2018.04.06春の仁淀川は、屋形船で、川面から

春の仁淀川は、屋形船で、川面から

山桜の開花とともにやってくるもの、それは川の季節。
川面を渡る風には、春の心地よさのすべてがあります。
4年目の仁淀ブルー通信は、仁淀川をゆく屋形船から旅を始めてみました。

 いろんな乗り物があるなか、いまの日本でもっとも『格別』を感じられるのは屋形船ではないでしょうか。鉄道や飛行機、海を行く連絡船などは日常のものだし、豪華列車や豪華客船はやや過剰な格別(それもいいんですが)。豪華で高額じゃなくても、古代からの清流に、昔ながらのやりかたで浮かべば、非日常の体験と素顔の日本に出合える――それが屋形船なのです。

article129_01.jpgこの透明度。屋形船が宙に浮いているよう。

 実は、本物の清流――澄んだ流れがあり、水の生物(アユやツガニなど)が自由に海と川を往来できる清流――での屋形船は希少。日本には約1万4千の一級河川があるけれど、本物の清流の屋形船が運航しているのは仁淀川と四万十川ぐらい。そして仁淀川で唯一の屋形船が、日高村にある『屋形船仁淀川』なのです。山桜が満開の春の日、屋形船仁淀川代表・田中覚さんの案内で、川面を滑るように旅してみました。

article129_02.jpg穏やかな波とともに、屋形船は進む。

 川面という、低い、まるで水鳥の目線から世界を眺めるなんて、めったにありません。そのとき気づくのが、自分を囲む世界が大きくなっていくこと。いえ、自分が小さくなっていく気分になるのでしょう。そして、空が、川辺の山並みが、私たちを抱擁してくれるような、優しい景色に見えてくるのです。ときに、「自分はちっぽけだ」と認めさせてくれる空間は、心地よいものです。

 屋形船からの風景を堪能していると、いまさらながら、春は『新品』になる季節だなと感じます。山々や岸辺には、冬の眠りから目覚め、新しい芽や花をつける草木がたくさん。そして、川の中にも新参の生命が。

「ぼちぼちですが、海から遡上してきた今年のアユが泳いでいますよ」と田中さん。船べりからフィッシュウォッチングができるなんで、美しい川ならでは。屋形船仁淀川が運航している流域だと、大雨などで濁らなければ水深約3mまで見渡せるのだといいます。

article129_03.jpg屋形船仁淀川は、川面にフレンドリー。

 屋形船仁淀川の魅力の一つは、その船の大きさ。定員12名というサイズは、乗客が川面に近いことを意味しています。大人であれば、手を伸ばせば仁淀川。もちろん私もそうして、流れの冷たさに少し驚きました。川のなかの季節は、地上よりすこし足踏み。いろんな時の流れがある、みんなそれぞれのペースで生きている――なんてことを連想させてくれる春の仁淀川です。

article129_04.jpg仁淀川流域の山々。4月以降は山桜の花から、シイノキの新緑へ。

「清流仁淀川の魅力を発信し、新たな賑わいを」と始まった屋形船仁淀川は今年で6年目。代表で屋形船も操る田中覚さんは、生まれも育ちも仁淀川に面した日高村です。
「仁淀川の魅力ですか? 大人から子供まで遊べる穏やかさでしょうか。キャンプにカヌー、釣り、テナガエビを捕るのも楽しい。テナガエビは鑑札(入漁料)がいらないですしね。美しさについてですか? 僕は子供のころからこの川で遊んでいるので、川はこういうもんだと(笑)。他所からの人は、きれいだねといってくれますね。」

article129_05.jpg屋形船仁淀川の田中覚さん。
article129_06.jpg屋形船仁淀川の船内。

 この記事が配信されるころ、仁淀川流域の桜の花は終盤ですが、そのあとは照葉樹のシイノキが開花。山並みを覆う森は、まるでカリフラワーのようにもりもりとした姿になります。
「シイノキの新緑はきれいですよ~。5月に入れば川の中にはアユの姿も増えます。ウナギを捕る人など、昔ながらの川漁に出合うことも。予約いただければテナガエビなど仁淀川の幸のお弁当をご用意できますし、屋形船への飲み物や食べ物の持ち込みも大丈夫です。のんびりと、仁淀川からの風景を楽しんでもらえたら嬉しいですね。」

article129_07.jpg仁淀川流域、シイノキの花と新緑。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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