2017.10.13川遊びの達人が、今年もやってきた!

川遊びの達人が、今年もやってきた!

アウトドア月刊誌「BE-PAL」の連載でも知られる「雑魚党」のメンバーが、昨年に引き続き仁淀川に参上! 待ちかまえるは、地元越知町の元気な子供たちです。台風の影響で濁り気味の川面でしたが、大いに楽しんだ2日間の模様をお届けします。

 子供を対象にしたビジネスの関係者がこの光景を見たら、困惑するに違いありません。この日、子供たちが熱中していたのは、小さな液晶画面に出現するモンスターではなく、世界一有名なネズミと仲間たちのパレードでも、集団で踊るきれいな女子でもなく――つまりは、「大人のお金儲けのにおい」をまったく感じないことだったのですから。

article104_01.jpg竹林から伐採した竿に糸、浮き、釣り針という、とっても素朴な釣り方ですが、子供たちはもう夢中です。

 場所は越知町の仁淀川。子供たちが手にしているのは、竹藪から頂戴した細く長い青竹。その端に、釣り糸とウキ、小さなおもり、釣り針という仕掛け(総額100円ぐらいかな?)を結び、餌はミミズであります。そして、「学校の授業でもこうだったらな~」と親を嘆かせそうな集中力で狙っているのは、ドンコやハヤなど、あまり食用にされない、家に持ち帰っても大人はあまり喜んでくれない、いわゆる雑魚であります。

article104_02.jpg子供たちには、魚の種類や大小は関係なし。釣れたら嬉しい! そんな純な反応が、おじさんたちには眩しいです。

 また、釣り竿をかまえていないときは、釣り上げた魚をさばいて内臓を取り出してキャーキャー言ったり、から揚げにしてもらったその魚を嬉しそうに食べたり、河童のように川を流れながらはしゃいでいました。

article_104_03.jpg釣れた獲物は、ハヤでもドンコでも食っちまおう!
article_104_04.jpg救命胴衣を着て、ぷかぷかと川流れ。すごく楽しそうですけど、この日の水温はたぶん20℃以下。仁淀川流域の子供たちは河童か!?

「そんな、原始時代からやってるような遊びをしてもね」という御仁は少なからずいると思います。子供のころから、〈社会で成功するためのスキル〉に結びつくことをしなくちゃ、と。そんなことをして何になるのだ、と。
「いや、何かになる」と信じているのが今回の講師陣、小学館のアウトドア月刊誌「BE-PAL」でも活躍中の川遊び集団「雑魚党」の面々であります。

article104_05.jpg藤原祥弘さん。野外活動や自然科学をテーマに活躍中のフリー編集者・ライター。しかしその真の姿は、日本全国隅々の川にタモ網を入れて約20年の、魚介ハンター。素潜りは、もはや半魚人なみ。

article104_06.jpg夏丸さん(阿部夏丸さん)。川や子供たちを題材に物語を書く小説家で、矢作川水族館館長。デビュー作『泣けない魚たち』は坪田譲治文学賞と椋鳩十児童文学賞をダブル受賞。彼の小説は小学校の国語の教科書に載っているので、子供たちにとっては憧れの存在。

article104_07.jpg博士(奥山英治さん)。生き物が好きな子供がそのまま大人になり、ついにはそれを仕事に。ツインリンクもてぎ(栃木県)にある森の自然ミュージアム『ハローウッズ』内に『日本野生生物研究所』を構え、代表を務める。アウトドア雑誌『BE-PAL』誌上で10年以上『雑魚党漁労長』を務める。『虫と遊ぶ12ヶ月』(デコ)など身近な生き物の魅力を著作で伝えている。

 9月の23・24日、この3人をむかえて、越知町の子供たちに向けてのイベントが開催されました。

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今年も仁淀川移動水族館が登場。夏丸さんと博士が2日間で仁淀川の生き物20種以上を獲ってきてくれました。

こんな大人に出会いたい

article104_12.jpg博士の催眠術。

 雑魚党の方針は、「準備や段取りはしてあげるけど、そのあとはなるべく子供たちにまかせる」というもの。経験していくことで、子供たちは自力でやっていくようになると、夏丸さんは言います。つまり、彼らは講師というより、川遊びの先輩、頼りになる近所のおじさんといったところでしょうか。
「僕らは、先生が言えないことを担当しているよね」と夏丸さん。「魚のいのちより、お前が喜んでいることのほうが嬉しい、とかさ。」

article104_13.jpg見よう見まねで、博士の催眠術をあっさり自分のものにした女の子も! おぬし、なかなかやるな~。

川遊びで育まれること

 このイベントでは、夏丸さんがこれまでに経験した川でのエピソードも披露。子供たちは目をキラキラさせて聞いていました。すべてを紹介したいところですが、その内容を少しだけ。
「近所の子に誘われて冬の川に魚獲りに行った。獲れたのがウシガエル。冬眠しているからじっと動かないんだな。その子は『夏丸さん、これ死んでるの?』っていうから、春に暖かくなったら動き出すよ、って答えた。彼はそのカエルをじーっと見て言った。『温めたら動く?』。くやしかったね。オレ、冬眠中のカエルを温めようなんて思ったことなかったから。そして彼はじーっと考えて、『風呂入れてみようかな』だって。で、カエルを持ち帰って本当に風呂に入れたら、動いたんだって。」

article104_14.jpgカマツカの口は下向きについてんだ。なんでかな?

「流しそうめんならぬ、〈流しドジョウ〉〈流しメダカ〉をしている子がいたんだ。まいっちゃったよ、オレ、50年間川で遊んできたけど、そんなのやったことがなかった。こういう遊びには発見がある。その子は驚いているんだ。『ドジョウもメダカも、流されて落ちちゃうのに、流れに逆らいながら泳いでる!』。この子は理科の目玉を持った子だなあと思いました。」
 そういえばこのイベント中、釣った魚をさばいていた女の子が、魚の内臓から浮袋を見つけて、「これなに?」と私に質問してきました。「それは浮袋でさ、それがあるから魚は川の底へ沈んでいかないんだ」と説明したのですが、そのあとの彼女の言葉に私はどきりとしました。
「じゃあ、この浮袋の空気はどこからはいってきたの?」

article104_15.jpgこのお魚はなあに?

 夏丸さんの話を聞きながら、川での遊びには、普通の学校教育では得にくい体験があり、心の成長があるのだなあと思いました。
「今日は、捕まえた生き物を全部食べちゃおう」と、夏丸さんは子供たちに宣言しました。「だから捕まえたら一匹も逃がすな(笑)。これ、僕のイベントではいつもやってます。魚を捕まえた瞬間、子供たちは「やったー!」と喜び、いい顔になる。そのあと、それを串に刺すと、かわいそうと思う子もいるし、何か嬉しい気持ちもあったりする。それを火にかざして焼くと赤く色を変える。その光景がきれいだなという気持ちにもなったりする。そして、最後に口に入れると、美味しいなあという気持ちになる。気持ちがどんどん変わっていく。生き物をいただくということが、実感としてわかってくる。」

article_104_16.jpg自分で釣った魚は自分で食べる。
article_104_17.jpg仁淀川で、アユじゃなくて、雑魚を食べるなんて初めてだ!

思いっきり遊べば、故郷になる

 来年の春、越知町では、仁淀川を見渡す川辺に新たなキャンプ場が誕生します。
「キャンプ場って、観光客を呼び込むためのツールに見えますよね。でも僕は、地元の人たちもそのキャンプ場を利用して、もっと仁淀川で遊んでもらいたい。そして人生を豊かにしてほしい」と言うのは、我が仁淀ブルー通信の編集長・黒笹であります。実は今回のイベントの仕掛け人。
「ではどんなふうに利用し、遊べばいいのか。その練習みたいなものとして、今回は地元の子供限定の川遊びイベントにしてみました。」

article_104_18.jpgこの日限りの川辺のレストランでランチ。
article_104_19.jpg竹筒で炊いたご飯。お味はいかが?

 子供たちを地元の川で遊ばせていると、どうなるのか。夏丸さんはこんなエピソードを語ってくれました。
「昔一緒に川遊びした子と、再会したんですね。大学生ぐらいになっていたんですけど、彼が『夏丸さん、あのとき獲ったウナギは大きかったね、初めてだったけど僕はそれを自分でさばいたよね』と両腕を広げるんだ。でもオレは覚えていたんだ。そのウナギは30センチぐらいで細かった(笑)。」
 子供の頃に川で遊んだ記憶は薄れない。そして、その思い出は成長していくのです。

article104_20.jpg子供だけでなく大人も興味深く夏丸さんの話を聞きました。

 子供たちへの話の結びに、夏丸さんはこんなことを言いました。
「いっぱい遊んだことが思い出になる。そうすると、遊んだところが故郷になります。だから、いっぱい遊んでおかないとね。」

article104_21.jpgこんな清流が故郷。うらやましいなあ。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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