2018.02.16禅スタイルで野鳥観察

禅スタイルで野鳥観察

米国議会が「渡り鳥保護条約法」を承認して今年で100周年。そんなの日本に関係ない、という声もありましょうが、その条約以来、世界のいろんな2国間(日本もアメリカやロシアなどと)で「渡り鳥条約」が結ばれてきたのですから、我らも祝う理由があるというもの。というわけで、これを機会に、仁淀川流域でバードウォッチングはいかが?

 野鳥、それは私たちの日常で――たとえそこが都会的な環境でも出会える、最も身近な野生動物。でも彼らのことを、どれだけ知っていますか? 
 その翼の色彩がいかに美しく、なおかつ優雅な軌跡で羽ばたくのかを知っている人は? 種によっては、例えば1年のうちに南極と北極を往復するなど驚くべき生態を持っていることは? 恐竜と共通の祖先をもつ「小さな恐竜」であることは?・・・

article122_01.jpgルリビタキ(雄)の背。自然の造形美。一番上の画像もルリビタキ(雄)で、大きさはスズメぐらい。日下川調整池(下池)南岸の林で出会い、約1.5mの距離に近づいて撮影。

 そんな、野鳥の驚異の世界に入っていけるのがバードウォッチング(野鳥観察)であります。仁淀川流域は野鳥が豊富ですが、初めてバードウォッチングする人には日高村の日下川調整池がおすすめ。ここは渡り鳥のオアシスで、冬のこの時期は越冬するカモ類がたくさん集っています。

article122_02.jpg日下川調整池。高知県内最大の湿地帯で、豊富な水草や葦原といった多様な環境が、野鳥や昆虫など様々な生物を養っている。

article122_03.jpgアオサギの羽ばたき。

article122_04.jpgカルガモのダンス?

article122_05.jpg越冬で日下川調整池(上池)に滞在中のヒドリガモ(雄と雌)。赤茶色の頭に灰色の羽のほうが雄。鳥類では、雌よりも雄の羽のほうが派手なことが珍しくない。

 ところで、バードウォッチングといえばどんなイメージですか? 三脚に、でっかい望遠レンズ付きカメラや望遠鏡をのせて、といったところでしょうか? 確かにそんな光景をよく見かけますが、私のやり方は自称「禅スタイル」。
 用意するメインの道具は3つで、野鳥図鑑、双眼鏡、デジタルカメラだけ。なかなか「禅」的なシンプルさなのですが、肝心なのはここから。私の「禅スタイル」とは、なるべく野鳥に近づいて(しかも野鳥を驚かすことなく)観察することなのです。

article_122_06.jpg「禅スタイル」のバードウォッチングにはこれ。野鳥図鑑/日本野鳥の会発行の「新・山野の鳥」と「新・水辺の鳥」がおすすめ(共に税込648円)。双眼鏡/倍率8倍ぐらいのコンパクトなもの。値段は2000円~5000円ぐらい。デジタルカメラ/高倍率ズームレンズ付き、有効画素数1000万画素以上、手ぶれ補正付きであればコンパクトデジカメでもOK.。
article_122_07.jpg日本野鳥の会の図鑑は薄くてコンパクトなので携帯に便利だし、鳥をイラストで紹介しているのもいい。見つけた鳥を特定するときはイラストのほうがわかりやすいのです。

article_122_08.jpg画素数の多いデジカメであれば、撮影したときは野鳥が豆粒ぐらいの大きさでも……。
article_122_09.jpgパソコンの画面で拡大表示すればどんな野鳥なのかが判別可能です。これはオオバン。

「禅スタイル」では、こうやって野鳥に接近

 まず、自分の五感を広げていきます。なんだか胡散臭い(笑)ですが、気分としてはまさにそう。私の場合は、自分の存在がその場の大気にとけ込んでいくような感じになっていきます。「自然との一体化」であります。
 すると、風景のなかの小さな動き、音に敏感になって、林や藪のなかの小鳥でさえ容易に見つけられるように。

article122_10.jpg「禅スタイル」で藪の中にツグミを発見!

 そうなったら次は、限りなく野鳥に近づいていきます。ゆったりと、そよ風のような動きを意識しながら。心のなかで「きみ、素敵だね、なんてかわいいんだ、きれいな羽だね。」とささやきながら。
 ちょっと気色悪いって? まあ確かにそうなんですが、そういう心の声はなんとなく鳥に伝わるようです。穏やかな声で語りかけるとさらに効果的なときもあって、これまでにスズメ、カナダカケス(北米の鳥)、ヤマガラが私の手のひらに飛び乗ったことがあります。しかし、いいおっさんが「きみ、かわいいね、素敵だ~。」と一人つぶやく様子は、他人に見せられたものではないのですが(笑)。

article122_11.jpgモズ。この日は5mぐらいまで接近できた。

article122_12.jpgモズに出会ったら、付近の木の小枝を観察してみよう。「モズの速贄(はやにえ)」があるはず。

 慣れてくると、警戒心があまり強くない鳥であれば5~3mぐらいまで接近できるように。こうなれば、小さな双眼鏡でもかなり大きく見えます。肉眼でも鳥の美しさを堪能できたりもします。
 また同時に、なんともいえぬ満足感に包まれることもお知らせしておきましょう。ひょっとすると、遠い祖先から受け継ぐ狩猟本能が刺激されるのかもしれません。それとも、種を越えたコミュニケーションに心が揺さぶられるのかな。

article122_13.jpg水辺の鳥は観察しやすい。

 さて、日下川調整池の永遠の住人であるかのような野鳥たちですが、彼らの多くは旅の途上。季節の移ろいと共に他所へと飛び立っていき、なかには国境をを越える「渡り鳥」もいます。いま越冬しているヒドリガモは、夏はユーラシア大陸の北部で繁殖するし、水田でお馴染みのチュウサギやアマサギは熱帯・亜熱帯地方で越冬するといいます。日本の野生の鳥類は、その4分の3(約400種)が太平洋、北米大陸、ユーラシア大陸に渡っているそうです。
 美しい姿と声で私たちを楽しませ、ついばんだ木の実の種を糞で蒔くことで植物の繁茂を助け、虫をたくさん食べて生態系のバランスに関わり、ときには私たちの食料になる野鳥。ほかの地域や国でも、大自然や人は彼らを必要としているのです。

article122_14.jpg独特で貴重な景観の日下川調整池。

★日下川調整池のガイドツアー「めだか池フットパス」が開催されています。詳細は詳細はこちらへ。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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