2017.10.06新高梨(にいたかなし)の季節がやってきた!

新高梨(にいたかなし)の季節がやってきた!

高知の10月といえば、その大きさに圧倒される新高梨の旬。
巨大な梨は、どこで、どんな人が作っていると思いますか?
仁淀川の支流が潤す佐川町黒岩地区へ、3代続く梨の果樹園を訪ねました。

 佐川町の黒岩地区。地名の由来となった「黒岩」が鎮座するあたりは開けた水田地帯ですが、そこから山のほうへ足を延ばせばもう一つの風景に出会います。

article103_01.jpg黒岩地区の黒岩。

 それはまるで隠れ里のよう。標高200m前後の穏やかな山並みに小さな盆地が点在し、田畑に囲まれた民家がぽつりぽつり。地形と豊かな森のおかげで、このあたりは昼夜の気温の寒暖差が大きいそうです。
「それが、梨も含めた落葉果樹の栽培に適しているんです」と、この地で3代にわたってその栽培をしてきた土本観光果樹園の土本誠さん。梨は、幸水、豊水、新高、新興がここですくすくと育っています。

article103_02.jpg土本観光果樹園。

 さて、10月といえば新高梨の旬。約100年前に新高梨の栽培が始まった高知県は、全国的にもその名産地として知られています。なかでも、このところ人気上昇中なのが黒岩地区の新高梨。昨今では地球温暖化など環境変化の影響を受けている農業ですが、黒岩地区では豊かに残る自然が守ってくれるのか、ここの新高梨は安定したおいしさを誇っています。そして、味や姿のよさを求め、それぞれの農園が工夫や努力を重ねています。

article103_03.jpg新高梨の畑。

 工夫といえば、土本観光果樹園では土づくりにこだわっています。なんでもジュラ紀(恐竜が栄えた約1億9960万年前~約1億4550万年前)のころから存在していたと言われる菌を堆肥に混ぜているそうです。この菌は有機物を分解する力が極めて旺盛で、しかも抗菌物質も生産するため、農作物の病気を抑制する効果もあるとのこと。
「うちは、ミネラル中心でやっていて、化学肥料は一切使ってないんです」と誠さん。そして、梨の実を太らせることを第一に目指す栽培ではないと言います。
「梨が元気になって、それを食べた人も元気になる、そんな、安全でおいしいものを目指した栽培をしています。」
 土本観光果樹園の新高梨は、高知県の果実品評会において10年連続でなんらかの賞に輝き、そのうち平成24、26年には農林水産大臣賞を受賞しています。「10年連続ということは、それだけうちの新高梨の味が一定していて、バランスがとれているということ。それも、土づくりのおかげだと思っています。」

article103_04.jpgこれで1㎏ぐらい

 ところで、新高梨といえばその大きさが特徴です。土本観光果樹園の新高梨は平均800g~1㎏ぐらいで最大約1.5㎏ですが、2㎏のものを出荷する農園もあるそうです。大きいほうが、とくに贈答品として珍重されるそうですが、1㎏前後のものでも味は変わらず、しかも値段的にはちょっとお買い得。そして、家族が少なくても1個を食べきれるので、近頃では小さめの新高梨を求めるお客さんも多いそうです。

article103_05.jpg新高梨の林。地面は草原みたいで、心地いい。

 誠さんのお父さん・鋼さんに、梨畑を案内してもらいました。
「ここではもう30年も中耕(作物の生育中に浅く耕すこと)をしてない。草を刈るぐらい。ミネラル豊富ないい堆肥をつかっているのでミミズがたくさん沸いて、それを食べにモグラが来る。だから土の中に空洞ができて空気が通る。また、川を汚すようなものを土に入れていないので、すぐそこの小川では、初夏になると蛍がすごいですよ。」

article103_06.jpg土本観光果樹園のとなりを流れる小川。初夏には蛍が乱舞。

 土本観光果樹園の梨畑は約70アール。新高梨の場合は一本の木に150個ぐらい、幸水や豊水の場合は300個ぐらい生るそうです。そして、鋼の父親(誠さんの祖父)が植えた樹齢50年以上の新高梨の木が今も現役だとか。
「木の本体は古くても、若い枝には実がつく。人間でも若い嫁さんをもらったら元気になるしな(笑)。木は上も下も一緒やからね、若い根が伸びていけば、若い枝も元気になる。そのためには肥培管理(農地に施す肥料や水などの管理)が大切。」
 そして若い枝のなかから将来有望なのを選び、剪定を続けていき、ときが来たら代替わりさせていくのだそうです。

article103_07.jpg樹齢が50年近い新高梨の木。

 50年も生き、新高梨の実をつけていきた木。台風、猛暑、豪雨など、荒々しい高知県の自然にどれだけ耐えてきたことでしょう。そして、それを見守り、育て続けてきた鋼さんもたくさんの苦労をかさねてきたに違いない――私はそう思い、話を向けると、「取材の人はみんな苦労話を求めるなあ」と彼は笑いました。
「一生懸命やりょうたら、苦労はないわね。忘れていくね、辛いことは。苦労を苦労と思わんようになる。」

article103_08.jpg土本観光果樹園の新高梨。あふれる甘い果汁やシャリシャリした食感に、何度も「おいしいなあ~」とつぶやきながらいただきました。

 ところで、土本観光果樹園ではリンゴの栽培もしています。品種はつがる、ジョナゴールド、ふじなど。高知県内でリンゴ栽培を大がかりにやっているのはここを含め3カ所ほどだとか。畑の面積は約50アールで、ここでも化学肥料は一切使わないそうです。約30年前、鋼さんの奥さん・昭美さんが主体となって栽培に着手し、いまは誠さんがそれを引き継いでいます。

article103_09.jpg標高150mの山肌にあるリンゴ畑。

 誠さんに、お父さんが「苦労はなかった」と言っていたことを話すと、自分こそ苦労していないと言いました。
「親たちは本当に苦労したのだろうけど、僕はそれを受け継いだだけですしね。」
 両親が築いてくれたものを受け継ぐだけでなく、自分なりのチャレンジをしていきたいと誠さん。リンゴの新矮化(しんわいか)栽培もその一つだといいます。
「それは、リンゴの木で生垣を作るような栽培方法なんです。リンゴの葉にむらなく光があたるので生育にいいし、高さを2mぐらいに抑えるので管理や収穫が楽になる。」

article103_10.jpg土本誠さん。

 現在の日本では難しくなってきた「何世代にもわたって継承する」――私はいま、それを見ているのだなと思いました。自然から持続的に糧を得る仕事を受け継ぐ人の姿は、なんだかまぶしい。
「うまくいけば、リンゴがたわわに実る生垣になっていきますよ。」
 それは、もぎたてを皮ごと食べてよし、ただ見るだけでも心が満たされる、美しいリンゴ畑になるのでしょう。また一つ、仁淀川流域を訪ねる楽しみが増えそうです。

article103_11.jpg高知県では珍しい風景が広がっていました。

◆黒岩地区の新高梨に出会える場所はココ!

土本観光果樹園をはじめ、黒岩地区で栽培された新高梨が仁淀川流域で買えるのは、

・はちきんの店(佐川町)
・サンシャイン(スーパーマーケット)
・村の駅ひだか(日高村)
などです。

土本観光果樹園では通販もしています。また、もぎ取り(新高梨は除く)やオーナー制など体験メニューもあります。詳細は土本観光果樹園のホームページへ。
★村の駅ひだかでは、土本観光果樹園のもぎ取り入園券を優待販売しています(通常大人600円のところを550円に)。


(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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