2020.06.19新連載シリーズ「リバーサイドキッチン」 第1回「パエリア・ニヨドリバーナ」

新連載シリーズ「リバーサイドキッチン」 第1回「パエリア・ニヨドリバーナ」

1973年に創立した伝統ある高知の料理学校RKC調理製菓専門学校の島村昌利校長が出張料理人を務める、ぜいたくなリバーサイドキッチンがスタート! 家庭に普通にある調理道具を持ち出すだけですぐ作れる「ちゃっちゃっとレシピ」を紹介していただきます。このシリーズの見どころはレシピだけではありません。毎回仁淀ブルー編集部おすすめの仁淀川河畔の「リバーサイドビュー・キッチン」の場所もピンポイントで併せて紹介しますのでお楽しみに。第1回はスペインのバレンシア地方の郷土料理パエリアを仁淀川流にアレンジ。流域の初夏の食材だけを炊き込んだ名付けて「パエリア・ニヨドリバーナ」。フライパンと魚焼き網、カセットコンロ持参でちゃっちゃっとできちゃう速攻レシピ。初夏の仁淀ブルーの風を感じながらリバーフロントキッチンであなたも調理してみませんか?

 この連載で料理の腕を振るってくれるRKC調理製菓専門学校校長の島村昌利さん。RKC高知放送の夕方の番組『eye+スーパー』の人気コーナー「おうちシェフ」に出演している有名料理人でもあります。若いころは東京のホテルの厨房で働いていたそうですが、東京で出会った奥さんの故郷である高知に20年以上前に移住してきました。移住の理由をご本人は「仕事、子育て共に日々時間に追われる生活の環境を変えたほうが良いかと思って」とさばさばとした様子で話してくれましたが、実際は”はちきん磁石”に捕まっちゃったんでしょうね(笑)。それでは、今日の本題に入っていきましょう。
 「アウトドア料理の基本は”簡単”に”短時間”でできること。子どもが小さいときはわが家もよくキャンプに行きましたよ。でも凝った料理よりも、バーベキューやカレーを作ることが多かったかな」(島村さん)。ふーん、島村さんは料理人でもあり、アウトドア好きでもあったんですね。

article222_01.jpgキャンプが大好きだと話すRKC調理製菓専門学校校長・島村昌利さん。

 早速、調理にとりかかります。食材はもちろん全て高知県産。仁淀ブルー通信黒笹編集長が前日にいの町の仁淀川支流で釣ってきたアメゴに、日高村「村の駅ひだか」で購入したシュガートマトをはじめとする定番の夏野菜、この時期にしか食べられない夏タケノコのハチク。仁淀川流域がいかに食材に恵まれた土地であるかがよくわかります。

article222_02.jpg左からハチクの水煮、米、スナップエンドウ、ズッキーニ、ニンニク、トマト、玉ねぎ、アメゴ、ピーマン。

 本日作るのは4人分。まずはニンニク(2片)、玉ねぎ(50g)をみじん切りにしていきます。

article222_03.jpg

 続いて、スナップエンドウ(8本)のすじをとり、ズッキーニ(緑・黄色、各1/2本)、茹でたハチク(100g)、フルーツトマト(2個)、ピーマン(2個)は食べやすい大きさにカットします。

” frameborder=”0” allow=”autoplay; encrypted-media”allowfullscreen>

 アメゴ(3尾)は、塩胡椒(適量)をふり、カートリッジコンロと魚焼き網を使って焼いていきます。最後にパエリアの上に乗せるだけなので、この段階で中までじっくり火を通します。アメゴ独特の何とも言えない美味しい香りが漂います。魚介類をふんだんに使うイメージがあるパエリアですが、アメゴには他の魚介類がなくても味、見た目ともに十分主役を張れる存在感があります。昨日まで仁淀川を泳いでいた彼らが網の上で仲良く並んでいる姿を見ると何だか不思議な気持ちになります。

article222_04.jpg

 パエリアに必要な食材は簡単に手に入って、余らせても他に使い道のあるものだけ。凝った素材や調味料は必要ありません。道具も同じ。今回はアウトドアブランドのガスバーナーを使いましたが、ふだん家庭で使っているカセットコンロで十分。いつも家で使っているものを持ち出して、ちゃちゃっと作れるのがこのパエリアの魅力です。食材や道具はありきたりでも、心地よい風を肌に感じながらする料理は、家のキッチンとはまるで別世界。全ての食材が特別感を纏っている感じがします。

article222_05.jpg使用する食材と道具はこれがすべて。ここには写っていませんが最後の蒸らしのためにフライパンの蓋は別途用意してください。ここは風が通りやすい場所なので、コンロの風防になるものを用意していくと調理時間が短縮できます。

 続いてフライパンに、オリーブオイル(大さじ2)を熱し、みじん切りにしたニンニク、玉ねぎを香りが立つまで炒め、米(3合)を加えて米全体に熱が通るまで炒めます。「米は洗いません。洗うと米が水を含んで肝心のオリーブオイルや野菜の旨みを吸わなくなってしまう。洗わないと気になる人は無洗米を使ってください」(島村さん)。手間を省くように見えてじつはちゃんとした理由があるのですね。
 しばらく具材を炒めているとあたりが洋食レストランにいるような素敵な香りに包まれてきました。広い空、山の緑、澄んだ川の青を見ながら、美味しい香りに包まれる。耳を澄ませばホトトギスとホオジロのさえずり、ときおりコゲラのドラミングも聞こえます。仁淀川の瀬音、風が体に当たる音、足元の青い草と土の感触。五感で自然を感じながら料理ができる幸せ。都会の人がお金をいくら払っても手に入れられない豊かさを高知では誰でも手に入れることができます。

article222_06.jpg米全体にオリーブオイルが馴染むように炒める。

 米にある程度熱が入ったら、一口サイズに切った野菜、水(520ml)、固形スープ(1個)を加え、塩胡椒(適量)で味を調整、全体に具材と調味料が行き渡るように軽く混ぜます。だんだん高知の夏らしい色合いになってきましたよ。ハチクが入っているのが何とも高知らしい。この時期しか味わえない季節の食材をふんだんに使うことができるのも高知に住んでいることの地の利ですね。

article222_07.jpgどうです? 夏らしい色合いになってきましたよ。

 蓋をして、弱火で約15分炊いていきます。いい香りに誘われたのでしょう、トビが私たちの上空をグルグル旋回しています。じつはこの場所、仁淀ブルー通信の黒笹編集長が命名した秘蔵の”キャンプビバリーヒルズ”。そんな素敵なプレミアムな場所で料理の完成を待つひとときは格別です。

article222_08.jpg火はできるだけ弱火で。火を止めてからも蓋を乗せたままで蒸らします。お米の芯がなくなったら完成。ときどきつまんでチェックしてください。

 パエリアができるのを待っている間に、今回の撮影地を紹介しましょう。”キャンプビバリーヒルズ”は越知町宮の前公園の一画、コンクリート製のテーブルやスツールが置かれている細長い雑木林のいちばん東の端、ちょうど仁淀川本流と支流坂折川の合流点を見下ろす位置になります。近くにはトイレや水道もあり、家族や友人とアウトドアクッキングを楽しむには絶好の場所。ここでキャンプする場合はひとり用テント1張り分くらいのスペースです。「秋にここでキャンプすると周囲を真っ赤な彼岸花に囲まれて眠るので、そのままあの世に行ってしまいそうになるので注意が必要」(黒笹編集長)だとか(笑)。

” frameborder=”0” allow=”autoplay; encrypted-media”allowfullscreen>
      キャンプビバリーヒルズに向かいます。

article222_map.jpg

 そんなリッチな気分に浸っていると、お米の焦げる香ばしい匂いがしてきました。火を消し、アメゴをお米の上に並べ、ここからさらに約5分蒸らして、完成です。

” frameborder=”0” allow=”autoplay; encrypted-media”allowfullscreen>
      キャンプビバリーヒルズからの絶景。

 高知の夏野菜と仁淀川のアメゴが贅沢にコラボした逸品ができました。食べるときにはアメゴの骨を取り外し、身だけを混ぜます。

article222_09.jpg仁淀川流域の食材だけを使ったパエリア・ニヨドリバーナ。

 さっそく味見をしてみると、口の中に野菜の旨味とアメゴの香りが一気に広がります。米にはニンニクの香りとオリーブオイル、スープがしっかり染み込んでいます。フライパンの底と縁には香ばしいおこげが…。島村校長によるとパエリアでいちばんおいしいのがスープと具材の旨みをしっかり含んだこの縁のおこげ部分、通称”天使の輪”なんだそう。
 「ひゃーたまらん!」大自然の中にいながら口の中はまるで三つ星高級レストランのよう。本当の贅沢とはこういうことかと一人で納得した記者でした(笑)。

” frameborder=”0” allow=”autoplay; encrypted-media”allowfullscreen>
      ひゃー、おこげがたまりません。

 島村校長に今回の感想と今後の構想を聞きました。
———“宮の前公園のキャンプビバリーヒルズ”はいかがでしたか。
 「あんなに素敵なところでキャンプができるのは羨ましい(笑)。景色も綺麗だし風も気持ちいい。贅沢な時間でした。あそこにはお金で買えないものがあるのでしょうね」(島村さん)。
———-今後のリバーサイドキッチンの構想をお聞かせください。
 「主食を中心に考えています。麺やパンとか。今回のパエリアもそうだけど、簡単にできる料理でないといけない。自分たちは”3行レシピ”と言うのだけど、3行の文章で表現できるくらい簡単なレシピであることが大事。あとは、素材でも道具でもどこでも誰でも手に入るものを使うことを意識しています。アウトドアで料理するのだから、“良い加減”で大胆に料理するのがいいですね」(島村さん)。

article222_10.jpg仁淀川ビューのリバーサイドレストランと島村校長。

 カレーやバーベキューといった定番メニューなってしまいがちなアウトドアクッキングですが、たまには新しくて美味しいメニューにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

” frameborder=”0” allow=”autoplay; encrypted-media”allowfullscreen>
      お金では買えない景色も一緒にいただきました。

(仁淀ブルー通信編集部員 仲田和生(なかだかずき) )

★次回の配信は7月3日予定。
「仁淀ブルー水槽の魚補給大作戦」をお届けします。
お楽しみに!

●今回の編集後記はこちら