2017.08.18「仁淀川いきものがたり」川の宝石、オイカワ(ハエ)

「仁淀川いきものがたり」川の宝石、オイカワ(ハエ)

川釣りを覚えて最初に釣れる魚の一つとして、どの地方でも知られているのがオイカワではないだろうか。どんな川にも生息し、上流から中流にかけて一般的に見られる淡水魚だ。

 オイカワは釣りも面白いが、最大の魅力は、何と言ってもそのスタイルと色だろう。
 梅雨明けとほぼ同時に始まる繁殖期は、夏の暑い時期、最高潮に盛り上がる。その時のオスのスタイルが川魚とは思えないくらいの色に変化し、誰もが「キレイ! 」と言うほどの美しい魚になるのだ。

article_096_02.jpg繁殖期前のオスのオイカワ。繁殖期になると体と体色がみるみる変わっていく。
article_096_01.jpg婚姻色の出はじめたオスのオイカワ。追星もだんだん派手になっていく。

article096_03.jpgメスのオイカワ。オスに比べると小さく可愛い。まるで子供のように見える。

追星(おいぼし)のアピールが面白い

 追星とは顔の周りにできるイボのような突起。
 繁殖期を迎えたオスは追星が顔の周りに出始める。この追星がオスの大きな特徴でオス同士の喧嘩やメスへのアピールになる。繁殖を迎えたメスをオス同士が奪い合うように狙い、時にはこの追星を使い体にたいあたりし相手を追い払う。川を覗きながらこのシーンを見ていると、迫力があり、つい口で「ドカーン」とか「バチーン」とか擬音が出てしまうほど激しくぶつかる。

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追星は繁殖期になるとかなり派手に顔の周辺に並ぶ。人でいうとヒゲのようなものなのか大人になった証でもある。メスへのアピールとオスとの争いに使う。

article096_06.jpg追星を使い縄張りに入って来た別のオスに体ごとぶつけて追い払う。

魚体の色が素晴らしい

 写真でもわかるように、追星もすごいのだが、体の色が何とも鮮やか。
 エメラルドグリーンに輝き、顔の周りは黒く引き締まって見える。何でこんなに鮮やかになるのかは、わからないが、今まで一連の産卵行動を見ていると、ものすごく晴れた日の浅い砂砂利の場所で産卵する。この時、日光がこの魚体をものすごく鮮やかに見せる。水上から覗いて見ていても色の輝きが目立つのではっきりわかる。おそらく、産卵期が夏であることから、この太陽の光を利用し、輝きをメスに見せるための色なんだと思う。

article096_07.jpg見てくださいこの鮮やかな色!宝石のような輝き!

ヒレのメカニズムがすごい

 オスは産卵期を迎えると、すべてのヒレが大きく成長し色も付き、ものすごく立派に変化する。これも、メスへのアピールの一つで、大きく立派に見えるように、メスの前ですべてのヒレを開きメスに「どーだ! 」とばかりに見せる。
 写真をよく見てもらうとわかるのだが、尻びれの大きさや形がすごく立派だ。この尻ビレにはものすごい構造がある。まずこの長さ! この長い尻ビレは産卵する時にメスの体の下まで尻ビレで包むように使う。
 さらにこの尻ビレには筋がたくさんあるが、他の魚と少し違うのは、溝が深く、例えるならナマコ板。溝が深くある感じ。これで、自分の精子を確実にメスの卵へと送るシステムになっているのだ。魚の産卵は大抵、メスがぶりぶりと卵を出すとオスがその上から精子をかける方法だが、どさくさに紛れて他のオスがやって来たり、スニーカーというモテないオスは、産卵の瞬間を待って、横から入り込んだりするが、このオイカワのシステムだとほぼ確実に自分の子孫が残せるわけなのだ。

article096_08.jpgメスに自分の綺麗さや立派なヒレを見せつけるようにこれ以上ヒレが開かないくらい開き、猛アピールするオス。

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この立派なヒレが、ものすごいメカニズムになっている。溝の深さと長さがこのヒレの特徴だ。確実に卵へと精子を送り込むシステムなのだ。

article096_12.jpgメスを追い込み逃げ場をなくし、時よりメスに寄り添うように軽くぶつかり産卵をうながすオス。

article096_13.jpgメスの体にピッタリと張り付きメスの産卵を待つ。この時、オスの尻ビレはメスの体の下に入り込んでいる。

article096_11.jpg産卵の瞬間!オスは体をくの字にまげ、メスの体を押さえつける。産卵は砂の中に卵が入り込むくらい押し付け産卵する。卵が川の流れに流されないようにするためだ。

最近気になっていること

 いつも見ている魚を違う角度から観察すると、意外な行動や事実が見られることがある。当たり前に知っていた生き物を、改めてじっくり観察するのも面白いものだ。自然界には、まだまだ僕たちが知らないことが目の前にたくさんある。
 それと、ここ最近気になっていることがある。
 全国で言えることだと思うのだが、このオイカワがカワムツという魚と生息地がかぶって、カワムツに占領される割合が多くなって来ている感じがする。
 私の住む関東周辺の川では、確実にカワムツの方が多くなってきている。子供の頃のような、オイカワ釣りも今ではできなくなってしまった。

奥山英治(日本野生生物研究所)
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