2020.08.28あの中津渓谷でキャニオニングツアー!? 驚異の峡谷案内人はこんな男だ!

あの中津渓谷でキャニオニングツアー!? 驚異の峡谷案内人はこんな男だ!

 深山幽谷だらけの四国でも有数の景勝地である中津渓谷。そのなかに、これまで人を拒んできた峡谷区間があります。この春、そこでの冒険にいざなう案内人が誕生しました。国内トップクラスのキャニオニングガイドとは? 彼の人生をのぞき見してみましょう。

 仁淀川の支流、中津川にある中津渓谷(仁淀川町名野川)。遊歩道が整備された一般的な観光地ですが、岩と水流による大地の造形は、大自然に目が肥えた人も満足させています。

article227_01.jpg中津渓谷の入り口。ここから片道約1.6㎞の遊歩道が整備されている。

 しかし、実はここにはもっと驚愕させられる渓谷美があります。深く険しいため、これまで全貌は謎だった峡谷区間を探検、開拓し、キャニオニングツアーを始めたのが「仁淀アドベンチャー」代表の神澤識大(かんざわ のりひろ)さんです。

article227_02.jpgこんな風景見たことある? 中津渓谷でのキャニオニング。(画像提供:神澤識大)

キャニオニングってなに?

 近年では日本各地の峡谷にキャニオニングツアーがありますが、そもそもキャニオニングとは何なのでしょうか? 神澤さんに質問してみました。
「キャニオニングは、日本の登山で昔からある『沢登り』や、『シャワークライミングツアー』などと混同されることがあります」。
 では、その違いは?
「簡単にいうと、キャニオニングは上流から下流へ、シャワークライミングは下流から上流へ、でしょうか」。

article227_03.jpg神澤識大さん。仁淀アドベンチャーの事務所(仁淀川町シェアオフィス内)にて。

 峡谷で遊ぶという点では違いがないような……。
「水に逆らわず、流れに乗っていくキャニオニングのほうが、ツアーとしては少し激しくいけますね。もっとアドレナリンが出るというか。仁淀アドベンチャーのツアーコースにはないのですが、例えば20mの滝があったりすると、シャワークライミングではゲストは登れません。落ちてくる水に押し返される。でもキャニオニングならその滝を下って高度感抜群の体験ができます」。

article227_04.jpg中津渓谷でのキャニオニング。ロープも使いながら峡谷を下ります。(画像提供:神澤識大)

 ここでキャニオニングについてもう少し。
 この新しい野遊びは欧米で生まれました。登山のように「人跡未踏」を求めたハイレベルな冒険キャニオニングも珍しくないようです。
 キャニオニングの国際組織で代表的なのはCIC(国際キャニオニング協会/本部はドイツ)。その研修を受けたり、キャニオニングガイド認定を得た人たち(まだ少数)が日本のキャニオニングをけん引しています。例えば高知県の山奥を拠点に、日本はもちろんニュージーランドや台湾で難易度の高いキャニオニングを達成してきた田中彰さん(昨年、TBS「情熱大陸」に主役で出演)はその第一人者。神澤識大さんは、その田中彰さんが実力を認めるリバーガイド(ラフティング、カヤック、キャニオニングなどのガイドの総称)なのです。

article227_05.jpgこの谷底をキャニオニングしていきます。

海外で働きたいから、川を仕事場に

 現在33歳の神澤さんは埼玉県出身。キャニオニングやラフティング、カヤックなどで川を案内すること約10年のキャリアです。
「大学生のときオーストラリアを旅行して、スキューバダイビングとラフティングをしました。それで、『これを仕事にすると面白そうだ』と思ったのがきっかけです」。
 スキューバダイビングのインストラクターになるほうが一般的だったこともあり、まずは伊良部島(八重山諸島)やグアムでダイビングの仕事に就いたそうです。
「そして、じゃあ次はラフティングの仕事を試そうと」。
 神澤さんには、海外で働きたいという夢がずっとあったといいます。
「グアムで仕事をしたものの、まだ英語に自信がなかったので、日本でラフティングの仕事を検索しました。すると水上峡(群馬県水上町)に、外人スタッフがけっこういるラフティング会社の求人があったのです」。
 海外で働くきっかけもつかめるぞと、神澤さんはそこでリバーガイドに。23歳のときでした。

article227_06.jpg仁淀川支流・土居川でのラフティングをガイドする神澤さん。(画像提供:神澤識大)

「これが普通」な世界が、人生を広げていった

 ラフティングでもカヤックでも、ガイドは体力的に厳しい仕事です。ダイビング以外のアウトドア経験がなかった神澤さんはどうだったのでしょう。
「苦労ですか? あるのかなあ、英語の苦労ぐらいかな(笑)。もちろん疲労はしますが、健康体で。これまで大けがもないんです」。
 でも、例えばカヤックの急流下りでは、最初はひどい目にあうことが多い。転覆ばかりして、カヤックから分離して激流で揉まれますが、平気でしたか?
「カヤックを始めたのがニュージーランドでした。それが良かったのかな。もちろん最初はひっくり返って流されました。でも、それがニュージーランドのカヤッカーには普通のことなんです。『カヤックの急流下りはそういうものだ』という感じ。だから慣れているのでしょうか、ぼくが転覆すると、現地のカヤッカーがすぐレスキューしてくれるんです。しかもそれが素早い」。

article227_07.jpgランギタタ川(ニュージーランド)のラフティング。(画像提供:神澤識大)

 以来、水上峡や大歩危小歩危(おおぼけ・こぼけ 徳島・高知県の吉野川)、海外のニュージーランドやオーストラリア、カナダなどを渡り歩きながらリバーガイドする日々の神澤さん。定職定住の一般人からすると、かなり変わった人生です。
「ですけど、ぼくの周りの人、リバーガイドたちですが、こんなのが普通です。女性ガイドですけど、南米や北米、ネパールやマダカスカルなど、世界各地を渡り歩いてカヤックを漕いだりラフティングガイドをしている人もいます」。

article227_08.jpgワイロア川(ニュージーランド)でガイド中の神澤さん。(画像提供:神澤識大)

海外の川を知る男を魅了した中津渓谷

 キャニオニングでは、神澤さんは5年前に、CIC(国際キャニオニング協会)によるプロガイド養成の研修「モジュール1&2」を受講して合格。ちなみにこの研修、峡谷を舞台に2週間(休みは中1日だけ)も続きます。そして、1日15時間のトレーニングを課せられることも。「吐くほど急流で泳がされる」とか、「常に圧を感じながら、心も体もボロボロに」などという声もあるぐらい。四国でCICの認定資格を持っているのは、前出の田中彰さんと神澤さんとあと1名ぐらいだといいます。

article227_09.jpg中津渓谷でのキャニオニングの様子。(画像提供:神澤識大)

 カナダにせよニュージーランドにせよ、自然が豊かな川をいくつも経験してきた神澤さんですが、中津渓谷のキャニオニングにはどんな魅力を感じていますか?
「国内の他のキャニオニングツアーではお目にかかれない景観です。深いし狭いし、岩の浸食の具合も変わっていて美しい。それから、他のキャニオニングツアーではけっこう歩くことも多いけど、中津渓谷では8割が水の中です。流れる、流れる、ジャンプして飛び込みと、テンポよく全身で清流を楽しめます。ガイドツアーですが、自分の力でやり遂げた達成感も得られると思います」。

article227_10.jpgこんな峡谷、見たことある? 上からのぞき込んでも出合えない景観が。中津渓谷でのキャニオニング。(画像提供:神澤識大)

 とにかく「かっこいい」峡谷ですと神澤さん。
「思えば、深い峡谷、たとえば九州の高千穂峡(大分県)などが昔から好きでした。でも中津渓谷をキャニオニングしてみたら、その高千穂峡をもっと狭くワイルドにした自然の驚異が待っていたんですよ」。

自然にあわせて、一期一会の体験を

 仁淀アドベンチャーでは、キャニオニングのほかラフティングとパックラフトのツアーも提供しています。

article227_11.jpg雨で増水したとき限定の土居川ラフティングツアー。(画像提供:神澤識大)

 「中津川の水量が多すぎると中津渓谷のキャニオニングはできないのですが、そのときはここから車で15分の土居川が、ラフティングにちょうどいい水量になるのです。あれだけきれいな川を下るなんてめったにない機会だと思います」。

article227_12.jpg仁淀川本流でのパックラフトツアー。自分一人の力で急流を下っていきます。(画像提供:神澤識大)

 大自然の機嫌にあわせて、一期一会の川遊びを提案する神澤さん。万が一キャニオニングツアーが中止になっても、替わりのプランのほうも価値があるといいます。
「パックラフトツアーは、主に仁淀川本流を下るのですが、水量が落ち着く春と秋がおすすめです。同時にキャニオニングにも適した季節なんですよね。これから秋を迎えるのですが、中津渓谷の紅葉は素晴らしいし、キャニオニング後の温泉(中津渓谷・ゆの森)も気持ちいいですよ」。

article227_13.jpg温泉「中津渓谷・ゆの森」へは、仁淀アドベンチャーの事務所から徒歩約3分。

 仁淀アドベンチャーではウエットスーツを完備しているので、川で泳いでも寒さ対策はばっちり。秋の中津渓谷では、空の青は濃く、川の水は澄み、山はしだいに紅さしていきます。夏の日はまもなくサヨナラですが、中津渓谷や仁淀川流域での川遊びシーズンはまだまだ続きます。

article227_14.jpgキャニオニングガイド中の神澤さん(右)。(画像提供:神澤識大)

仁淀アドベンチャーは、仁淀川町シェアオフィス(旧名野川小学校/高知県吾川郡仁淀川町名野川450)にあります。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)

★次回の配信は9月11日予定。
「仁淀川リバーサイドキッチン2」をお届けします。
お楽しみに!

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