2017.09.15日本で一番早い天然マイタケ採りへ!

日本で一番早い天然マイタケ採りへ!

天然のマイタケって、食べたことあります? どんなところで採れると思います?
清流を生む森の奥深くへ、達人と共に、おそらく日本で一番早い天然マイタケ採りに行ってきました。

「さあ着いた。ほら、あそこにマイタケが。」
 という達人にうながされ、15mほど先の巨木の根を見つめるのですが、「どれですかどれ?」とうろたえるばかりの私。
「わからんかなあ、あそこにあるでしょう。」
 正直、目が霞んでいるのかもしれません。ここまで藪をかき分けながら、標高差約300m、急峻な山肌を這うように登ること約1時間。登山道などはなく、いま立っている場所はおそらく獣道。人の足跡は、これまでに何度か往来した達人のものだろう。
 足元は急斜面で不安定。意識を集中しないと遥か谷底へと転げ落ちそうです。まっすぐ立つことに苦労するなんてめったにないぞ。
 マイタケよ、どこなのだ……。

article100_01.jpg天然マイタケへの道……これ、道?

 スーパーマーケットで日常的に目にするマイタケ。それらは農園で栽培(菌床栽培)されたものですが、私が探しているのは天然のマイタケ。菌床栽培のマイタケよりずっと美味しく、マツタケ並みかそれ以上に貴重で、そのありかは家族にも秘密にするとか。
 そんな魅力的な山の幸が、いつ、どんなところに生えて、どうやって採取されるのか、そしてどんな味わいなのかを知りたくて、私はいの町の山奥へ。なんでもこの辺り、日本で一番早い天然マイタケ採りができる地域らしい。

命がけ!? の天然マイタケ狩り

 案内してくれたのはこの山奥育ちで、「天然マイタケ採りについて、100か所以上の記録を残している。」という達人。この日は、彼の経験から採取確実な地点へ向かったのですが、その道のりは登山経験豊富な私でもビビる道なき急斜面。
 崩れやすい斜面に足をとられ、とっさにつかんだ立木は麩菓子みたいに折れて、転落寸前になったことも多々あり。ふと気づくと、手のひらや指には、カミソリで切ったような浅い切り傷が10カ所以上。
 こりゃ、遭難保険に入っとくべきだった……という後悔がよぎる緑の魔境であります。

article100_02.jpg緑の魔境に天然マイタケはある。

 が、そんな感想は私の独りよがりみたいで、達人は御年64歳なのに神社の石段を上るような気楽さで前を行きます。しかも地図もコンパスも使わない、というか持ってもなさそう。うっそうとした森で遠望が利かないのに、大丈夫なのかな。
「山肌の傾斜や、尾根や谷など地形の変化、目印になる木や岩で、どこにいるかわかる。」と達人。しかし、平らであまり特徴のない山では迷ったこともあるらしい。険しい地形にも長所はあるのだなあ。

 何度も、「その濡れた倒木を踏むと、こじゃんと滑るぞ」と助けられながら目的地へ。そして5mまで近づいてついに、巨木の根元から生えている天然マイタケ発見!
 すごい、一カ所でこんなにたくさん生えるんだ。

article100_03.jpg6~7㎏ぐらいの収穫。ときには、人の頭よりずっと大きいものに出会うことも。

「こういうミズナラの大木の根元に天然マイタケは生える。こいつは、収穫のタイミングとしてはかなりいい育ち具合。」と達人の顔がほころびます。
 そして、ひとつ残らず採取していく。「残しておくと、他の人が気づく」と、ミズナラの根や土に残ったマイタケの軸もきれいに除去していきます。達人と私の足跡も、落ち葉で覆っていく周到さ。
「そこまでしなくても、こんな険しい森に人は来ないし、来てもマイタケに気づくかな? 」と聞くと、「いや、ばれる。」と達人。
 それだけ天然マイタケは美味しいし、売ればいい値段になるといいます。1㎏あたり7000~8000円。この日は7㎏近く収穫できました。

article100_04.jpgミズナラなどの巨木の根元に菌が侵入し、マイタケが発生する。発生は1~3年ごと。

 しかし達人にとっての天然マイタケ採りは趣味。「こりゃ、帰ったら宴会ぜよ。」と、近所の人や友人と楽しむそうです。収穫期の8月下旬から10月中旬は、ほぼ毎日のように山に入るとか。趣味というにはハードな気がしますが、山の幸という報酬はある。岩登りに熱中する登山家よりは正気かな(笑)。それに、普通に登山するよりも、自然の不思議に感動することも多そうです。マイタケを探しながら、五感で森を観るのですから。

道なき森を、自在に進んでいく

 下山は違うルートから。私の疲れ具合を見て、登ってきたルートを戻るのは危険と判断したようです。と言ってもこちらも登山道はなし。かすかな踏み跡はありますが……。
 私は急な山肌を横切るのに手間取り、ときどき転んで山側に倒れては起きるを繰り返しながら進んでいきます。すると達人、細い灌木の幹が「への字」に折れているのを見せてくれました。

article100_05.jpgこのように折れた細い幹が点々とあった。

「これ、なんだと思う? 」
 人が通ったってことかな。目印として折ったとか。
「昔は僕もそう思った。でもよく見ると、ほら、この折れたところの少し横にも傷がある。そして、折れている場所の高さ。これはきっとシカの仕業。噛んで折ったんでしょう。理由はよくわからないけど、シカってそういう習性なのかもしれない。」
 歩いていくと、折れた幹が点々とありました。ということは、私たちはシカの道を歩いているんだ。

article100_06.jpgおそらく、ほとんど人に知られることのない巨木。

 達人が「森の雰囲気が変わったでしょ」といいました。植林はなくなり、自然の森へ。ブナやツガなど広葉樹と針葉樹が混在した、多様な生態系の森です。天に枝葉を広げる太いミズナラにも出会いました。
「その木、こっちから見たら立派だけど、反対側を見て」と達人。回り込むとその根元に穴が。木の芯まで空洞になっています。
「もう倒れる運命ですよ。この空洞は、マイタケのせいではないようだけど」
 マイタケというのは木材の成分を腐食し劣化する菌類で、それに進入されたミズナラはだんだんと弱り、いずれ折れたり倒れたりするそうです。ここでは、自然の掟のなかで、生命は姿を変えながらつながっていく。
「こんな輪廻転生の世界に身を置くことは、達人にとって癒しなのかな」と、私は想像していました。

article100_07.jpg藪を進む達人。

 どこをどう歩いたのかわからぬまま、藪を抜けると目の前に私たちの車が。恐るべき達人の能力。そしてそれは、大昔から人間に備わっていたけど、今ではほとんどの人が退化させている能力なのでした。

味わい最高の山の幸です

 やはり高知の人は太っ腹! 達人から天然マイタケをたくさんいただきました。その味は上品な旨みにあふれ、肉厚で食感も最高。いくらでも食べられる、そして食うほどに腹が減る美味しさでした。でもこれ、人生で最初で最後かも(涙)。

article100_08.jpgバター炒め。バターの風味とのマッチングよし。

article100_09.jpgサケと一緒にフォイル焼き。魚系ともよく合います。

article100_10.jpg鳥すきにもしてみました。これが、天然マイタケの風味を一番感じられるレシピでした。

 さて、天然マイタケを食べる機会はなかなかないと思いますが、ほぼ同じ味わいが栽培物でも楽しめます。それが原木栽培のマイタケ。

article100_11.jpg越裏門でマイタケの原木栽培をしている岡林弘さん。仁淀ブルー通信2015.10.22配信の記事にも登場してくれました。

article100_12.jpgマイタケの原木栽培をしている畑(左側)。取材時にはまだ生えていなかったが、「きのこ大収穫祭」までにはちゃんと収穫できるそうです。

 いの町本川地区の越裏門(えりもん)集落ではマイタケの原木栽培が行われていて、来る10月7日にはその収穫祭が開催されます。題して「きのこ大収穫祭」。原木栽培のマイタケや畑シメジ、キクラゲなどを使ったキノコづくしの料理などが楽しめるそうです。参加は事前申込制で、定員は70名ほどなのでご注意を。問い合わせは、いの町本川総合支所産業建設課(Tel 088-869-2115)またはいの町観光協会へ。

article100_13.jpg「きのこ大収穫祭」が行われる「氷室の里」にて、岡林弘さんと、いの町役場本川総合支所の北川妹さん。「越裏門のきのこ料理をぜひ食べに来てください!」

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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