2017.12.08仁淀ブルーに誘われて~私の高知移住日記 『自伐型林業編』

仁淀ブルーに誘われて~私の高知移住日記 『自伐型林業編』

山主(山林の所有者)が自分で木を育て、伐採し、運び出し、売る。まるで農家が畑で野菜を栽培して収穫して出荷するように。そんな、かつては珍しくなかった、小規模で「人任せにしない」林業が、いま、少し形を変えて、注目されています。その世界に飛び込んだ移住者を訪ねました。

第8話 「自伐型林業で、山林の価値を再び」
滝川景伍(たきがわけいご)さん(34歳)
神奈川県横浜市→佐川町へ(2014年10月に移住)

 面積の約半分が杉や檜の人工林という佐川町。この地域の林業は、山奥だけでなく、里に近い小さな山でも行われています。滝川景伍さんの現場もそうで、そこは水田のそばの、こんもりと低い里山。3年前に横浜から移住し、今年の10月末日に佐川町地域おこし協力隊を卒業した滝川さんは山主に委託され、ここで「自伐型林業」と呼ばれる小規模林業に取り組んでいます。山主が自ら林業すれば「自伐」ですが、ここは滝川さんの山ではないので「自伐型」なのです。

article112_01.jpg滝川さんが自伐型林業をしている檜林。

「ここは檜が40年生ぐらいの山で、面積は約2ヘクタール。間伐をしていき、残した木を太らせていきます。ふつうは50年生ぐらいで伐採することが多いのですが、この山では長伐期施業(伐採林齢を80~100年まで引き延ばす)を目指します。森林経営を長い目で見て、何度もこの山に入って作業をしていくということです。」
 ところで林業といえば枝打ちや下草刈りなどをイメージしていたのですが、まずは山に道を作っていく作業の割合が大きいようです。
「高密度で山に作業道をつけ、軽トラや2tトラックが入れるようにするのが自伐型林業の特徴のひとつだといえますね。木を倒したときにどこかの作業道にかかるようにしておけば、木の搬出に必要な機械や道具が少なくてすみます。」
 なるほど、自伐型林業は低コストだと言われていますが、そんな工夫があればこそなのでしょう。作業道を敷設するときにはバックホーが欠かせませんが、それが終われば、自伐型林業に必要な機械はチェンソーとトラックぐらいだ、とさえ言われているのです。バックホーで山を削って作業道を作り、チェンソーを使って間伐し、ぎりぎりの幅の作業道で器用にトラックを走らせ、間伐材をトラックに積み、林産組合などへ運んで売る――それを滝川さんは一人でこなしています。

article112_02.jpg作業道を作るときに活躍するバックホー。

注目の自伐型林業に、いち早く取り組んだ佐川町

 杉や檜の木材価格の低迷により、「山林を所有していても儲からない」と言われる時代が長く続いています。そんな中、注目されているのが、伐採や搬出を森林組合などに委託せずに山主が自分でしてしまおう、そうすれば経費がかからないのでまる儲け、という「自伐林業」。また、自伐林業のように必要最小限の道具(例えば軽トラとチェンソー)と少ない経費で、山主に代わって施業する「自伐型」も、山林を所有していないけど林業を始めたい人たちの関心を集めているのです。

article112_03.jpg伐倒した檜を玉切りしていく。このあと、トラックに乗せて出荷。

 滝川さんが自伐型林業のことを知ったのは、東京で出版社に勤めていたころでした。
「30歳を機に転職を考えました。結婚して、子供も生まれていました。一次産業に興味があったのですが、林業については体力的にきついし危険、儲からないと、頭になかった。農業がいいなと思っていました。でも、僕の先輩が自伐型林業の推進協会の事務局をしていたんです。それで、自伐型ってなんだ? と、聞きなれない言葉にひっかかった。」
 調べてみると、自伐型林業はちゃんと稼げそうなことがわかったのだと滝川さん。大学時代には登山サークルに入っていたほどの山好きなので、山の自然を相手にする仕事に俄然興味がわいてきた。
「その時点で自伐型林業の最先端をいっていたのが高知県でした。しかも、ちょうど佐川町では自伐型林業をミッションにした地域おこし協力隊を募集していたんです。」
 そして奥さんの賛同もあり、滝川さんは佐川町へ。

高知県は自伐型林業の先進地

 面積の84%が森林で、うち約65%が人工林という高知県では、森林組合などの事業体だけでなく、個人の林業家にも森林経営に参入してもらうことで、林業の担い手のすそ野を広げようとしています。なぜなら、人工林をきちんと手入れすれば山の保水力が増して土砂災害を予防できるし、林業が盛んになれば中山間地の地域振興も期待できるから。自伐や自伐型林業といった小規模林業を対象に、間伐や作業道整備や機械のレンタルなどに補助金を出すなど、様々な支援制度が用意されているのです。

article112_04.jpgバックホーのレンタル代も補助がある。

 なかでも佐川町は、地域おこし協力隊のミッションの一つに「自伐型林業の推進と実践」を掲げ、2014年から自伐型林業チームの募集を行ってきました。滝川さんはその1期生。林業未経験者だった滝川さんですが、3年間地域おこし協力隊で自伐型林業を経験してきた今ではいっぱしの林業家に見えます。
「いや、まだまだです。例えば佐川の地域おこし協力隊で、トマトや生姜栽培などをしている隊員は、先輩農家に弟子入りして学べます。しかし、自伐型林業チームには師匠がいないのでほぼ独学。1年で会得できることを3年かけている感じです。」
 林業の技術を早く身につけるなら、森林組合などで働くほうがいいと滝川さん。しかし、地域おこし協力隊で林業に携わるメリットは、ワンクッションをおけることだという。
「役場から給料をもらいながら、林業についての様々な考え方に出あえるし、自分の方向性をいろいろ考えるゆとりもある。林業の事業体で働くと、毎日の仕事で精いっぱいになるだろうし、事業体の考え方に染まると思うんです。それはそれでいいのですが、僕には3年間地域おこし協力隊で林業ができたのはよかった。多くの自伐林家さんの所へ視察に行けたし、いろんな目線で林業を見られました。」

article112_05.jpg間伐など、手入れが必要な林を眺める滝川さん。

 そんな滝川さんに、自伐型林業の意義を聞いてみました。
「自伐型林業とは何かって、人によって違うんですよね。僕が考えているのは、それは地域の林業なんです。例えばそこに耕作放棄地があって、地域の人がそれを何とかしようとなって、でも地域には年寄りしかいないから、若いやつを呼んできて、移住してもらったりとかして、畑として使ってもらおう、ということがありますよね。それを山林でやるというのが自伐型林業だと僕はとらえています。それから、林業の事業体では採算が合わない山林に入って、でも収益は確保していくというのも自伐型林業のあるべき姿でしょうか。」
 地域に関わりのある人が地域の山林を守り、未来へと受け継いでいく。だから収益を確保するといっても、木を切りまくって売るというのではないようです。
「山林の価値を復活させたい。昔、山林は財産でしたから。いまは、『林業しても儲からないでしょ』とよく言われるんですが、それをひっくり返したい。いい木を育てて、長く、何世代にもわたって収益をあげられるようになれば、それこそ地域おこしになります。高知県は山林ばかりですし。」

article112_06.jpgいまは作業も、お弁当を食べるのも一人という滝川さん。ちょっと寂しいけど、自分の才覚とペースで森林経営できるのが魅力。

自伐型林業の収支

 さて、林業家として独立したばかりの滝川さん。来年4月からは佐川町が用意した山林で自伐型林業をしていきます。
「その山林は、佐川町が複数の山主を説得して、20年の契約で集約したもの。協力隊卒業後の林業の現場まで用意してくれるなんて、なんか『いいのかなあ』って感じですよね。」
 しかし、そんな行政の手助けや、補助金がなければ、山林を持っていない移住者が自伐型林業をしていくのは難しいだろうと滝川さん。
「高知県では、作業道の敷設にあたって1mあたりで補助金が支給されます。当面はそれで生活できる。支障木(作業道づくりで伐採した木)や間伐材で得た収入は経費で消えるといった感じですね。しかし間伐によって森が健康になれば、だんだんと価値ある良い林になっていきます。そのなかから良い木を選んで継続的に伐採して売るようになれば、収益は上がっていくはずです。」
 すでに先人が植えた木々がある程度育ち、山を覆っているのですから、あとはうまく森を管理し、適切なときに最善のやりかたで伐採していけば、ということなのでしょう。
「適切な間伐によって優良な木が育っていけば、利益の一部として山主さんへお戻しする金額も、今後はより多くなると思います。」

article112_07.jpg晴れた日は、木漏れ日が美しい。いい仕事場ですね、滝川さん!

林業以外でも、山を活用したい

 自伐型林業家として地域の山林を手がけるだけでなく、山林を利用してなにか面白いことをしたいと滝川さんは言います。
「各地の山林ではいろんなことをやっていて、ある林業会社はツリーハウスを作ったりしてます。山林の作業道を利用して、マウンテンバイクやトレールランニングといったアウトドアスポーツの場にできないかと、僕も考えたりはするのですが。」
 でも自分が所有する山林ではないので、その実現には、林業家として地域に認められることが必要。
「まずは足場を固めてから、ですよね。」
 価値ある木材を供給できる山林になるのはまだ先。未来を夢見ながら、「いま」も充実させるにはどうすればいいか。それは自伐型林業にとりくむ滝川さんだけでなく、私たちみんなに共通するテーマなのかもしれません。

佐川町地域おこし協力隊

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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