2017.01.20仁淀川で湯めぐり旅2・中津渓谷ゆの森

仁淀川で湯めぐり旅2・中津渓谷ゆの森

仁淀川を上流へと遡ること県境近く、その支流・中津渓谷にやってきました。ここは紅葉の素晴らしさで有名ですが、その深山幽谷の感が極まるのは冬。キリリと冷えた渓谷をトレッキングし、露天風呂へ… … 湯の悦楽の極みがここに。

冬の中津渓谷で、大自然に畏怖する

「日本に冬という季節があることに感謝!」というのが、30年近く登山を趣味にしてきた私の偽らざる思いであります。冬がなければあの山でもこの渓谷でも、「美しいね」「絶景だね」「癒されるね」と、おおむね前向きで明るい体験が待っているばかりですが、冬はそれに「畏怖」という感情をプラスしてくれるからです。緑の草原に覆われていた山並みが、冬には疾風吹きすさぶ硬い雪の稜線に。マイナスイオンを放出していた初夏のブナの森は、身動きが取れないほど深い雪の吹き溜まりに。冬は私に「生きるか死ぬか」の場面を見せつけ、自然にはかなわぬことを何度も、打ちのめすかのように教えてくれます。


そんなふうにして自然に負けることが悔しいことかといえば、そうでもなく、自分の立ち位置が決まるというか、ここから始めようという土台がしっかりするような気分になれるから不思議です。「怖い」と「畏怖」の違いはこんなところにあるのかもしれません。

article_06602.jpg中津渓谷・雨竜の滝。冬は水量が少ないけれど、水流が削り出した岩の造形がより浮かび上がる。

前置きが長くなりました。さて、仁淀川支流の中津渓谷ですが、紅葉の名所という評価だけでは不十分。大自然の驚異に「畏怖」できる場所としてもぜひ知ってもらいたいところです。それには草木の色彩が褪せていき、冷たく濡れた岩々の造形が浮かび上がってくる冬が一番なのです。

article_06603.jpg中津渓谷ゆの森。中津川に面した山岳温泉リゾート。

スタート地点になるのが、温泉宿泊施設の「中津渓谷ゆの森」。ここのロビーに中津渓谷の遊歩道のパンフレットがあるので、まずこれをもらいましょう。一番奥にあるビュースポット「石柱」まで徒歩で往復約1時間といったところでしょうか。

article_06604.jpg登っていくにつれ深く狭い谷になる中津渓谷。

趣味、そして登山ライターという仕事柄、日本各所の渓谷を登ったり下ったりしてきましたが、登山経験を積んでいない人が歩いて行ける渓谷のなかで、中津渓谷ほど深く、狭く、大自然の造形に圧倒される場所を私は知りません。水流が刻んだ迷宮の底を進んでいけば、暗い岩壁が大聖堂のようにそびえ上がり、私たちを囲んでいきます。

article_06605.jpg整備された遊歩道だが、土や石の登山道がほとんど。滑りにくい運動靴を選びたい。
article_06606.jpg川の流れで削りとられた岩肌がたおやかな曲線を描く。

article_06607.jpg冬の冷たい谷底なのに、苔が瑞々しい。自然の驚異だ。
article_06608.jpgこの渓谷を発見した人は、ちょっとした冒険家だったに違いない。

復路は車道を下っていけば、難なく出発点に戻れます。何か所かで中津渓谷を見おろせますが、あの驚異の空間は木々に隠れて見えません。車でさっと通り過ぎていては魅力に気づかない、それが中津渓谷。
さあ、一登りしたし、冬の渓谷の冷気で頬は赤くなったし、ひとっ風呂いきますか!

まさに山岳リゾートの、良質なしつらえ

中津渓谷ゆの森のロビーにある券売機で入浴券を買い、奥の大浴場へ。この日は男湯が入り口から向かって左側。女湯になっている右側のほうが中津川沿いで開放的なのですが、まあしょうがない。男湯と女湯は12日ごとに入れ替え制だそうです。では大浴場へ。

article_06609.jpg湯上りの休憩所。広くてゆったりしている。

おお、グレーを基調にした、なかなか品のあるしつらえ。なんだか気持ちがシャンとしてくるぞ。「ゆの森」はいわば山岳リゾートで、宿泊客は懐石やフレンチのフルコースも楽しめます。一クラス上の湯浴み空間を、といったところでしょうか。

article_06610.jpg川沿いの大浴場。取材時は女湯でした(写真提供:中津渓谷ゆの森)。

そして大浴場のむこうには露天風呂。やっぱり山に来たなら美味しい空気を吸いながら入浴でしょと、露天風呂に直行です。お、湯船は檜つくり。木肌の凹凸が心地良いなあ。渓谷で疲れた両足がじわじわと暖まり、ぼわーんとほぐれていくのが明確に伝わってくるぞ~。泉質はアルカリ性単純硫黄冷鉱泉ということで、なんだか肌触りが滑らかに。美肌効果が期待できるかも。筋肉痛や関節痛にも効くということで、中津渓谷トレッキングにピッタリの湯であります。

article_06611.jpg私が入浴した、川沿いじゃないほうの露天風呂(写真提供:中津渓谷ゆの森)。

大展望はないけど、それがどうした。川のせせらぎも鳥のさえずりも聞こえるし、山の雰囲気が良く伝わってきて、実に気持ちいい。


仕上げは大浴場へ。こちらは御影石のスムーズな湯船。露天風呂で、冬のきりりとした大気に引き締めらた頬が、大浴場の暖かさにゆるんでいきます。なんだか心までほぐれていくようです。これぞ、冬の深山幽谷の湯の悦楽。

中津渓谷ゆの森
泉質:アルカリ性単純硫黄冷鉱泉
日帰り入浴:大人650円、小人300円(小人は12歳以下まで。2歳以下は無料)
利用時間:11時~21時(20時30分受付終了)。
休み:火曜日(祝日の場合は翌日)
他:温泉スタンプカード2倍デーなど、曜日によってサービスがあることも。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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