2017.03.31仁淀川で湯めぐり旅4・木の香(このか)温泉

湯めぐりの旅最終回は、仁淀川と同じ町内にある吉野川水系の温泉へ。仁淀川に負けぬ「ブルー」な川のそばの秘湯です!
天に近づくからでしょうか、高い山には、いわば〈異界〉の雰囲気があります。その世界を支配するのは自然の掟で、麓のように人間の都合は通用しない。だから古来より人はそこを神として崇めたり、修行の場にしたのでしょう。四国山地で最も高い石鎚山系もその一つで、最高峰・石鎚山の登山道では、「白い法衣に足元は草鞋」という修験者を今でも見かけることがあります。

そんな〈異界〉の入り口にあるのが、今回紹介する木の香温泉。四国最奥の湯の一つで、標高約600mのこの地に訪れる春は遅く、秋は早い。とはいえ道路事情が良いため、「対向車とのすれ違いでヒヤヒヤ」ということなく辿り着ける秘境の湯であります。




大浴場に入ると、山霧のような湯気につつまれました。この地域がまだ冬の気候だからでしょうが(取材日は3月1日)、これはなかなかいい感じ。いきなり露天風呂へ行くのは寒そうなので、まずは内湯から……と湯船に手をかけると、御影石が析出物(せきしゅつぶつ)で薄く覆われています。透明に澄んだ湯ですが、しっかりと含有物があるのでしょう。湯触りはこれといって特徴がなく……いや、なんでしょうか、この心地よさは、はあ〜。肩まで浸かれば、肌から身体の芯へと、細かな波動が伝わっていくような感覚。これは、名湯ならではの「もみほぐし効果」じゃないか!? 無数の小さな手で体をもまれるような快感です。この3日前にややハードな登山をしていた私の身体は、一気に癒されていきました。石鎚山系の登山帰りには最適な温泉でしょう。

いや〜温まる、塩辛い汗が頬をつたうぐらいに……と思っていたら、湯が薄く塩味!どうやらここも、「かんぽの宿伊野」の大浴場のように、海の記憶を残す湯のようです。こんな山奥が、かつては海の底だったとは。なんだか頭がくらくらしてきます。湯あたりかもしれませんが。


しっかり温まったので露天風呂へ。露天風呂は温泉ではないとのことでしたが、そんなことはどうでもいいくらい、檜張りのデッキが広くて気持ちいい。張り替えて間もないせいか、檜の香りが心地よいなあ。

木の香温泉ですが、できれば日帰りではなく、宿泊もしてみたいところです。というのも、この温泉の料理や、宿で働く人たちの心づくしが魅力的なのです。
料理長は高知市の有名ホテルの厨房などを任されてきた人物。私は、彼がシェフをしていたころのオーベルジュ内子(愛媛県で人気のおしゃれな宿)に泊まったことがあるのですが、そのときのコース料理は、食べれば食べるほど腹が減る美味しさでした(あれ、変な表現ですかね? つまり、食欲に歯止めがきかなくなる美味しさということで……)。木の香温泉でも、特別にコース料理をお願いすれば、こんな山奥でこれほどのフレンチが! と驚くこと間違いなしでしょう。また、「お客の顔を憶えられるぐらいの規模の宿なので」と、常連客には前回宿泊したときの料理とは違う内容のものを提供、などという心遣いもあるようです。


ところでこの木の香温泉、「秘境」と書きましたが、じつはこれ、高知市街からアクセスした場合。高知県では山奥になりますが、瀬戸内海沿岸の町・愛媛県西条市のJR西条駅からは、整備された国道を快走して車で30分ほど。愛媛県や香川県、そして関西や中国地方のみなさん、湯も料理も大自然も満喫できる穴場がここにありますよ。
(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら