2018.02.23仁淀ブルーに誘われて~私の高知移住日記 『狩猟ガール編』
狩猟というと〈おじさん〉のイメージが強い世界。しかし昨今では、女性の間でも興味を持つ人が増え、実際に狩猟を始める人も少なくありません。その一人、越知町の地域おこし協力隊員で、〈有害鳥獣対策や捕獲〉などをミッションにしている女性に、狩猟の世界を語ってもらいました。
第11話 「女性でも、狩猟のある暮らしを」
小野里玲子(おのさとれいこ)さん
埼玉県→越知町へ(2016年5月に移住)
日本の田舎では、イノシシやシカによる農林産物の被害が深刻になっています。その理由の一つは過疎高齢化による狩猟者の減少。しかし一方で、狩猟を始めたいという人は増えているといいます。現代の日本では、肉は店で買うもの。生き物の命を奪い、感謝の念と共に無駄なく処理・加工して食べるという、かつては普通のことだったプロセスを誰かがやってくれているわけです。しかしそれによって、人々はどこかで、何かしらの喪失や欠落を感じているのかもしれません。
さて、今回登場の小野里さんは千葉県出身で、埼玉県での営業職をへて、縁もゆかりもない越知町の地域おこし協力隊に入りました。同じく隊員の大石あゆみさんと共に、〈狩猟を通じて農地や山や川を守る〉をミッションに活動しています。〈なぜ都会から田舎に移住して狩猟を始めたのか〉〈どうやって狩猟免許をとったのか〉などは、小野里さんのホームページ『このり手帖』で語られているのでそちらを参照いただくとして、ここでは彼女がどんな狩猟ライフを送っているのかを紹介します。
彼女のイノシシ猟
――越知町でどのような猟をしているのですか?小野里:わな猟ですね。わなは『くくり罠(注1)』と『箱罠(注2)』があって、それを山に仕掛けます。いつ獲物がかかるかわからないので、毎日のように罠を見て周ります。その合間に町のイベントの手伝いなどをして、といった感じです。今年は、約20個のくくり罠と、箱罠1つを大石さんと二人で使っています。獲物はほとんどイノシシです。この地域にはあまりシカがいないので。注1/上を歩いた獲物の足にワイヤーの輪がかかって締まることで捕獲する罠。注2/箱状の鉄格子の檻。その中に獲物をひきつける餌などを入れておく。獲物が入ったら扉がしまり、閉じ込められる。――普通の登山と違い、狩猟は道なき道を登るイメージですが、体力的にきつくない?小野里:私は登山が好きなのですが、想像していたより、狩猟では山に登らないですね。軽トラで林道を上り、駐車してちょこっと山に入る感じです。獲物をひきずって山から下しますから、軽トラから遠いと大変なので。――イノシシは、どれぐらいの大きさのものが獲れるのですか?小野里:大石と私は、この冬の猟期から独立して猟師デビューなんですけど、これまでに20~30kgぐらいのイノシシを4頭獲りました。廃校になった中学校を使わせてもらっているので、そこの給食室でイノシシを解体しています。30分ぐらいで内臓を取って皮をはいで、今は寒いので、時間がないときは、そのまま吊るしておいたり。そして脱骨して、お肉にするという感じです。地元の猟師さんが獲ったイノシシのときは、大きすぎて、たぶん100㎏ぐらいあったんじゃないかな。大変だぞとなって、その場で解体して肉に分けました。そしてリュックに入れて、背負って山から下りたことがあります。――越知町には他の猟師さんがすでにいて、昔からの猟場を持っていますよね。新規参入の小野里さんと大石さんはどうやって猟場を確保したんですか?小野里:実は私たち、それを模索中で。このあたりはあの人が猟をする場所だと、なんとなく決まっていているという感じなんですね。なので、様子をうかがいながら、ここは誰も猟をしていないな、という山に罠をかけています。誰かの罠があったらそこは避ける。このやり方が正しいのかわからないのですが(笑)、今のところトラブルはないです。――それでイノシシが罠にかかったら止め刺し(とどめを刺すこと)するわけですが……。小野里:くくり罠だとイノシシはぐるぐる回ってバンバン動くんで、猟銃で撃って止め刺しします。箱罠の場合、檻の外からイノシシの鼻などをロープで縛り、箱罠の中で動けなくして、首や心臓を、檻の外から槍で刺します。でも、皆さんいろんな方法があるので、それを真似しながら、ちょっとづつ試しながらやっている状況です。――箱罠の場合は槍ですか! 危険では?小野里:そうですよね、危険ですよね。暴れますしね、彼らも必死なので。だからそれも模索中で。箱罠でも銃で止め刺しのほうがいいのかなと。でも銃が下手だと、箱罠を壊すことがあるんです。銃弾が当たって鉄格子が折れたり曲がる。その隙間からイノシシが出てきたらと思うと怖くて。そんなことは、まあないんですけど。
狩猟が仕事の地域おこし協力隊員
――地域おこし協力隊に入り、猟師として独立するまで、どんな流れでしたか?小野里:協力隊の募集段階で、〈猟師に従事して技術を学ぶ〉ことが決まっていたので、面接のときには地元の猟師さんも面接官にいました。「ああこの人に教えてもらうんだな」と。採用後、役場の人と、師匠になる猟師さん、私、大石で話をして、「週に2回一緒に猟をする」などを決めました。――すぐに猟の現場に入ったんですね。小野里:そうです。狩猟免許をとるまでは、猟について行くという感じでした。免許を取ってからは、同じ山で師匠は師匠で罠をかけ、私たちも自分の罠をしかけるように。――獲物の生態を理解していないと、罠にかけられないですよね。師匠の猟師さんはそのあたりのことを詳しく教えてくれましたか? この足跡は何日前のものだとか。小野里:師匠はめちゃくちゃできる人で、動物の痕跡とかそういったことを無意識で理解している人なんです。でも、基本的に罠猟って一人でやるから、普段はあまり人と会話しない。なので、こっちから質問しないと教えてくれないという感じで(笑)。でも、こっちも最初はどういう質問をしていいかわからない(笑)。それでも質問していけば、こういう所がイノシシのハシリ(通り道)とか、罠のかけ方、注意点などを分かりやすく教えてくれました。――獲物の解体方法についても学ぶんですよね。小野里:そうです。師匠からだけでなく、狩猟の講習会などでも。それから、いま、世の中の流れとしてジビエ(野生鳥獣の肉のこと)をもっと売ろうという雰囲気が出てきていて、衛生の講習会や勉強会がけっこうあるんですよ。何が衛生的で何がそうじゃないのか、それがちょっとわからなかったので、そういうのにも参加しました。――その猟師さん以外に、狩猟について教えてもらうことは? 小野里:たまたま隣町の佐川に、狩猟の指導員みたいな人がいたんで、その方にも教えてもらいました。一人の方だけに教えてもらうと、やっぱり知識や経験が偏ってしまうので、これはよかったです。指導員ということで教え慣れている方でしたし。でも、狩猟や銃の免許取得については、自分で一生懸命調べてどんどんやりました。狩猟をミッションにした地域おこし協力隊は私と大石が初でしたし、役場の人が狩猟免許に詳しいわけではないですよね。――この猟期から独立ということは、師匠のもとに約1年半。小野里:そうですね。
3年前の自分がびっくり
――越知町に移住する以前、埼玉県にいたころの小野里さんは、今の自分をイメージしていましたか?小野里:全然ですよ。こんなにお肉に囲まれる暮らしなんて(笑)。食べるのが好きなので幸せです。3年前の私が今の私を知ったら相当びっくりすると思いますよ。大学でラットの解剖をしたぐらいでしたから。――すごい変化ですよね、自分でイノシシを仕留めるなんて。自分の手で止め刺しすることとか、解体するときの匂いのこととか、つらいんじゃないかという人が多いと思いますよ。私も初めて止め刺しするときは不安でした。私、ちゃんとできるのかなって。でも、現場ではイノシシも必死です。めちゃくちゃ暴れる。だから、私も必死でした。私のほうが殺されるかもと。つらいとか怖いとかの感情は出なかった。
狩猟のある暮らしをしていきたい
――小野里さんのホームページ『このり手帖』では、あの手この手でイノシシ肉を調理して食を楽しんでいる様子が掲載されています。小野里:そうなんです。イノシシ肉のソーセージを持ってきました。食べてみてください。――なんと! いただきます。うーん、歯ごたえがあって、うまみも素晴らしいですね。スパイスが効いていて、肉の味わいをひきだしています。大都会のデパートの食肉コーナーで売っていそうな、輸入物のソーセージみたいです。小野里:臭みもないしい、イノシシじゃないみたいでしょう。――このソーセージだけじゃなく、いろんなイノシシ肉レシピを試しているのは、地域おこし協力隊卒業後のことを考えてですか? イノシシ肉と加工品の販売とか。小野里:それができたらいいのですが……。イノシシを含めジビエを商品として売るのは結構たいへんで。まず、お肉をさばく場所について保健所の許可が必要で、それをクリアする施設を作るのにお金がかかるんですよ。お肉がオッケーとなっても、それを加工するとなるとさらに資格が必要になります。なので私にはちょっとハードルが高い。でもそこまでしなくても、みんなに食べてもらうことはできます。イノシシは美味しいんですけど、調理法が難しかったり、大きい塊のお肉でもらっても困るというのがありますよね。なので、加熱したもので、親しみがあるソーセージならどうだろうと、一緒に狩猟をしている大石と作ってみました。
――地域おこし協力隊の任期は3年で、小野里さんは残り1年ですよね。こういうソーセージ作りは、将来への布石かと思ってました。小野里:どうしようかという1年ですね。この3年は、地域おこし協力隊としてお金もらえてラッキーな期間なので、やりたいことを好きなだけしようって。料理をしたり、好きなものを食べたり、写真を撮ったり、ドローンをとばしてみたり、わけわかんないことしたり、いろいろやってみて、「なんかいいことあったらいいな」って感じでやっています。でも狩猟はずっと続けたいし、それができる環境にいたいですね。
★ゴム鉄砲でイノシシやシカの的をねらえ!『おち町ひな祭り』では射的がありますよ!今年で4回目をむかえた『仁淀川ひな回廊(2月24日~3月4日)』。仁淀川流域6市町村(土佐市・いの町・日高村・佐川町・越知町・仁淀川町)の街並みがひな人形で彩られます。そのうち越知町の『おち町ひなまつり』では、3月3日(10:00~12:00)と4日(13:00~15:00)に『射的~イノシシから田畑を守れ!』というアトラクションをご用意。ちょっとした猟の気分を味わえるかも!?場所は『SHOPおちぞね』2階。詳細は、間もなく越知町役場ホームページをご覧ください。
(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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