2015.10.22山デビューは瓶ヶ森へ、なぜならよい宿があるから(後編)

山デビューは瓶ヶ森へ、なぜならよい宿があるから(後編)

登山の魅力は山の自然だけにあらず。その自然と共に暮らしてきた人たちもまた素晴らしい。瓶ヶ森(標高1896m)の麓、いの町の山奥にある越裏門(えりもん)集落で農家民宿「柊」を営む岡林弘さんを訪ねてきました。

 岡林弘さんはかつて山荘しらさ(前回の仁淀ブルー通信をご覧あれ)の経営をしていて、瓶ヶ森を含む石鎚連峰をよく知る人です。「齢なので山のガイドは難しいですが、」と弘さんは残念そうですが、山にまつわるいろんな話を聞くことができます。また奥さんの皐月さんは石鎚連峰の山野草に詳しく、栽培も手掛けているとか。「うちの畑は花ばっかり」と弘さんは苦笑します。
「剣山に群生地がある、キレンゲショウマという黄色い花をご存じですか?」
 小説家・宮尾登美子の作品に、徳島と高知の県境にそびえる剣山(四国第2位の高峰)を舞台にした「天涯の花」があります。この「天涯の花」とはキレンゲショウマのこと。皐月さんはその栽培が上手で、高知市の県立牧野植物園にあるキレンゲショウマは岡林家のものがルーツなのだそうです。

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 さて農家民宿「柊」ですが、2年前に離れの一軒家の客室を新築。岡林さんの山の木をふんだんに使ったスタイリッシュなログハウスで、自然素材の心地よさと開放的な空間が自慢です。窓の外には吉野川源流域の流れがきらめいています。この他に客室は旧館に2つ。「この新しい離れに泊まりたければ、早い者勝ちです」とのこと。

 気になる食事ですが、柊では山菜や川魚(天然アメゴ)など季節の山の幸が並びます。私が注目したのは秋(9,10月)のマイタケ料理。この山里ではなんと野生のマイタケが採れるのです。そんな自然環境のおかげか、岡林さんはマイタケの原木栽培に成功しました。
「栽培にはまず原木の滅菌処理が必要なのですが、ドラム缶でグラグラと原木を湯掻いただけ。そしてマイタケの菌を植えただけ。『こんな簡単なやり方で育ったのか!』と県の農業担当が驚いていました。この地域はマイタケの生育に適しているのでしょうね」
 原木マイタケの味は天然ものと変わらないそうで、高知市の老舗ホテルの料理長も絶賛だとか。今後はこの地域の秋の特産品にするべく、プロジェクトが進行中です。

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 こんなふうに弘さんから山や集落について話を聞きながら、私はネパールでのヒマラヤ登山を思い出していました。登山のベースキャンプまで何日も歩くわけですが、その間に泊まった山小屋で現地のシェルパ族とメシを食べ、語り合ったものでした。そして、「山頂に立つことだけが山の魅力ではない」と、気づかされました。

 取材が終わろうかというとき、この地域の伝統芸能で、国の重要無形民俗文化財になっている本川神楽の話になりました。弘さんは本川神楽保存会の会長でもあるのです。
「本川神楽では、真剣を使って舞う演目もあるがですよ」
 でもそれって、切れないように刃を落としているんですよね?
「いえいえ、スパッと切れます。この先、扱える後継者のことが悩みなんですよ」
 これはこれは……また柊を訪れないといけないなあ。

(仁淀ブルー編集部 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら

◆農家民宿「柊」
http://inogt.jp/nouhaku/hiiragi/
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