2021.02.19「越知ぜよ!熱中塾2月」全力集中レポート(前編)

「越知ぜよ!熱中塾2月」全力集中レポート(前編)

 2月11日(祝)13日(土)に越知町民会館で行われた「越知ぜよ!熱中塾」第4学期の授業を2回にわたりレポートします。今回は11日、はるばる氷点下の北海道から駆けつけてくれた二人の先生の授業の様子です。札幌からは熱中小学校江丹別(えたんべつ)分校校長で情報経営イノベーション専門職大学客員教授である浅田一憲さんが、十勝・本別町からは前田農産食品株式会社代表取締役社長の前田茂雄さんが仁淀川中流の町・越知にやってきました。浅田さんは医学とメディアデザイン学の二つの博士号を持つ独立系研究者、前田さんは農業経営・流通をアメリカの大学で学び、帰国後地元の篤農家だった父親の跡を継ぎ本別町で付加価値の高い小麦やポップコーンの栽培を行う大規模農業者。さて、この二人の先生が「越知ぜよ!熱中塾」の生徒たちにどんな刺激を残したのか、じっくり検証することにしましょう。

 「越知ぜよ!熱中塾」(以下越知熱中と表記)とは、2015年に内閣府の地方創生交付金を使って始まった一般社団法人熱中学園が運営する地方創生ミッション「熱中小学校」のひとつです。2021年2月現在、「町づくりは人づくりから」「教室で夢を見つけ、夢を叶える」という熱中小学校の校是に賛同した15都道府県に合計18の熱中小学校が展開、各界を代表する230名のボランティア先生の授業を、1041名(2020年11月現在)の生徒たちが聴講しています。越知熱中はその11校目として2018年9月に誕生、第4学期は46名の生徒が越知町民会館で行われる月1回の授業(リアルとオンラインを併用)に通っています。

article241_01.jpg 2018年9月尾崎正直高知県知事(当時)、小田保行越知町長も出席して「越知ぜよ!熱中塾」の開校式が行われた。

1時限目

 前置きはこれくらいにして、2月11日に行われた越知熱中の授業を振り返りましょう。第1時限目の授業は浅田一憲さん。自身が開発したスマートフォンの無料アプリ「明るく大きく」「色のシミユレーター」「色のめがね」を紹介し、その具体的な使用方法を実演してくれました。
 「明るく大きく」は老眼や目の病気などで小さな文字などが読みにくい人のための読字補助ツール、「色のシミュレーター」はさまざまな視覚特性を持つ人の色の見え方を体験するための視覚シミュレーションツール、「色のめがね」は色覚異常などが原因で色が見えにくい、色を見分けにくい人の色覚補助ツール(APPアップルストアの解説より)です。 
 2020年6月にはこれらのアプリの総ユーザー数が全世界で100万人を突破、200か国以上で愛用されているというからすごい。

article241_02.jpg実際にアプリの画像を見せながらその使い方を解説する浅田さん。

 たしかに健常者は、視覚に異常がある人たちが実際にどのような映像や景色を見ているのか想像がつきません。だから手助けしたくてもその方法がわからない。でも、「もしその映像を再現できて、健常者が体験できれば、その対策も可能になるはず」と気づいた浅田さん、得意のIT分野の知見と技術を駆使して実際の医療現場で役立つ補助アプリを開発、それを無料で提供したというわけです。

article241_03.jpg興味津々で浅田先生の授業を聞く生徒たち。

article241_04.jpgスマホにアプリを入れて実際に視覚障害者の見ている世界を体験する生徒たち。

 「困っている人の役に立ちたい」と思っても、その手助けの方法や知識を持てずに逡巡しがちな私たち一般人にとって、浅田さんの仕事ぶりはかっこよすぎて、美しすぎて、眩しすぎる(笑い)。
 でも「視覚障害者の世界がどんなものか実際に見ることができればなんとかなるはず」という浅田さんの「最初の気づき」ならば、その気になれば私たちだって手に入れることができるはず。要は「困っている人の立場になって物事を考え、寄り添った発想ができるかどうか」ということ。その「気づき」さえあれば、自分ひとりでは不可能なことでも専門家の力を借りて解答を引き出すことができる。浅田さんはたまたまそれを独力でできる人だっただけだ(笑い)。
 困っている人の視点に立って物事を考える大切さ、そしてそこから生まれる気づきが必ずあること。そのことを深く考えさせられた浅田先生の授業でした。

2時限目

 第2時限目の前田茂雄さんの授業は、いきなり生徒たちの度肝を抜くファッションで幕を開けました。その証拠写真がこれです。

article241_05.jpg仰天!いきなりトウモロコシの着ぐるみで登壇した前田先生と一瞬フリーズする生徒たち(笑い)。

 どうやら奇抜な衣装は、前田農場の経営理念「私たちはお客様と共に種をまき、共に育つワクワク感動農業を実践します」を体現する「農業のファンづくり」の仕掛けのひとつのようです。十勝小麦の販路拡大・ブランド化の促進などを目的に始めた「十勝ベーカリーキャンプ」、その年にとれた小麦を速やかに製粉、挽き立てのまま味わう「新麦コレクション」、小麦のプロフェッショナルが集まる麦の祭典「麦フェス」などなど、自身がこれまでに仕掛けてきたユニークなイベントを次々に紹介する前田さんはいかにも楽しそう。それを聞く生徒たちのテンションも徐々にアップしてきたところで前田さんが満を持して取り出したのは、電子レンジでチンするだけでポップコーンが作れる「北海道十勝ポップコーン」という自社の商品。国産トウモロコシを原料に使った製品は他にないんだそうで、トウモロコシの着ぐるみで、本別町から持参した電子レンジを使ってポップコーンを作る実演の場面では生徒たちの大喝采を浴びていました。

article241_06.jpgレンジでチンを実演するトウモロコシマン、じゃなかった前田さん。

article241_07.jpg前田さんが苦労の末に商品化した国産初の電子レンジポップコーン。

article241_08.jpg前田農産の活動を伝えるステキなメディアもある。

 前田さんは北海道の農業者が仕事をせずに休む冬の農閑期を「付加価値創造期間」と名付けて農業以外のさまざまな活動を行っています。越知熱中の生徒たちに対しても「人口減少社会で生き残るには、魅力ある地域でしかできない仕事の創出が必要」で、そのために「越知ぜよ!熱中塾を外部との接点として存分に活用し、高知を変えるプレイヤーになれ!」と檄を飛ばして、颯爽と氷点下の北海道に帰っていきました。

(取材・越知ぜよ!熱中塾事務局長 大鳥 愛)

★次回の配信は2月26日予定。
「仁淀川リバーサイドキッチン(4)」をお届けします。
お楽しみに!

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