があるのに、自分がそこに住んでたら仁淀川を下りまくりますよ、と。
 で、そりゃそうだよなと思って、いろいろ調べたんですよ。プラスティックのカヤックだと広い保管場所が必要だし、車に乗せて縛るのも面倒だしと思っていたら、折り畳み式(フォールディングカヤック)というのがあることに気付きました。
 そのときはすぐには買わなかったんですが、昨年入院したとき、「やっぱ働いてばかりではいかん、遊ばないとなあ」思ってキャンピングカーを買うことになりました。で、「どうせやったらカヤックも買って、遊びまくろう!」となったんです。

article142_08.jpg大きく見えるカヤックですが、大人2人だと楽々運べます。

黒笹:堀見さんのフォールディングカヤックは二人乗りで、奥様も一緒に漕いで楽しんでいらっしゃいますよね。

堀見:この間は、80歳になる私の親父を乗せました。親父は仁淀川でそういう遊びをしたことがないはずなんで、「親父、カヤックしないか」と。喜んでましたね。

黒笹:素晴らしことですね。カヤックで親孝行もできるんだね。先日のキャンプでは中澤さんも堀見さんのカヤックに乗りましたが。どうでしたか?

article142_09.jpg町長&副町長が清流ではしゃぐ図。実に珍しい光景であります。

中澤:いやあ、いいもんですね。雨でしたが、それが気にならないぐらいでした。キャンプ場の前の仁淀川は川面がとても静かで、カヤックを漕いでいると、なんというか、水の世界に入り込んでいくというか、そんな日常にはない感覚になりました。

黒笹:町長と副町長が一緒にカヤックを漕いでいるというシーンは素敵でした。二人を見習って、仁淀川流域の観光に関わる人たちは、この地域の自然を遊び倒してほしいですね。今日はありがとうございました。

article142_10.jpg仁淀川流域で暮らす喜びが、伝わってきました。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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