2016.02.25遊ぶ人と管理する人が、共に仁淀川を見守る時代がやってきた

遊ぶ人と管理する人が、共に仁淀川を見守る時代がやってきた

釣りやカヌー、水辺のレジャーだけでなく、農業、漁業や林業など豊かな水資源を利用したさまざまな産業のベースになってきた仁淀川。昔から川のもたらしてくれるさまざまな恵みを享受しながら暮らしてきた流域の人々にとって、ときに仁淀川は台風や大雨の際には生命に関わる危険をもたらす存在でもありました。
今回は流域に暮らす人々の生命に関わる「治水」の仕事に日々取り組んでいる組織と人のお話です。仁淀川下流域の治水を担当する官庁の事務所を訪ね、この清流の未来を展望してみました。

●参加者
宮地正彦さん
(写真右)
国土交通省 四国地方整備局・高知河川国道事務所河川管理課長
高知市出身。仁淀川でカヌーの経験あり。
北川誠純さん
(写真左)
国土交通省 四国地方整備局・高知河川国道事務所調査課長
佐川町出身。趣味はマラソンで、週末には仁淀川の堤防の上を走る。
黒笹慈幾仁淀ブルー通信編集長
大村嘉正仁淀ブルー通信編集部員

黒笹 :高知市にある国土交通省の四国地方整備局・高知河川国道事務所にやってきました。川を管理する立場の人たちが仁淀川に何を思い、未来に向けて今後何をしていこうと考えているのか?そして、私たち川で遊ぶ人間はどうかかわっていくべきかなどを、気楽に話してもらえたらと思います。まず、お二人はここでどんな仕事をしているんですか?

宮地 :河川管理課という部署で、河川の草刈りなど堤防の管理、施設管理、河川利用の許認可などを担当しています。川に関する要望や苦情にも対応しています。

北川 :私のほうは、例えば河川の生き物の国勢調査など、治水や施設の計画の元になる基礎データの収集と管理が仕事です。

編集部:仁淀川について、高知河川国道事務所はどの範囲を管轄しているのでしょうか?

北川 :日高村の江尻地区から河口まで(約16km)です。直轄管理区間といいます。江尻から上流は高知県河川課が管理しています。

黒笹 :ということは、今日話していただけるのは、仁淀川の最も下流のあたりということですね。5月にいの町の『紙のこいのぼり』が泳ぎ、夏休みには多くの家族連れが「川水浴」で泳ぐ河原、佐田のキャンプ場など高知市周辺の人々になじみのある区間を担当していますね。仁淀川流域全体には、国土交通省はどのような関わりを持っていますか?

北川 :治水以外の分野ですと、観光資源整備の支援や、地域振興に川を利用する場合の支援、観光や賑わいの創生を目的にした「ダムなどのインフラの活用」に関わっています。ダムを訪れるともらえる『ダムカード』というのも作ったりしていまして、これはダムマニアの間ではかなりの人気アイテムです。ダムカードのコレクターもたくさんいますよ。

黒笹 :ダムカードかあ、ダムに行くともらえるんだ。そんなものがあるなんて知らなかったなあ。観光資源整備の支援というのは、どんな内容ですか?

article022_img02これがダムカードだ!仁淀川水系では大渡ダムでもらえる

北川 :人々が楽しめるよう、河川の魅力を引き出すための事業です。その中には自然再生もあります。例えば四国であれば四万十川のほうで、「アユの瀬づくり」とか、「ツルの里づくり」などをしています。四万十川の一部では、かつては砂利の河原だった場所に土砂の堆積によって樹木が繁茂しました。その結果、増水しても川の石が動きにくくなったりして、川の流れが固定化されたり川底が深く掘れたりしました。結果としてアユが好む早瀬が減少したので、それを復活させる事業をしました。

黒笹 :仁淀川では、「アユの瀬づくり」のようなことはしていないのですか?

北川 :仁淀川はうまく流れていて川砂利がよく動くため、河原や瀬の状態がいい。だから四万十川のような問題が今のところないのです。

article022_img01地図を見ながら「ここがぼくの釣り場で」と脱線する編集長
article022_img03小学生に配布する川の水質調査テキスト

『かわまちづくり』がうごきだしている

北川 :仁淀川での観光資源整備支援としては、日高村からの要望で江尻地区に『かわまちづくり(http://www.skr.mlit.go.jp/kochi/work/niyodo/environment/ejiri.html)』の話が進んでいます。みんなが仁淀川の自然を楽しめるよう、魅力ある河川敷にする事業なのですが、具体的な内容はこれからですね。現在は日高村サイドでワークショップを開いたりしています。

宮地 :江尻地区の仁淀川ですが、竹林や広い河原、入り江もあって実にきれいなところですよ。

北川 :『かわまちづくり』予定地の少し下流には、樹木に囲まれた細い枝流もあります。最近では川下りツアー会社がSUP(スタンダップパドルボード:大きいサイズのサーフボードの上に立ってパドルを漕ぎ、水面を進んでいくスポーツで最近人気が急上昇中)でそこを下っていますが、ジャングルの川みたいで面白い。マイナスイオンがいっぱいです。

article022_img04江尻地区の下流にある、ジャングルのような区間。仁淀川では珍しい川風景
article022_img06ただ眺めるだけでも癒されるのが仁淀川

黒笹 :へー、そんないい場所があるの。知らなかったなあ。

宮地 :元からある良好な自然環境に留意しながら、川に親しみやすい場所になればと思っています。

仁淀川下流域の自然環境データはここにある

黒笹 :仁淀川の下流域というと、河口近くにはカワアナゴが生息していますよね。私は高知に来て初めて会うことができました。珍しい魚だけど仁淀川には普通にいると聞いて嬉しくなりました。

宮地 :アカメもいます。これも珍しい魚ですよね。

黒笹 :アユで注目される仁淀川だけど、魚種がすごく豊富で数も多いのがこの川の魅力ですね。ところで、北川さんのところで仁淀川の魚類の調査はしているんですか?

北川 :はいやっています。魚類を含め生き物や植物全般について、国土交通省では5年周期で全国の1級水系で「河川水辺の国勢調査」をしていて、その調査結果を公開しています。

黒笹 :調査結果はどのように利用されているんでしょうか?

北川 :調査結果を元に、環境に配慮しながら治水事業などを行います。データが足りなければ部分的に追加の調査も行います。

宮地 :ただ、治水事業だけに使うにはもったいないくらい豊富なデータがありますので、今後それをどう活かしていくかというのが一つの課題ですね。

北川 :調査した動植物の写真も、モノによっては標本もありますし。

黒笹 :そのデータを利用して仁淀川の生き物図鑑みたいなのができたらいいですね。リアルな冊子でなくても、インターネット上のものでも。私は小学館での現役時代に飲料メーカーとタイアップして、夏休みの期間限定で飲料のペットボトルの口におまけとして付くミニ図鑑を企画したことがあります。川遊び図鑑とか、毒虫図鑑とか。仁淀川の環境保全に協賛してくれている飲料メーカーがありますよね。

宮地 :アサヒビールがやってくれています。

黒笹 :国交省からは仁淀川の生き物のデータを提供してもらって、協賛企業に資金的な支援してもらって、『仁淀川生き物ブック』みたいな小冊子ができたらいいですね。夏休み前に県下の小学校で配ってもらうとか。

北川 :国土交通省では小学生を対象に川の水質調査の実習をしています。主に川の底で暮らしている水生生物を調べて、その川がどれだけきれいかを知るという方法です。

宮地 :毎年7月の河川愛護月間に、30年くらい続けてやっています。

編集部:川底の水生生物というと、カワゲラやカゲロウなどの水生昆虫や、タニシなどの貝やエビなどの甲殻類ですよね。

宮地 :この水生昆虫がいれば川がきれいだとか、ヒルやイトミミズが多ければ少し汚いなど、生き物を採取し観察するという体験を通じて川のことを知る機会を作っています。指標となる生物の写真や解説を記載したテキストを国土交通省で用意し、小学生たちは川に入って調査しています。

編集部:仁淀川の現在の健康状態を、子供たちは自分たちの体験を通して気づいているですね。私たち大人は、仁淀川の自然をうかつにいじったり汚したり、毀損したりできませんね。子どもたちに叱られちゃう。

黒笹 :仁淀川を含めてですけど、私たちの世代は日本の自然環境をかなり毀損してしまったので、子供たちに申し訳ないという思いがあります。なんとか次の世代に仁淀川をいい状態で渡したいですよね。

仁淀川を美しくて、大切にされる、自由な空間に

黒笹 :ここに同席したわが編集部員はかなりディープなカヌーイストですが、どうなのカヌーを楽しむ立場からの仁淀川の評価って。

編集部:日本全国いろんな川を下ってきましたが、仁淀川の下流域はカヌーの初心者には理想的な川です。

北川 :それはなぜですか?

編集部:まずは水がきれいで、ひっくり返って川を泳ぐことになっても気持ちがいい。急流部分が素直で優しい。瀬に大きな石などの障害物が少ないため、もし転覆して流されても比較的安全です。加えて、川面から見上げる流域の照葉樹林の山々が素晴らしい。

article022_img05仁淀川流域の照葉樹林(7月)。見頃は、「スタジイ」という木の花が咲く4~5月上旬

北川 :新緑の頃ですよね。シイなどのどんぐり系の木の花で、新緑に覆われた山がカリフラワーやブロッコリーみたいにモリモリして。あの鮮やかな黄緑色のグラデーション、すごくきれいですよね。

編集部:あれほど美しい新緑の照葉樹林に囲まれた川は、清流に恵まれた四国でもあまり例がありませんよ。

黒笹 :アウトドア派の人間たちはカヌーで川を下って、気に入ったところでキャンプということがよくあるのだけど、仁淀川流域でそれは問題ないのですか?それから河原での焚火とかはいかがですか。私がアウトドア雑誌を作っていたとき日本のいろんな川で「ダメだ」といわれたことがありまして(笑)。

宮地 :問題ないです。焚火も消防のほうへ迷惑をかけなければ。ごみを捨てないなど基本マナーを守っていただくことが前提ですが。

黒笹 :それは都会近くの川とは全く違うな。焚火をするなとか規制が多い。

宮地 :第三者からの苦情がくると、規制がかけられるんですね。

北川 :夏の仁淀川では、どの河原にも人がいて川遊びしているんですが、ゴミをほったらかしにする人はとても少ないですね。だから規制もかからない。

黒笹 :みんなに大切にされている川なんだな。

北川 :私どものところでは、流域の住民と一緒に河川の清掃などもしています。

編集部:川のレジャーについてもう一つ伺いたいのが、危険情報についてです。水難予防について国土交通省はなにかしていますか?

北川 :危ないといえば、まず大雨での急な川の増水があります。仁淀川では川遊びする人が多い河原などに、増水によるダム放水を知らせるサイレンと説明版を設置しています。電光警報盤を設置しているところもあります。

宮地 :それから、流れが速いとか深いなど、川の危険箇所を高知河川国道事務所のホームページ(http://www.skr.mlit.go.jp/kochi/material/kiken_map/index.html)でお知らせしています。また、川の危険箇所やAEDの設置場所を記したミニマップを流域の小学校に配布しています。

北川 :「流された人を救助するためのロープの投げ方」といった川でのレスキュー訓練を開催したり、安全意識の啓発などにもとりくんでいます。

編集部:「危ないから川で遊ぶな」では、ますます人々の視線が川から離れて行く。

みんなで見守っていく仁淀ブルー

黒笹 :冬に川の水が減ったとき、土砂によって河口部が塞がれてしまうことがありますよね。そんなときは砂州を重機で掘削して海までの流れを取り戻しているようですが、あれはアユなど海から川へと遡上する魚のためですか?

北川 :いえ、あくまでも目的は治水ですね、海まで滞りなく川の水が流れるように。結果的に魚に喜んでもらっていますが(笑い)。

黒笹 :仁淀川の生態系などを豊かにするための配慮というか、そういったことはしているのですか。

宮地 :配慮というか、仁淀川の下流域については実は今の状態がベストだと考えています。これを改変せず、現状を維持していくことが大切だと。そとためにはどんな治水や工事の方法にすればいいか、それを常に考えて動いています。

黒笹 :すでにいい環境であると。

宮地 :われわれの管轄範囲で出来ることは知れていましてね。もっと大きな範囲で、流域全体で森を豊かにするとか、ゴミを拾うとか、そういったことが仁淀川をより素晴らしい川にしていくことだという県民のコンセンサスが大切なのだと思います。

黒笹 :この仁淀ブルー通信では、仁淀川流域の6市町村が手を携えて川に関わる情報発信しています。こんなふうに、「川を中心にしてまとまる」というのはけっこう画期的なことで、首長さんたちも良く連携できています。私は以前から仁淀川については流域の人がよく見まもっている構図があると感じていたのですが、どうやら高知河川国道事務所も同じように見守ってくれているようです。仁淀川って恵まれた川だなあ。

宮地 :たしかに、水質やアクセスなどいろんな面で恵まれています。

北川 :仁淀川に来てもらい、見てもらい、この川の良さを知ってもらえるよう、私たちも今後も努力していきたいです。

黒笹 :お話を伺って、仁淀川を管理する側と仁淀川で遊ぶ側は、この川の未来に向けて協力できることがいろいろありそうだと実感できました。今日はありがとうございました。

(仁淀ブルー通信編集部 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら

◆国土交通省四国地方整備局・高知河川国道事務所
http://www.skr.mlit.go.jp/kochi/

仁淀ブルー通信の読者に仁淀川流域地図をプレゼント!

国土交通省高知河川国道事務所が平成22年に発行した仁淀川の流域を全部カバーしている大地図「仁淀川清流紀行 仁淀川流域マップ(縮尺8万分の1)」を10名にプレゼントいたします。
article022_img08<表>
article022_img07<裏>
河川国道事務所のデッドストックをみんないただいてきました。5年前の地図ですが今でも十分に使える貴重なものです。国土地理院の5万分の1や2万5千分の1の地図では何枚にも分かれてしまう仁淀川流域を1枚で俯瞰できるとても便利な地図です。
また、裏面には仁淀川に関わるさまざまな情報が網羅されていて、これだけでもかなりの「仁淀川通」になれます。
希望者は仁淀川地域観光協議会のアドレスniyodogawa@outlook.comに「仁淀川地図希望」と書き、送付先住所、氏名を書き添えてご応募ください。
希望者多数の場合は抽選になります。当選のお知らせは地図の発送を持って代えさせていただきます。