2016.08.19川と子どもたちに教えられた、夏の一日

川と子どもたちに教えられた、夏の一日

仁淀川に、川の達人がやって来た! 8月4日に仁淀川の鎌井田の浅尾沈下橋近くで開催されたワークショップ、『仁淀川を使った自然体験学習の実践』の模様をお届けします!

物心ついたときからずっと川が好きで、いい年こいても週に一度は水辺に行かねば調子が出ない編集部員大村です。なので、みなさんに「仁淀川最高!」「川遊び楽しい!」と発信しておきながら、一抹の不安がありました。「ひょっとして、わたしの独りよがり?」

article_04402.jpgディズニーランドより楽しそう!

でもそれは杞憂でした。この日、仁淀川の小さな支流に集まった20人ぐらいの子どもたちは、片手に箱メガネ(のぞきメガネ)、もう片手には玉網または釣り竿(といっても長さ30cmぐらいの木の枝)を持ち、かれこれ3時間以上川から上がろうとしません。川の鵜だってときどき岩に上陸して、濡れた羽を広げて乾かすのに……やっぱり、川遊びって最高なんだ!
「ディズニーランドに連れて行くよりずっと楽しそう! 」という保護者の声も聞こえてきました。そうそう、ずっと安上がりですしね(笑)。

article_04403.jpg夢中で魚をつかまえる1日になりました。

もちろん、普通の子どもたちを瞬く間に川ガキ(泳いだり潜ったり、川の生き物を捕まえるのが大好きな子)にするには、その道の達人の力が必要。というわけで我が編集長・黒笹が出版界の元キーパーソンとしての政治力を駆使して(?)、日本の川界のスター2名を呼んできたのです。

article_04404.jpg奥山英治さん。前日に仁淀川で捕獲した魚やエビでミニ水族館を作り、川の生き物の魅力を話してくれました。

では紹介しましょう、まず奥山英治さん。
小さいころから生き物が好きで、そのまま大人になって、ついにはそれが仕事になってしまったという羨ましいおじさんであります。アウトドア雑誌『BE-PAL』誌上で10年以上にわたり『雑魚党漁労長』を務め、『虫と遊ぶ12ヶ月』(デコ)など身近な生き物の魅力を著作で伝えています。2016年からはツインリンクもてぎ(栃木県)にある、森の自然ミュージアム『ハローウッズ』内に『日本野生生物研究所』を構えています。

article_04405.jpgフィールドで本領発揮の奥山英治さん、タオル一枚で水中の昆虫を捕獲。その小さな生き物たちを、興味津々で見つめる子。

と、こんなふうに文章にすると〈品のよいナチュラリスト〉な感じですが、その実態はすご腕生き物ハンター! 
今回のワークショップでは子どもたちに仁淀川の生き物を見せるべく、もう一人の達人阿部夏丸さんと黒笹編集長と共に『仁淀川を召し上げちゃうぞトリオ』を結成、テナガエビやアユといったメジャーなものからスッポンまで、「地元民にも驚いてもらいたい! 」という意気込みで釣ったり捕まえたりしました。
しかも「たまたま獲れた」ではなく、例えば「ナマズを釣ろう」と狙って獲るのがすごい!
そして、子どもたちへの講演も、すご腕ハンターらしくなかなかワイルドです。
「このアカザという魚には棘があります。いちど刺されてみるといいですね、するとこの魚のことがもっとわかる。刺されても死なないから大丈夫(笑)」
また、「フィールドで遊んでいれば、だれでも生き物の特徴に気づくし、簡単に覚えてしまう」と、教育者の存在を脅かすような(笑)ことを言って、子どもたちの目を輝かせるのでした。

article_04406.jpg仁淀川で捕まえた魚の話を、キラキラとした目で聞く子どもたち。

阿部夏丸さんは川や子どもたちを題材に物語を書く小説家で、デビュー作『泣けない魚たち』は坪田譲治賞と椋鳩十児童文学賞をダブル受賞。作品のいくつかは翻訳され、韓国やイタリアなどでも出版されています。彼の小説は小学校の国語の教科書に載っているので、子どもたちについてきた親も夏丸さんに会えて盛り上がっていました。また、市民団体『矢作川水族館』の館長をつとめ、地元の矢作川(愛知県豊田市)で川遊びのイベントを開くなど、日本の川の素晴らしさ、楽しさを伝える活動に熱心に取り組んでいます。
 この日は、
「川で遊ぶ子の写真を撮ると、歯を見せているか、真剣な顔をしているかのどちらか」
「川は子どもをおとなにし、おとなを子どもにする」
「このあいだ川で絶滅危惧種を発見しました。すっぽんぽんで泳ぐ少年たちです(笑)。彼らは初対面にもかかわらず、一糸まとわぬ姿で、こんないい顔で写真に納まってくれました。川ってすごい空間だなあ」
など、川で得た経験談を映像と共に披露。子どももおとなも魅了されていました。

article_04407.jpg阿部夏丸さん。小説家として「先生」と呼ばれる人には見えませんが(笑)。アウトドア雑誌『BE-PAL』誌上では雑魚党幹事長を10年以上務めています。ちなみに雑魚党の党首はカヌーイストの野田知佑さん。

奥山さんも夏丸さんも口を揃えて力説したのが、仁淀川の素晴らしさ。奥山さんが「仁淀川流域に暮らしている人は、当たり前すぎて気づかないでしょうが、このような清流は本当に少ない。東京でこんな川で遊ぼうとするとお金も時間もかかる。しかも山奥の渓流だったりするから、夏でも冷たくて泳げない」といえば、「僕の地元の矢作川は、仁淀川みたいにきれいじゃないけど、子どもたちは喜んで川遊びします。仁淀川みたいにきれいな川に連れて来たら、大騒ぎになりそうだなあ」と阿部さん。二人は清流がそばにあることの贅沢さを称賛し、川遊びしないともったいないと、何度も言うのでした。

article_04408.jpg川ってこういうものじゃないの、という仁淀川流域での常識は、日本の他所では非常識だったりする。

さて、話は最初に戻って、子どもたちを川ガキに変身させた二人のマジックですが、実はたいしたことをしていません(奥山さん、夏丸さん、ごめんなさい! )。
玉網の使い方(「ゴリを見つけたら上からそっと網をかぶせよう! 」)、見釣りのコツ(「ゴリを見つけたら、竿を差し出して餌を見せよう! 」)などを少し説明したぐらい。止める間もなく川に入り、散開していった子どもたちは、じゃんじゃん魚やサワガニを獲って、どんどんいい顔になっていきました。

article_04409.jpg見釣りに挑戦! 長さ30cmぐらいの木の枝に、短い糸と鉤と餌をつけ、魚の前に差し出します。
article_04410.jpg釣れた! 流れが透明だから簡単だ!
article_04411.jpg夏丸さんにナマズの掴み方を習って、即実践。こんな大きな魚を抱くと、いい夢を見るかも。
article_04412.jpgゴリをとったぞ~! 食べても美味しい!

なるほど、これが清流の力なのだなと私は納得しました。いい川にくれば子どもはスイッチが入り、自分で考えて判断して学習してと、みるみる変わっていくのです。「子どもの人間力を高める」「地域を愛する人材を育てる」みたいなテーマでセミナーが開かれたりしますが、そんなのは仁淀川で遊べばいいだけのこと、であります。

article_04413.jpg石をすこしどければ、ウォータースライダーが出現。

阿部夏丸さん、奥山英治さん、今日はありがとうございました! また遊びに来てくださいね。いや、いっそのこと仁淀川に移住してくれませんか?

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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