2016.11.04仁淀川のもうひとつの顔

仁淀川のもうひとつの顔

どこまでも清冽で透き通った水が流域全体を満たしているイメージがある仁淀川ですが、ある種の魚たちにとっては住みにくい環境です。では彼らはどこを選んで住みかにしているのでしょう。

川は流域全体を上流、中流、下流の3つに分けることができます。しかし、高知県には四万十川を除いて「下流域」に当たる生態系がなく、「中流域」のまま海に注いでいる川がほとんどだと、川の専門家は言います。
一方で高知にも下流域をもっぱら住処にしている川の生き物たちがいます。
たとえばコイ、フナ、ウグイ、カワムツ、タナゴ、ニゴイ、モロコなどコイ科の魚たちのほか、ナマズや外来種のブラックバス、ライギョ、魚ではないがスッポンやクサガメなどです。
そんな彼らが下流域のない仁淀川で見つけた居心地のいい場所があります。それが柳瀬川。

article_05502.jpgいかにもコイ科の魚やカメ、ナマズ、ライギョたちの居心地の良さそうな柳瀬川の流れ。流れが淀み、適度に汚れた水質が彼らには必要なのだ。

柳瀬川は須崎市と津野町、佐川町の境界を占める蟠蛇ヶ森(ばんだがもり)の北斜面の水を集め、佐川町のほぼ全域を貫き、越知町で仁淀川本流に注ぐ支流です。
つまり佐川町の人々の暮らしと深いつながりのある川であるがゆえに、生活雑排水も流れ込む。規模は小さいながらも都市型の河川といえますが、それが彼らの好む下流域の生態系に似ているのだろうと推測できます。水流が弱く、底が泥質でエサが豊富な「ちょいワル」な水質。「水清くして魚住まず」とはよく言ったものですね。

article_05503.jpg水面に映る対岸の木々が美しい。

私が編集を担当した『仁淀川漁師秘伝 弥太さん自慢ばなし』(かくまつとむ・著)という本があります。越知町の川漁師・宮崎弥太郎さん(故人)の聞き書きをまとめたものです。
その弥太さんの漁の現場は仁淀川本流が多かったのですが、取材の過程でアユやウナギ、ツガニ(モクズガニ)などの商売物以外の魚も捕ってほしいとお願いしたことがあります。
そのときに「ここには色んな種類の魚がぎょうさん(たくさん)おるんじゃ」と連れて行ってくれたのが越知町内を流れる柳瀬川でした。
刺し網を掛けると網が上がらないくらいフナ、カワムツ、ウグイが掛かる。モウソウチクを筒切りにしたものを沈めておくと翌日には大きなナマズが、ハエナワを仕掛ければスッポンやライギョ、ウナギも掛かりました。川漁師というのは自分の暮らす地域の川の様子をよくわかっているんだなあと関心したものです。

article_05504.jpg次々に魚が掛かり竿を絞る。

そんな15年以上も昔の記憶をたどって10月半ばの平日、友人とふたりで越知町内の柳瀬川に釣りに行き、ヘラブナ釣りの仕掛けで一日がんばった結果がこの写真です。
カワムツやウグイの猛攻撃が止むと、やがて型のいいヘラブナが寄ってきて竿を絞る。油断をすると大きなコイが仕掛けごと引きちぎっていくし、ナマズもカメも釣れました(笑い)。

article_05505.jpgこれは元気なヘラブナ。
article_05506.jpg玉網に入りきらない大ゴイ。
article_05507.jpgこれはイシガメ。
article_05508.jpgふたりで一日の釣果。

アユやアメゴなどの魚たちの王国だと思っていた清流・仁淀川が、じつはもっともっと懐の深い川だったということを改めて印象つけられた一日でした。

(仁淀ブルー通信編集長 黒笹慈幾)
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