2019.09.13子供たちに天空の世界を! UFOラインで四国の屋根へ

子供たちに天空の世界を! UFOラインで四国の屋根へ

日本の屋根は日本アルプス、世界の屋根はヒマラヤと、登山家でなければ近づきがたい「屋根」ですが、四国のそれはフレンドリー。aいの町の「UFOライン」をドライブすれば、屋根のてっぺんまで徒歩で最短20分! 気軽に登れる四国の屋根の山を、地元のベテラン山男が紹介してくれます。

 西日本最高峰の石鎚山(1982m)を有する石鎚山系。その稜線に寄り添うようにのびるのがUFOライン(町道瓶ヶ森線)です。標高1200~1700mの山肌にあり、「天空の道」としてドライバーやライダーに人気ですが、初めて山に登る人にもかなりおすすめです。

UFOラインは県境近くのいの町にある。

article193_01.jpgUFOラインをドライブ。

 なにしろ駐車スペースから徒歩約20分~1時間で標高1700~1896mの頂上なのです。山の自然がほほ笑む快晴の日を選べば、登山が初めての人でも、「宇宙を感じさせる濃い青空」とか、「風の音しか聞こえない」なんていう天界ならではの体験が、不安なく楽しめることでしょう。UFOラインの最寄りの温泉宿「木の香温泉」で今年の初夏まで代表取締役をしていた、そして山に詳しい森憲司さんにお勧めの山を紹介してもらいました。

article193_02.jpg四国の屋根を歩く森憲司さん。「UFOラインがある石鎚山系の森は、広葉樹林に針葉樹が混在しています。秋には、ダケカンバなどの広葉樹が赤や黄に紅葉しているなかに、ウラジロモミなど針葉樹の緑がアクセントになっていて、とてもきれいですよ!」。

■森憲司さん(72歳)プロフィール
 高校時代に山岳部に所属。東京勤務時代は上越国境の谷川岳(1977m)や北アルプスの白馬岳(2932m)などに登る。四国に戻ってからは石鎚山系を中心に登山を楽しむ。

article193_03.jpg石鎚山系の秋。


伊予富士(標高1756m)
天空につき出す雄大な尾根を歩けば、まるで空中散歩!


 森:主な登山口は寒風茶屋(旧寒風山トンネル南口)と伊予富士南面の2ヶ所ですが、伊予富士南面にあるUFOライン沿いの登山口のほうが短時間で登れます。登山口からの標高差は206m、60分ほどで頂上でしょう。それでも、登山が初めての場合、山肌の傾斜のきつさや登山道の状態などで、人によっては少し難易度が高いかもしれません。

article193_04.jpg瓶ヶ森林道から見た伊予富士の東面。伊予富士の南側の登山口は、この東面の向こう側にある。登山口近くには数台の駐車スペースあり。

 森:この山域では、秋遅く11月ぐらいの冷えた朝、瀬戸内海側からの冷たい大気が山肌を越えるときに霧氷が発生します。伊予富士から西の東黒森を見ると、稜線の北側(瀬戸内海側)は雑木が多く、これに霧氷がつきます。そして稜線の南側(いの町側)はクマザサに覆われた山肌です。霧氷の白と笹原の緑のコントラストがとても美しいです。
 これは朝の9時ぐらいまでに登った人へのご褒美です。太陽が高くなると霧氷は消えてしまいますから。

article193_05.jpg運がよければ紅葉と霧氷が同時に見られる。(撮影/YUKA)

★四国の山を案内している登山ガイド・三浦真紀さん(仁淀ブルー通信2016.04.152019.03.08にも登場)からも伊予富士登山の情報をいただきました。

 「UFOライン沿いの登山口からのルートは、今年7月時点でUFOラインに近いところで 一部崩落、補助ロープが張ってあり、初心者には向かない状態でした。全体的に登山道は狭く、斜度が急(滑落する恐れあり)です。ルート上には岩があり、滑りやすい箇所もありますので慎重に」。

article193_06.jpg東黒森から伊予富士(画像中央から右斜め上に見える一番高い山)への稜線。(撮影/三浦真紀)

 というわけで今のところ、伊予富士へは、ジネンゴの頭の東に位置する「ジネンゴ越」の登山口(数台の駐車スペースあり)から東黒森(1735m)を経由するほうがいいようです(ジネンゴ越から伊予富士への標高差は156m、コースタイムは約65分)。
 もしくは、初心者や小さなお子さん連れの場合、東黒森をゴールにするのがいいでしょう。ジネンゴ越から東黒森へは標高差約140m、30分ぐらいです。


ジネンゴの頭(かしら)(別名黒森山)(標高1701m)
金刀比羅宮の石階段(785段)を登るよりも楽! ポツンと天を指す頂上から、ぐるり360度の展望が。

article193_07.jpg東黒森から西を向き、ピラミッドのような姿のジネンゴの頭を望む。ご覧のとおりUFOラインからすぐ登れる山だ。画像の右下隅あたりがジネンゴ越で、数台の駐車スペースあり。ジネンゴ越には東黒森への登山口もある。

 ジネンゴの頭は、四国の屋根で最も上りやすい山の一つ。ジネンゴ越から西に登れば標高差100m、徒歩約20分。気軽だけど達成感のある登山ができます。

 森:登山というより気軽なハイキングレベルですが、眺めは本当にいい山です。UFOラインのふもとの「一の谷やかた」で私が働いているとき、朝日を見たくなったらジネンゴの頭に登ったものです。駐車した場所から山頂まですぐですから。沈む夕日の展望もいいでしょうね。暗くなりすぎる前に下山できるでしょうが、念のためにヘッドランプを持参してください。


瓶ヶ森(かめがもり)(標高1896m)
子供たちが駆けだすのを止められない! 笹原に覆われた、雄大でたおやかな峰。

article193_08.jpg瓶ヶ森の「女山(めやま)」。

 石鎚山系を代表する景観「石鎚山をバックにした笹原と白骨林」は、この瓶ヶ森からの眺め。春から初夏にはイシヅチザクラやツルギミツバツツジなど花が美しい山です。瓶ヶ森の名の由来は、笹原をくだった先にある「瓶壺」。これは岩盤にある直径と深さ約1mの穴で、湧き水で満たされています。

 森:瓶ヶ森駐車場の登山口→氷見二千石原(クマザサの原)→女山→男山(おやま)→登山口と、ループで登山できます。女山が瓶ヶ森の最高地点です。男山のほうは古来より修験道の山で、行者が利用する小屋があります。初心者やお子さん連れは、登山道が明瞭で傾斜の穏やかな「登山口→氷見二千石原→女山」ルートを往復するのがいいでしょう。登山口から女山へは標高差200m、徒歩1時間ぐらいです。

article193_09.jpgクマザサの原とウラジロモミ。

 森:瓶ヶ森はいろいろ魅力があるのですが……クマザサが覆う山肌と、そこに点在するウラジロモミの景観はいいですね。クマザサというのは数十年ごとに枯れてしまうのですが、そのタイミングで落ちた種が発芽し育ったのが、点在するウラジロモミ。クマザサが茂っていると、ウラジロモミは発芽しても、光が届かず、育たない。瓶ヶ森の景観は、クマザサが枯れる、ウラジロモミが育つというサイクルを永らく繰り返してきたことを伝えています。

article193_10.jpg瓶ヶ森の男山付近からの秋。

 森:それから、ガス(霧)で瓶ヶ森が包まれたときもいいです。ウラジロモミは小さな葉が密に集まっている木なのですが、その葉が霧をとらえます。そして霧が晴れるころには、木の根元へと葉から水が落ちていく。自然の生きる力をまざまざと見せつけられます。


★森さんからのアドバイス「気軽な登山、でもこれだけは準備しよう!」
・登山口や登山道の情報は、昭文社の「山と高原地図/56. 石鎚・四国剣山 東赤石山・三嶺」に詳しく記載されている。
・足元は大事。トレッキングシューズがおすすめ。
・服装は長袖長ズボン。
・簡易なものでもいいので雨具。森さんは、「晴れていても、短い登山でも雨具は持つ癖をつけています」とのこと。
・できればヘッドランプはあったほうが安心。
・飲料水も必要。UFOラインの山には飲み水がありません。
・トイレは寒風トンネル南口と瓶ヶ森登山口に。トイレットペーパーは持参したほうが安心です。
・UFOラインへの道は工事が多く、時間通行止めのときも。いの町観光協会のホームページや「道の駅木の香」などで情報収集を。

★登山ツアーもあります。
四国の山を案内している登山ガイド・三浦真紀さんが瓶ヶ森の登山ツアーを予定しています。詳細は「Happy山歩き 四国」へ。

★次回の配信は9月27日予定。
「からだ一つで来ればいい! スノーピークおち仁淀川キャンプフィールドのレンタルキャンプ道具紹介」です。
お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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