2020.03.27求む! 仁淀ブルーから生まれた「チェルキオ(まる)」を継ぐもの

求む! 仁淀ブルーから生まれた「チェルキオ(まる)」を継ぐもの

その味が高く評価され、料理人に「ブラウンマッシュルームならこれでしょ!」と言わしめたのが「によどマッシュルーム」。しかし、それが存亡の危機に直面しています。後継者を探しています!

 ここ数年増加している国産マッシュルーム栽培。おもな産地である千葉県・岡山県・山形県の3県で国内の収穫量の90%以上を占めています。
 そんななか、食材納入業者に「あそこのブラウンマッシュルームを使っているのならうちのは買ってもらえない」と白旗をあげさせたのが高知県仁淀川町の「によどマッシュルーム」。収穫量の全国シェアはわずかながら、きらりと光る栽培者として注目されていました。「いました」と過去形なのは、現在栽培が中断されているから。
 いったいなぜなのか。取材してきました。

article216_01.jpgによどマッシュルーム(旧長淵小学校)の屋上からの眺め。

 その屋上からは、仁淀川をせき止めた大渡ダムの静かな湖面が見渡せます。ここは仁淀川町にある廃校(旧長淵小学校)。校舎と校庭は急峻な山並みの尾根にあり、その周囲は深い森。どこから子供たちが通学を? 竹内隆さんが「昔はこのあたりに集落があったんです」と、少し言葉に不自由しながら話してくれました。

article216_02.jpgによどマッシュルームは廃校をリノベーションした建物を利用している。

 生まれも育ちも仁淀川町の竹内隆さんは仁淀川町役場を早期退職後、ブラウンマッシュルーム栽培に挑戦しました。
“高校卒業後にカナダ西海岸・バンクーバーのマッシュルーム農家で1年間働いた経験がある”“マッシュルーム栽培をしていた従兄弟が手助けしてくれる”“仁淀川町に新しい産業を興したい”等々いろんな理由があったそうですが、「根底にはブラウンマッシュルームがおいしいというのがありました」と隆さん。
「栽培して収穫して食べたらじつにおいしい。なぜおいしいのか? 他の栽培者とは何が違うのか? 栽培方法はだいたい一緒なのに」と色々考えたそうです。

article216_03.jpg仁淀ブルーがブラウンマッシュルームを美味しく!?

 その答えの1つは「水」でした。マッシュルームの重量の約90%は水分で、水の質が味の要素になっているのです。
「うちは栽培のすべてを天然水で賄いました。水が豊富でしかも良質なこの地域ならではです」。
 しかも、によどマッシュルームが取水する谷川の下流の仁淀川本流でさえ何年も水質日本一なのです。

article216_04.jpgによどマッシュルームの竹内隆さん、明美さん、民子さん

 この、仁淀ブルーの恵みでもあるブラウンマッシュルームを多くの人に届けるべく、隆さんは奥さんの明美さん、妹の民子さんと共に「によどマッシュルーム生産組合」を立ち上げます。2006年のことでした。

article216_05.jpg栽培中のブラウンマッシュルーム。

 良質なものはできるけど、望む収穫量で、しかも安定して生産できるようになるまでの道のりは平たんではなかったようです。例えばマッシュルームを育てるための堆肥(培地)づくり。その主な原料は「馬厩肥(ばきゅうひ)」です。
「馬厩肥に大豆粕などを配合し、発酵させて堆肥にするのですが、入荷する馬厩肥の状態は毎回違うんですよ」。
 馬厩肥の質を見極められるようになることや、配合しながら「いい堆肥になった」と判断できる感覚を会得することは、一朝一夕ではなかったと隆さんはいいます。

article216_06.jpgによどマッシュルームの栽培棟。3棟あり、温度と湿度が管理できる。

 馬厩肥については、「突然、『来月から入荷できません』と仕入れ先に宣告されたことも」と民子さん。新しい入手先を見つけるまで約半年かかったそうです。また、流通の開拓も手探りだったとか。こちらが望む値段で買ってもらえないこともあったそうです。
 しかし、約10年で生産は安定し、流通に関しても、「うちが生産計画を出して、それに沿ってブラウンマッシュルームを注文してもらえるようになったし、良い値段での直接契約も増えました」と民子さん。
 2017年にはこだわり食材を紹介するテレビ番組「満天青空レストラン」でも紹介されました。生のブラウンマッシュルームだけでなく、ドライやピクルスなどの加工品も充実し始めました。ちなみに、スライスではなく「丸い形のまま」のドライマッシュルームを商品化したのは「によどマッシュルーム」が初なのです。

article216_07.jpgドライやピクルスなど、ブラウンマッシュルームの加工品も好評に。

 しかし2018年、隆さんは体調を崩し、ブラウンマッシュルーム栽培が難しくなりました。
「継ぐ人がいればと思っているんですよ」と隆さんの奥さんの明美さん。仕入れや販売のルートは確立されているし、活用できる施設はある。そして何より「によどマッシュルーム」というブランドがすでに浸透しているのです。
「体調のこともあり、栽培について夫が一から手とり足とり教えるのは難しいのですが、いろんなアドバイスはさせてもらいます」と明美さん。民子さんは、「実際にブラウンマッシュルーム栽培に取り組んでもらって、その過程でうまくいかなかったときは、どうしたらいいかをお伝えできます。私たち3人はここでいろんな経験をしてきましたから」。

article216_08.jpg丹精込めて栽培するブラウンマッシュルームにはCerchio(チェルキオ、イタリア語で「まあるい」という意味)という名前をつけました。

 ところで、これまでの日々をふりかえってどうでしたか?
「そりゃあ楽しかった、楽しくなければやってない」と民子さん。「一からですから。栽培用の水を引いてくることから。水は、大渡ダムを挟んだ対岸の谷から来ているんですよ。そこの集落の人たちに挨拶して、水をわけてくださいとお願いして、許可をいただいて、地元の皆さんにもご協力をいただきました。それから配水の業者を探しました。ダムの湖面のずっと上に配水管を渡すことができる人がいるなんて、びっくりしましたよ(笑)。」
「そうね、なんでもやってきた。廃校を自分たちで直して作業場にしたり」と明美さん。「ブラウンマッシュルームの栽培では、夫はダンプとフォークリフト等の運転等をしたし、その他色々なことは自分達で荷ってきました……」。

article216_09.jpg校庭にある栽培棟その向こうの山並み(間に大渡ダムの湖面がある)から谷川の水を引き、ブラウンマッシュルームを栽培してきた。

 竹内さんたちが育て上げた「によどマッシュルーム」。それを継ぐ人は、竹内さんたちのように「一から」の体験にはならないでしょう。けれども、新しいことに挑戦し、新たな発展を目指す喜びがそこにあるはずです。

仁淀川町でブラウンマッシュルーム栽培に挑戦!
■によどマッシュルームは後継者を探しています。問い合わせは、仁淀川町役場産業建設課(0889-35-1083)へ。
■また、仁淀川町の地域おこし協力隊になってマッシュルーム事業へ、という道もあるそうです。地域おこし協力隊の応募については、仁淀川町役場企画課(0889-35-1082)へ。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)

★次回の配信は4月10日予定。
「仁淀川の早春スペクタクル、アユの遡上が始まってます!」をお届けします。
お楽しみに!

●今回の編集後記はこちら