2020.02.14牧野富太郎博士も感動!? 加茂の里でバイカオウレンが見ごろです

牧野富太郎博士も感動!? 加茂の里でバイカオウレンが見ごろです

 立春をすぎても風はまだ冷たい2月。けれども仁淀川流域には早くも春を感じさせる風景が。地域の人々が守る花園をご紹介しましょう。

 佐川町の偉人で日本の植物学の父・牧野富太郎博士が愛したのはとても小さな花でした。それがバイカオウレン。佐川町では毎年1月の終わりから開花し、2月末ごろまでが見ごろになっています。

article210_01.jpgバイカオウレンの背丈は5~10cm。とても小さな世界だ。

 その自生・群生地が佐川町東部の加茂地区にあります。テニスコートを二つ縦にならべた面積よりも少し広い山肌で開花するバイカオウレンは、なんと数十万株。そこを保全してきた地域の人たちを訪ねました。

article210_02.jpg吉村義孝さん(左)、大山征彦さん(右)。加茂地区のバイカオウレン自生地にて。

 バイカオウレン自生地を案内してくれたのは加茂地区に暮らす大山征彦さんと吉村義孝さん。この自生地は30年ほど前から存在が知られるようになり、地域の人たちによる保全活動が始まって約20年になります。
「保全活動は毎月1回で、5~10人が参加してきました」と大山さん。「バイカオウレンは背の低い植物ですし、林の下で生育します。落ち葉を取り除いたり、他の草を抜いてバイカオウレンが埋もれないようにします。自生地を囲うロープを張ったり、自生地までの道を覆う落ち葉を掃除したりもします」。
 また、この自生地では地下茎や種でバイカオウレンが自然に代を重ねていますが、一部では種をまくことで生息地拡大の手助けもしているそうです。

article210_03.jpgバイカオウレンの花の直径は1.5cmぐらい。花びらのように見える白い部分は萼(ガク)。萼は5片だが、まれに6、7片の花も。花弁は退化して蜜腺(小さな黄色い部分)になっている。

article210_04.jpgバイカオウレンの群生地は、雪がはらはらと降り落ちたよう。

 それにしても、なぜこれほどの自生・群生地がここに?
 バイカオウレンは標高1000mぐらいの山林で生育するといわれますが、ここ佐川町の場合は標高100mにも届かない里山なのです。
「環境が合っているのでしょう。北向きの斜面で、谷筋で、苔が生えているような場所がいいようです」と吉村さん。「でも、苔がふかふかと厚すぎるのはよくないようです。バイカオウレンの種が落ちても埋もれてしまう。それから、雑木林ではバイカオウレンを見かけませんね」。

article210_05.jpg苔の多い湿った場所でバイカオウレンはよく見られる。

 大山さんは、土の質も関係しているようだといいます。
「このあたりにはいろんな地質がありますから、なかにはバイカオウレンと相性のいい土があるのでしょう」。
 佐川町では、南北5kmの間に約4億3000万年~9800万年まで(約3億年分)の地層が、東西方向へ帯状になって大地に現れています。200m進むだけで、地層の年代が1億年違うところもあるらしい(佐川町立佐川地質館のホームぺージより)。佐川町が「地質の宝庫」と呼ばれるゆえんであります。

article210_06.jpg佐川町加茂地区。この地域の大地には太古の記憶が眠る。

この花園を未来に

 このバイカオウレン自生地はまるで公共の園地のように整備されていますが、実は複数の個人所有地。地主さんたちの好意と加茂地区の活動によって、みんなが鑑賞できるようになっています。今後もこの自然を守っていくにあたり、私たちにも手助けできることがあります。

article210_07.jpg加茂地区のバイカオウレン自生地へは農作業用に整備された道を徒歩で登っていく。道幅が狭いので車のすれ違いは不可能だし、自生地に駐車スペースはない。バイカオウレン自生地まで徒歩で片道約20分(そのうち登り坂が10分)。

(1)バイカオウレン自生地へは徒歩で。駐車可能なのは集落活動センター「加茂の里」です。駐車するとき、平日であればスタッフに声をかけて自生地に登ってください。案内図もここにあります。



article210_08s.jpg集落活動センター「加茂の里」。ここへは鉄道でもアクセス可能で、JR土讃線土佐加茂駅から徒歩1分。
article210_09s.jpg加茂の里の案内所にて。大山さん(左)と吉村さん(中)、集落支援員の北添愛美さん(右)。

article210_10s.jpgバイカオウレン自生地の保全活動に賛同された方はぜひご寄付を(集落活動センター「加茂の里」に募金箱があります)。寄付していただいた方には大山さんが描いたバイカオウレンのキーホルダーをプレゼント。
article210_11s.jpg加茂の里の案内所ではバイカオウレン開花期間(2月末ぐらいまで)このような案内地図を配布。

(2)自生地では歩道を一方通行で。ロープを乗り越えてバイカオウレンの群落に入らないようにしてください。もちろんバイカオウレンを持ち帰るのは禁止です。ゴミはお持ち帰りください。

(3)写真撮影は他の人の迷惑にならないように。

article210_12.jpgとても小さなバイカオウレン。少年時代の牧野富太郎博士も地面に這いつくばるようにして観察したのだろうか。

 暖冬の今年、バイカオウレンの開花は例年より早く、満開の見ごろは2月20日ぐらいまでと予想されます。しかし、今後気温の低い日が増えれば開花期間は伸びていくそうです。

article210_13.jpg取材したのは今年の2月4日。八分咲きといったところ。

 2月16日(日曜)には加茂の里で『バイカオウレンウォーキング』を開催。予約なしで参加できます。バイカオウレン自生地だけでなく、四国山地の雪景色までも見渡せる展望地・清宝山を巡るコースや、裏見の滝である「大たびの滝」を巡るコースなど、全3コースのウォーキングをスタッフの案内で楽しめます。

 また、バイカオウレン(シコクバイカオウレンとも)には牧野公園でも出合えます。酒蔵の町並みとともにこちらもおすすめです。

article210_14.jpg牧野公園の入り口にある酒蔵の町並み。

★次回の配信は2020年2月21日予定。
アンコールシリーズ。2018年12月21日に配信の”<仁淀川野鳥生活記>5 仁淀ブルーに輝くカワガラス”をお届けします。
お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら