2022.01.28田舎で創作活動をするとは――里山に家具作家を訪ねて

田舎で創作活動をするとは――里山に家具作家を訪ねて

 日本有数の木工製品の産地・飛騨高山の家具工房での修業をへて、仁淀川支流の柳瀬川が潤す佐川町へ移住、家具職人として独立した人がいます。田舎で創作活動をするとはどういうことかを聞いてきました。

 技巧を凝らした逸品を創作して生計を立て、家族も養う。それを仁淀川支流のさらに支流の源に近い里山で実現しているのが浅見英助さんです。彼が手がける逸品とは無垢材のオーダーメイド家具。北欧のビンテージ家具のような端正な美のなかに和みの表情もある椅子やチェストを、一人で製作しています。

article267_01.jpg 浅見さんの作品。イギリスの老舗家具メーカー「アーコール」のテイストを感じさせるデザイン。シンプルながら温かみがある彼の家具には、気取りのないセンスのよさが。

 どれも心奪われる作品ばかりですが、現物を見ず、触れずでは、一生ものゆえに注文しにくい家具なのも事実。そして、彼の工房とショールームがあるのは、こんなところまで客は来るだろうかという田舎です。人と富が集中する大都会から遠く離れた環境で、彼はいかにして家具作家として活動しているのでしょうか。

article267_02.jpg 浅見英助さん。奥さんと子供2人の4人家族。

転職、修業、そして高知へ

 浅見英助さんは埼玉県出身。東京でシステムエンジニアをしていましたが、家具職人になろうと飛騨高山の家具工房で6年間修業。2018年に高知県に移住し、佐川町に工房を構えました。
「妻の実家が四万十町なので高知はいいなと思ってました。また、子どもにのびのびとした環境を与えたかった」と浅見さん。東京では、子供を遊ばせる場所が公園ぐらいしかないことに満足できなかったようです。
「公園って、『こう遊んでね』と決められた場所。だから、『指示されたからする』という子になっちゃうかもと。自然のなかで、落ちている枝とか葉っぱで、頭を使いながら遊べる子になってほしかったんです」。
 移住地が決まるまで1年もかかったそうです。理由は工房向けの物件探し。田舎なら広い物件はいくつもありますが、借りられるかは別の話。
「倉庫に狙いをつけたんですが、難航しました。やっと見つけても、『倉庫の中のものを片付けるのが面倒だから貸さない』が続きました」。
 そして、佐川町の移住担当者の紹介でようやく出合えたのが現在の里山。
「棚田を見下ろす高台で眺めはいいし、自然もたくさん。冬にうっすらと雪化粧すれば飛騨高山の雰囲気もあります」。

article267_03.jpg 浅見さんの工房からの眺め。

買い手から遠く離れた地で

 しかし、田舎に籠って創作することへの不安はなかったのでしょうか。「自分の家具を買う人は現れるのだろうか?」とか。
「独立を目指して飛騨高山で修業しているときにはすでに、いけるという見通しはありました。インターネットがありますし、都会じゃなくても、いいものを求める人、量産品にない品質を求める人はいるはずだと信じていました」。

article267_04.jpg 製作中のチェリーのオーバルボックス。人気商品だ。

 はたしてその通りに。ネットで家具を公開していると、興味を持った人が工房を訪れ、そのうちの何人かは作品を気に入り、製作を依頼するそうです。特注のオーダー家具製作を柱に、スツールやオーバルボックスといった定番商品、ワークショップ(木工教室)などで、「僕ぐらいの規模でやるならなんとか」ぐらいの仕事はあると浅見さん。都会で展示会を開くといった積極的な売り込みはしていないそうです。

article267_05.jpg 工房の隣にあるショールームの見学については、浅見さんのホームページ「it furniture」を参照。

 もちろん、不利なことも。しかし、それは田舎だからというより、一人でコツコツ作業しているから。
「飛騨高山の工房で修業しているときは、テーブルを月に20卓作ることもありました。つまり、木に触れる時間が多かった。それに比べてここではそれほどの忙しさではなく、落ち着いている反面、腕がなまりそうで。それから、前は職人たちと一緒に切磋琢磨する環境でしたが今はその刺激がない。都会での展示会などに行って他の職人の作品を見たりするのも必要かもしれない」。

article267_06.jpg 工房にて。整然と片づけられた工具たち。

あるべき職人像とは

 いま、日本にはモノがあふれています。ニーズよりも確実に多い。人々が求めるものと供給がマッチしていない状況ではないか、と浅見さんは言います。 
「昔の人は自分に必要な物を自分で作ってたじゃないですか。例えば竹ぼうきなどを、自分が使いやすいように自作していた。そういうのが、モノづくりとしては一番きれいだと僕は思うんです。でもみんなが自作できるわけじゃない。だから、人が欲しいものを作る職人が登場したのでしょう」。
 そんな、職人の原点みたいなものを浅見さんは大事にしているようです。
「僕の家具作りは、お客さんの要望に自分が技術で答えるのが第一です。あまり自分のエゴはだしたくない」。

article267_07.jpg 工房にて作業中。

 しかし、木と向き合って製作するときにはエゴがあるようです。
「僕は、自分で厳選した無垢材で家具を作っています。無垢材の家具は、しっかり作っておけば100年もちます。そして、使う人の生活に溶け込んでいくうちに価値が高まっていく。だから、ずっと愛されるよう、人の体にあわせて使い心地に気を配り、丁寧に確実に製作しています。アンティークになるまで使い続けられる家具を届けたい」。

article267_08.jpg 浅見さんの工房の周辺は、サイクリングにもおすすめの美しい里山風景が広がっていいます。

 地球環境の悪化が進むいま、自分が納得したものを長く使うことは、大切したいライフスタイルのひとつ。そんな社会の要望に応えられるモノづくりが、本物であれば、大消費地から遠く離れていても成り立っている。無垢材の家具に取り組む浅見さんの姿は、田舎暮らしの可能性を広げています。

■浅見英助さんの家具工房については「it furniture(イット ファニチャー)」をご覧ください。いろんな家具が紹介されています。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)

★次回の配信は2月11日予定。
「「仁淀川つれづれリモートワーク日記」3(課外活動編)」 をお届けします。
お楽しみに!

●今回の編集後記はこちら