2016.01.14新春釣りバカ対談 サツキマスと冬のアマゴ釣りが、仁淀川をより輝かせる!

新春釣りバカ対談 サツキマスと冬のアマゴ釣りが、仁淀川をより輝かせる!

海で育ったマスが、産卵のため故郷の川に戻って来た ― それって、北国の川の物語と思っていませんか? 実は春の仁淀川では、体長が30~40cmにもなったアマゴ(高知名アメゴ)の降海型「サツキマス」が海から遡上してくるのです。今や多くの川で幻となり、釣り師あこがれのサツキマスは仁淀川に何をもたらすのか?二人の釣バカに対談してもらいました。

◆釣りバカプロフィール

黒笹慈幾
アウトドア雑誌「BE-PAL」の元編集長。出版社を定年退職後の2012年3月、趣味の釣りが存分に楽しめる高知に家族で移住。人気コミック「釣りバカ日誌」の初代編集担当者だったことから、主人公・浜崎伝助のモデルではないかと言われている。2015年より「仁淀ブルー通信」編集長を務める。

松浦秀俊
高知県職員として水産業の振興に携わる。釣バカ度は「ハマちゃん」こと仁淀ブルー通信黒笹編集長なみ。リバーキーパーの会に所属し、仁淀川の魚環境と釣環境をより豊かにする活動を続けている。

釣り愛好家を利用して地域を豊かに

黒笹:今日は仁淀川におけるサツキマスのレジャーフィッシングの可能性について話してもらおうと、漁業資源についての専門家であり、しかも高知県を代表する釣りバカ(笑)に来てもらいました。松浦秀俊さんは高知県庁で海の漁業に関する仕事をしながら、岩波ジュニア新書から「川に親しむ」という本を出版されるなど、川遊びの楽しさを子供の世代に伝える地道な活動を続けてこられた人です。

松浦:私は去年の三月まで土佐清水市の漁業指導所に配属されて、行政としての関わりだけでなく、漁師さんたちとじかに接して彼らがいま何を思っているかを知る、そんなことを仕事にしてきました。

黒笹:そして、休日には四万十川のアユを釣りまくったと聞いています(笑)

松浦:四万十川のあらゆる瀬に竿を入れました。上流から下流まで知らない場所はないぐらい(笑)

黒笹:この人こそ正真正銘のハマちゃん(釣りバカ日誌の主人公)ですね。鮎の友釣りの9m以上もある長い竿を上段に構えて、まるで佐々木小次郎のよう。そして私ならば絶対流されるような激流にずんずん立ち込んでいく。しかも1日中川に入ってアユを釣りまくってもバテない驚異的なスタミナの持ち主でもある。

松浦:竿と糸を通じて神経を研ぎ澄まそうとすると、どうしても竿尻がどんどん上がっていく。最初は腰ぐらいの位置で竿を構えていても、ふと気づくと上段の構えになってる(笑)

黒笹:話を戻しますが、土佐清水といえば、名産のソーダガツオ(高知名メジカ)、清水サバをはじめ、資源減少が深刻だと聞いています。

松浦:複合的要因ですね。漁業資源の減少、船の燃料費など経費の増大、魚価の低迷、それから中国での珊瑚バブルの影響で宝石珊瑚の値段が急騰して、中堅の漁師がサバやメジカではなく珊瑚を獲るようになった。「それは長続きしないから俺はやらん」という、気骨ある漁師さんもいるのですが。

黒笹:漁業資源がしっかりしていさえすれば、珊瑚になびくこともない。それで私が今いろんなところで主張しているのが、コマーシャル・フィッシング(漁業)はこの先厳しいかもしれないけど、レジャー・フィッシング、つまり趣味の釣りの場所としての高知県の含み資産はまだまだ存分にあると。

松浦:私も同意見です。諸般の情勢で、高知県の海も川も産業としての漁業は厳しくなっています。けれどもレジャーの釣り場としてのポテンシャルは高い。漁師が自ら釣った魚で稼ぐだけでなく、遊漁船の船長になって人に釣ってもらうことで稼ぐという選択肢もつくり、漁業の文化や集落を残していく。ときには、腕のいい釣り人が「漁師になりたい」と言ってくれるかもしれない。

黒笹:海の男を目指す若い人の移住につながるかもしれない。観光漁業が定着すれば漁業の6次化の新しいビジネスモデルにもなる。

松浦:例えばタイの値段ですが、私が高知県庁に入った30年前は最低でも1㎏2000円でした。しかし今では天然ものでも1㎏600円で、養殖のタイの方が高かったりする。漁師は一本釣りしても商売にならない。

黒笹:でもレジャー・フィッシングの人は、1枚のタイを釣るのに道具や餌や遊漁船に何万円も払うことを躊躇しない。だから、限られた資源を、付加価値を高める工夫をして、欲しい人に提供していくという発想の転換が必要なのかなと。で、それは仁淀川でも同じだろうと思うんです。川の自然のポテンシャルを活かす、発想の転換が。

仁淀川ではサツキマスが鍵になる

黒笹:仁淀川では今、レジャーフィッシングの新たな対象魚としてサツキマスの存在がクローズアップされています。この魚が、仁淀川の釣りツーリズムや、川の自然の再生、子供たちの環境教育の視点で考えると、決定打になる予感がするんですが。そのあたりは松浦さん、どうお考えでしょうか。

ご存じない方も多いと思うのでサツキマスについて少々。高知県を含めて西日本の川の上流部にはアマゴ、高知県ではアメゴと呼ぶサケ科の渓流魚が生息しています。その多くは川で一生を終えるのですが、一部はサケのように海へと下り、そこで成長して再び川に戻ってくる。それがサツキマスです。関東以北ではヤマメとサクラマスが同じような関係に位置づけられます。

松浦:漁協関係者も釣り人も、アマゴという魚は山間部の渓流にずっと留まると思っている人が多いのですが、本来は上流へ下流へと自由に行き来します。秋になると渓流では水温が下がり餌も減少するのですが、本流に下れば餌も豊富です。さらに海へと出ればたくさん小魚などを食べられます。渓流に留まるより、ずっと豊かな暮らしですよね。かつての西日本の清流には、アマゴのそんなライフサイクルがあった。

黒笹:しかし、日本の多くの川がダムで区切られたことで、この仁淀川もですが、本流で大きく成長するアマゴや、海から戻ってくるサツキマスは極端に数が減ったといわれています。それがなぜ、仁淀川ではここ数年でサツキマスが増えてきたのでしょうか。

松浦:何年か前、仁淀川漁協と私も参加している「リバーキーパーの会」で、仁淀川支流の上八川(かみやかわ)川に冬季アマゴ釣り場(ルアーやフライ・フィッシング専用で、釣れた魚は再放流するキャッチ・アンド・リリース方式をルールにしている)を作りました。秋になるとそこにアマゴの成魚を継続的に放流していたのですが、どうやらその一部が本流へ、そして海へと下ってサツキマスになって帰って来るようになったようです。養殖魚の放流という形だけど、仁淀川に元々あった自然の営みが復活したと見ています。

黒笹:すごいですね、3~5月になれば、いの町の街中の澄んだ流れで、海から遡ってきた30~40cmもあるサケ科の魚がルアーやフライで釣れるんだから。アラスカみたいな話だ。

松浦:それを受けて、これからはサツキマスの遡上を増やすよう意図的にアマゴを放流していく方向になってきました。水温が下がっていく秋に、本流へアマゴの成魚を放流するというやりかたでね。まずは昨年の12月、約1300匹の標識放流を行いました。

黒笹:脂鰭(アブラビレ)というサケ科の魚だけにある小さな鰭を切って、「放流した魚」という目印にするんですよね。

松浦:アマゴたちが川のどこで暮らし、どれだけ成長するか、どのくらいの数がサツキマスになって下り、また遡ってくるかなどを、釣り師の協力を得てリバーキーパーの会や漁協で調べていきます。

黒笹:仁淀川のアマゴの解禁は3月1日だから、まずは本流でサツキマスに支流でアメゴに遊んでもらい、6月からはアユに切り替える…。いいですね~。サツキマスが釣れる仁淀川下流域は、海も近いので海釣りとの組み合わせも考えられるね。高知県は海と川とでいろんな魚種の釣りが楽しめる、この多様性が魅力ですよね。しかも高知家の人たちも生物多様性に富んでいて個性的で面白い(笑)。私が高知へ移住した理由もそこですから。

松浦:私も同じです。高知から京都の大学へ進学しましたが、故郷での釣りが忘れられず、卒業後戻ってきました。ほんと、釣り好きには天国ですよね。

黒笹:サツキマスが釣れる、しかも仁淀ブルーで有名な清流でとなれば、釣り師が日本全国からやって来ますよ。釣り師はコマセ(魚を呼び寄せるために撒く餌のこと)がすごく効く人種だから。私たちがそうですから(笑)。仁淀川のサツキマスは高知県の釣りによる観光振興策の起爆剤になると思うんですよね。空港や市内からのアクセスもすごくいいし。

松浦:サツキマスを復活・定着させる環境として、仁淀川というのはまたとない場所です。まず、上流から下流まで水質が良い。河口近くまで中山間部を流れ、伏流水も多いため、梅雨明けまで水温が20℃を上回ることがなく、低水温を好むサケ科の魚に適している。しかも高知市街から車で30分ぐらい。川面も河原も広くて明るいので、家族連れにも楽しんでもらえます。

冬も解禁?!アマゴ釣りの慣例を打ち破って、より素晴らしい仁淀川に

松浦:もうひとつ私には企みがありまして、それは中下流域の仁淀川本流全域での冬のアマゴ釣り解禁なんです。

黒笹:アマゴの産卵保護ということで、仁淀川に限らずほぼ日本全国、10月から2月いっぱいは禁漁ですよね。

松浦:しかし、アマゴは中下流域の仁淀川本流では産卵しない(支流の減流域で産卵)ので、解禁しても問題はない。そして本流は水温が冷たすぎずることはないし食料も豊富なので、大きく成長したアマゴがルアーやフライで釣れます。また、冬の仁淀川の中下流域は比較的陽光に恵まれるので、竿を振るのも気持ちがいい。

黒笹:それはいいね。日本全国のほかの川でアマゴが禁漁の時期に、仁淀川に来れば釣れるとなれば釣り師は大喜びでやって来る。釣りにシーズンオフがない高知県の強みが加わる。

松浦:それ以外にもいいことがあると私は考えています。それは川鵜(かわう)対策。

黒笹:鵜は仁淀川の魚類の最大の捕食者ですよね。

松浦:仁淀川の本流で釣りをしていて気づくのが、アユやアマゴに限らず、ウグイやフナなどいろんな魚種が減っていることなんです。その罪を全部鵜に着せるわけじゃないけど、たくさん増えた鵜に食べられていることは確か。ところが鵜の一番の天敵は人間なんで、川に人がいれば鵜が近寄らない。アマゴを釣るために入漁料を払ってくれる上に、稚魚も守ってもらえる。それに川の一年を知る人も増えます。

黒笹:つまり川の環境の変化に敏感な人が増えると。一石三鳥ですね。川に釣り師が増えればいろんな良い影響が出る。

賢く手助けして、仁淀川の自然を豊かに、そして子供たちに残していく

松浦:そのためにはどうしても子どもたちを巻き込みたいですね。小さいころからちゃんと川とつき合って、自然とはこういうものだと身体で分かっている若い人材を高知から送り出したい。仁淀川を通じて。

黒笹:子どもやその保護者を水辺に連れ出す入り口として、釣りが一番向いていると思う。だから子供でも釣れるくらい魚がたくさんいる、自然豊かな川にしないといけない。

松浦:よちよち歩きの子供からから大人まで楽しめるフィールドが本来の仁淀川の自然。それをうまく管理して利用すれば、そんなにお金をかけなくても、そこはすごいレジャーランドになるし、学習の場になる。

黒笹:高知の最大の資産は自然。それを資本主義の構造にどうやってうまく組み込んで県民の生活を豊かにしていくかを考えないとね。高知流の自然資本主義で。

松浦:残念ながら昔より自然資産は減ってきています。仁淀川河口近くの宇佐や浦ノ内は、かっては潮干狩りがすごく盛んでしたが、今は……。どこかで自然のつながりが上手くいかなくなっている。でも人が賢くなって技術が進歩している。自然の仕組みをうまく利用しながら、少しだけ人が手を加えていくことで、自然資産を戻していくことは可能だと考えています。

黒笹:ここ数年で仁淀川にサツキマスが復活したように。

松浦:アユにしても、釣り師の有志で川底を整えてアユが産卵しやすい環境(産卵床)をつくるなど、少しだけ仁淀川を手助けする。そうすれば仁淀川で生まれ育つ天然のアユがずっと増えると思います。

黒笹:サツキマスにしろアユにしろ、仁淀川での試みや企てがうまくいけば、他の地域のお手本になりますよね。とにかく早く結果を出して、それがたとえ小さな成功でもいいから、他の川や県に広めていく。仁淀川が日本の川の再生のきっかけになる、それぐらいの志を流域の人、高知の人に持ってもらいたいです。

松浦:確かにそうです。

黒笹:私は本気で信じているんです。日本一の貧乏県高知に、実は日本を変える力があるんだって。

(終)
●今回の編集後記はこちら

article019_img02.jpg『川と親しむ』松浦秀俊・著(2000年岩波ジュニア新書)

article019_img03.jpg長いアユ竿を上段に構える松浦さんの鮎釣りスタイル。
article019_img04.jpg仁淀川本流のフライ・フィッシング(西洋毛鉤釣り)で釣れた美しいアマゴ。

article019_img05.jpg周年釣り場「上八川フライ・フィッング・エリア」での釣り。
article019_img06.jpgいの町の街中でのサツキマス釣り。

article019_img07.jpgサツキマスになって戻ってくることを期待してアマゴの成魚放流(越知町片岡)。
article019_img08.jpgアマゴが海に下り、大きくなって仁淀川に戻ってきたサツキマス。