2021.06.18山岳リゾート!生まれ変わった「山荘しらさ」を探訪

山岳リゾート!生まれ変わった「山荘しらさ」を探訪

 仁淀川流域6市町村のひとつ、いの町には、仁淀川に並ぶもう一つのブルーがあります。それが四国三郎・吉野川。その源流域にあり、この春リニューアルオープンした「山荘しらさ」を訪ねてきました。

 四国の屋根「石鎚山系」の登山者や、町道瓶ヶ森(かめがもり)・町道瓶ヶ森西線(UFOライン)の旅行者に愛されてきた「山荘しらさ」。標高1400mの尾根にあるこの宿は、改装工事をへて今年の春にリニューアルオープンしました。それを祝し、今回は最もしんどくて、自然にどっぷりつかれるルートから目指そうと、私はいの町寺川地区にある秘境の谷へ。

article251_01.jpg 山荘しらさのエントランスは、2階と、UFOラインと駐車場に直通の3階にあり。UFOラインと駐車場から2階エントランスまで、そして2階エントランスからロビーへはバリアフリー。

 歩きはじめたのは、吉野川源流部・白猪谷(しらいだに)渓谷にある白猪谷バンガロー(現在閉鎖中)から。山荘しらさまでの標高差はほぼ600m、約2時間の道のりです。(山荘しらさへはUFOラインを使って自動車やバイク、自転車でもアクセスできます。)

article251_02.jpg白猪谷バンガローより下流にある白猪谷オートキャンプ場(県道40号:石鎚公園線沿い)からスタートするのもおすすめ。白猪谷渓谷沿いの整備された遊歩道を歩くこと約30分で白猪谷バンガローに到着します。

 白猪谷バンガローの近くには、明治時代中期~1960年代まで銅を産出した白猪谷鉱山がありました。鉱山で精錬された粗銅を人が背負ってシラサ峠(山荘しらさがある場所)を越え、愛媛県西条市へ運ぶ時代もあったそうです。また、昭和初期には、いの町寺川地区からシラサ峠越えで西条市へパーマをかけにいく女性もいたとか。

article251_03.jpg渓谷沿いの道からの眺め。

 盛んに人の往来があったその道こそが、白猪谷バンガローと山荘しらさ間の登山道なのですが、現在は、とくに植物が繁茂する季節だと、登山経験の浅い人には少し難路。しかし、瑞々しい森の景観が苦労をねぎらってくれます。

article251_04.jpgこの道を歩き、峠を越えてパーマネントをかけに行った人がいたのか……。

 渓谷沿いの道から植林地をへて、ブナやナラの巨木が点在する緑の深山幽谷へ。そして、山肌がクマザサに覆われはじめると、まもなく山荘しらさです。
(白猪谷バンガローから山荘しらさへの登山ガイドは、この記事の後半にまとめてあります。)

article251_05.jpg草木の輪廻転生を感じさせる森です。

article251_06.jpg深山幽谷の20分後にはこんな素敵な空間にいました。

このご時世でも心置きなく滞在できる、ロッジ式の山荘

 山荘しらさに到着すると、常駐スタッフの新名桜さんが迎えてくれました。
 そして、挨拶も早々に、汗だくな私を見て、「着替えますか、お風呂もありますよ」と山のホスピタリティを発揮。家庭のユニットバスサイズながら日帰り入浴(600円)できるお風呂や、男女更衣室、ランドリールームがあるあたり、山荘の名に恥じぬ登山者想いであります。また、サイクリストの宿泊者向けに、本館内に自転車の駐車ルームを設置するなど、気の利いたリニューアルになっています。

article251_07.jpg山荘しらさ常駐スタッフの新名桜さん(右)と藤田浩久さん(左)。新名さんはランニングが趣味で、仕事前に石鎚山までトレランしたこともあるとか。藤田さんは大学時代にワンダーフォーゲル部に所属していた山男です。

article251_08.jpg本館内のロビーからもアクセスできる自転車用駐車ルーム。高価なロードバイクで訪れても安心のセキュリティーです。

article251_09.jpg山荘しらさの薪ストーブ。小磯鉄工(高知県土佐清水市)による見事な造形。

 とはいえ、もっとも大きな改装は、客室がすべてロッジ式になったこと。6棟あるロッジはすべてデッキ付きで、室内からはブナやナラの森を一望。目線は樹冠ほどの高さなので、枝葉を飛び移っていくコマドリやヤマガラなど野鳥の姿を観察できます。高山の空気はからりと涼しく、汗がみるみるひいていきました。

article251_10.jpg各ロッジは森に向いている。バリアフリーのロッジが1棟あり。デッキでバーベキューを楽しむこともできる(食材と道具を山荘しらさで用意してもらう場合のみ)。山荘しらさが用意するバーベキューグリルは電気式(LOGOS社の「CHEF BBQエレグリル」)なので、「燃え残りの炭をどう処分したら…」と心配しなくていい。

article251_11.jpg就寝は2段ベッドで。気持ちいい布団を用意。

article251_12.jpg森を眺めながらの入浴。石鎚山系の森は野鳥の宝庫だ。ブッポウソウやアカショウビンなど南方系の鳥から、ホシガラスといった北方系の鳥まで、年間約80種が確認されています。

 ロッジについて、私はなんとなく「小屋」をイメージしていたのですが、けっこう広いリビングスペースです。アウトドアテイストのテーブル・椅子・ソファー、キッチンに冷蔵庫、エアコン、眺めの良いバスにトイレと、しばらく滞在して読書でもしたくなるような居心地の良さです。ここまでの道のりで体験した、緑の魔境的な森とはがらりと違う世界に目まいがしました。

article251_13.jpg山荘しらさの南斜面にある、大気まで緑に染まる森。妖精に出会えそう。

 逆にいえば、山荘しらさから白猪谷バンガロー方面へ山道を20分ほど下れば、文明世界とはおさらば。巨木の並ぶ、それでいて下草が少なくて見通しの良い森は、大自然が醸し出す何かの気配が濃厚。少し怖い感じもする森ですが、不思議と心は整っていきます。

article251_14.jpg瓶ヶ森(女山)山頂付近から眺めた石鎚山(右上奥)。

 もちろん、山荘しらさを拠点に、西日本最高峰・石鎚山(1982m)を頂点とする山並みを目指すのもおすすめです。とくに、山荘からほど近い伊吹山(1502m)や瓶ヶ森(1896m)は、安定した晴天なら初心者でもハイキング気分で登頂できます。

article251_15.jpgランチメニューは「チキンと野菜のスープカレー(左/1600円)」と、「UFOライス(右/1200円)」。山荘しらさでは、朝食は和食(地元名産・本川キジの団子が入ったみそ汁や、アメゴの一夜干しなど)を、夕食はスープ・オードブル・メイン(魚または肉で、魚は県内須崎市のブランド鯛「乙女鯛」、肉は県内四万十町の「四国美鮮豚」)・デザートというコース料理を楽しめます。また、バーベキューや燻製用の食材と道具も用意してくれます。

 こんなに山奥なのに、快適なロッジ、美味しい食事、「山荘」という名に似合わぬ寛ぎのロビー……。登山家やサイクリストなど熱心なアウトドアピープルじゃなくても、山荘しらさでの滞在は価値あるものになるはず。例えば、大自然に包まれることで自分の何かが変化していく――とか。

article251_16.jpg山荘しらさのロビー。

 ところで、アウトドア派じゃない人でも、この山荘に泊まるときは登山用ヘッドランプをお忘れなく。澄み渡った空が色を落とし、無数の星が輝き始めたら、UFOラインを歩いて山荘から少し離れた闇を目指しましょう。
 見上げれば、あなたは無限の広がりのなかの、頼りない、小さな存在、でも、いまここにいて、息をして、なにかを感じている――そんな機会はけっこう貴重だと思います。

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◆山荘しらさ

■登山ガイド「白猪谷バンガロー~山荘しらさ」
 このルートは、立山や白馬岳といった有名山域ほどには登山道が整備されていません。所々の枝にまかれたテープ(赤やピンク)が道標です。地図を読み、コンパスを使いこなせる必要があり、そうでなければ、登山の経験豊富な同行者を求めましょう。
 また、これからの夏山シーズン、このルートを含む石鎚山系ではブユ(ハエの4分の1ぐらいの大きさで黒い虫)が多くなります。吸血されるとたいへんかゆいので、長袖長ズボンやブユに効く防虫剤などで対策を。

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①白猪谷バンガロー~登山口
 白猪谷バンガローから約300m舗装路を歩くと、右手に古びた案内板あり。直進して、水タンクの横から登山道に入る。

article251_18.jpg 舗装路から山道に変わるところにある案内板。

article251_19.jpg 道なりに行くとワサビ田で行き止まり(画像の右上奥)。登山道は水タンクの横から。

②渓谷沿いの道
 谷沿いの斜面を横切っていく区間では、道幅が狭く足元も不安定なので注意。丸太の橋を渡ったら、植林地をつづら折りに登っていく。

article251_20.jpg 足元が不安定な区間あり。

article251_21.jpg 丸太の橋。

③林道から林道終点へ、再び登山道へ
 林道に出ると、おおざっぱな案内板が。林道の終点まで登り、雨の多い季節には雑草に覆われがちな登山道に入る。

article251_22.jpg 林道に出たところにある看板。

article251_23.jpg 林道の終点。登山道の入り口は、この画像の中央やや上にある。

article251_24.jpg 登山道の入り口付近。野バラやハリブキが道をふさいでいた。長ズボンが必須。

④植林の森を行く
 植林の森に入ると、道は明瞭で歩きやすくなる。平坦な地形になると道に迷いやすいので注意。

article251_25.jpg よく手入れされた明るい植林地。

⑤ワサビ田の先で沢を渡る
 ワサビ田に着いたら、その左手の沢を渡る。ここでは道を見失いやすい。枝にまかれたビニールテープを目印に。

article251_26.jpg ワサビ田。

article251_27.jpg 小さな沢をいくつか渡っていく。もちろん石は滑りやすい。

article251_28.jpg ちょっとした難所あり。

⑥ブナ林に入る
 ここまでの道のりとは表情がまるで違う森へ。下草が少なく見通しはよいが、どこでも歩きやすいので道を見失いやすい。

article251_29.jpg 地図、コンパス、ビニールテープでルートを確認しよう。

⑦つづら折りでラストスパート
 標高差約60mのつづら折りを登る。広い尾根に入れば、山荘しらさはまもなく。

article251_30.jpg 森の下草がクマザサになったら、ゴールは近い。

■ コースタイム
白猪谷バンガロー(10分)登山口(20分)丸太の橋(10分)林道(5分)林道終点(30分)
ワサビ田(50分)山荘しらさ(45分)ワサビ田(15分)林道終点(30分)白猪谷バンガロー

■地図
国土地理院のwebサイトから該当地域の地図をプリントアウト。または、
山と高原地図56「石鎚・四国剣山 東赤石山・三嶺」(昭文社)を利用。

■参考/この日の私の主な登山装備
 ● トレッキングシューズ
 ● ストック
 ● デイパック(容量28リットル)
 ● レインウエア上下
 ● 地図
 ● コンパス
 ● ヘッドランプ
 ● ナイフ
 ● ライター
 ● 水筒
 ● 非常食(クッキ―)
 ● ファーストエイドキット

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)

★次回の配信は7月2日予定。
「椿山で大学生たちが限界集落の暮らしを体験(2)」をお届けします。
お楽しみに!

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