2019.06.28野鳥写真家・和田剛一さんと横倉山に野鳥のコンサートを聞きに行く

野鳥好きの密かな愉しみのひとつが「初夏の森のコンサート」。森を歩けばたくさんの野鳥たちの美しい歌声がシャワーのように降り注ぎ、森林浴とコンサートがダブルで楽しめます。今回は仁淀ブルー通信プロデュースで野鳥たちの森のコンサートを写真と動画と音声で楽しんでいただきます。コンサート会場は横倉山山頂の森、案内人は高知在住の野鳥写真家・和田剛一さんです。
標高800m、高知県高岡郡越知町の背後にそびえる横倉山(よこぐらやま)は歴史と伝説の山として知られています。山頂直下にある横倉宮(よこくらぐう)は安徳天皇を祀る歴史のある神社です。安徳天皇は平安末期、源平の戦いに敗れた従臣たちと四国の各地をさまよった末に越知町横倉山にたどり着き、23歳で崩御されたと伝えられる悲劇の天皇です。また、横倉山はその険しい山容から修験の山としても知られ、四国百名山のひとつに数えられ、山歩きを楽しむハイカーや山野草愛好家にも人気の山となっています。



令和元年の10連休GWが終わったころでした。高知市内を流れる久万川の葦原でオオヨシキリの鳴き声らしいものを聞いたので野鳥写真家の和田剛一さんに録音した声を聞いてもらいました。和田剛一さんは高知市土佐山在住。昨年の仁淀ブルー通信で「仁淀川野鳥生活記」というステキな連載をしていただいた世界的に有名な野鳥写真家です。
「間違いなくオオヨシキリですね。昔はうるさいくらいいたけど最近は減ってるなあ」(和田)
「やっぱりそうか。高知に移住して初めてオオヨシキリの声を聞いたけど、なつかしいなあ。ところで、そっちでホトトギスはもう?」(私)「ええ、うちの裏庭で鳴いてますよ」(和田)
「あらら、こっちはまだだなあ」(私)
などという、野鳥好きの間の時候の挨拶みたいなやり取りをしていて突然思いついたのです。
「和田さんと一緒に夏の野鳥の声を聞きに行く」という世界一ぜいたくな仁淀ブルー通信の企画を(笑い)。
「どうですか?この企画、乗りませんか?」と私。「夏の渡り鳥のメンバーはだいたい揃ったころなので、いいですよ」と和田さん快諾。

というような経緯があって6月上旬の晴れた日の午前7時、横倉山山頂直下の駐車場で和田さんと待ち合わせ。広い駐車場に他の車はなく、和田さんの軽自動車がぽつんと停っているだけ。車の中を覗くと、助手席にはカセットコンロの上でお湯が沸いていて、後ろの座席はベッドになっています。ひょっとして和田さん、前の晩からここに泊まりこんでいたのかも。狙い定めた野鳥の写真を撮るために現場で何日も寝泊まりするプロの写真家のライフスタイルがひしと伝わってきます。


助手席で沸かしたお湯でモーニングコーヒーを淹れてもらい7時半過ぎから横倉宮に向かう遊歩道を、ゆっくり足音を立てずに耳だけはダンボにしながら(笑い)登っていきます。
葉が繁る森の中で野鳥の姿を見るのは難しい。だから野鳥好きの夏の愉しみは野鳥の姿を確認することではなくその「さえずり」を聞くこと。つまり野鳥たちの奏でる森のコンサートを鑑賞することなんです。バード・ウォッチングではなくバード・リスニングってわけです。遠くからかすかに聞こえてくる野鳥の声を聞き逃さないよう、緊張しながら歩きます。

和田さんはズームの望遠レンズ付きの一眼レフカメラを首から下げ、高性能録音機・リニアPCMレコーダーを手に持って私の前を歩きます。じつはこのリニアPCMレコーダーにモニター用のイヤホンを繋いで聞くと、遠くのかすかな鳴き声をクリアかつ増幅して聞くことができます。和田さんも私も還暦過ぎて耳も遠くなってきているので、このPCMレコーダーは補聴器代わりになるんです(とほほ)。


しかし幸いなことに、この日の横倉山の森は補聴器が要らないくらい声高な野鳥たちの声に溢れていました。遠くにクロツグミの鳴き声を聞きながら、さらに歩いていくと、アカショウビンの涼やかな歌声のシャワーが。ふだんは早朝か夕方にしか聞けない希少な歌声ですが、この日は日が高くなっても変わらず森の奥から聞こえてきました。
和田さんによると、この日の森のコンサートに参加していた野鳥は他にヒガラ、アオバト、カワラヒワ、コウライウグイス、コジュケイ、リュウキュウサンショウグイ、シジュウカラ、カケス。加えて楽屋からアオゲラがドラミング(キツツキが木の幹をつつく音)で飛び入り参加。一方、いるはずなのに鳴き声が確認できなかった野鳥は、オオルリ、キビタキ、ホトトギス、ミソサザイ。
鳥ではないが森の住人、カンタロウミミズ(シーボルトミミズ)、サワガニ、ヤマアカガエル君もエキストラ出演してくれて早朝の横倉山の森のコンサートは2時間で終了となりました。


横倉山の最終駐車場から整備された遊歩道を横倉宮までゆっくり歩いて1時間ほど。野鳥たちの活動する早朝を狙って出かけ、暑さが厳しくなる昼までに戻ってくる半日コンサートスケジュールがおすすめです。
◆和田剛一さん提供「見えなかった野鳥の姿とその美声カタログ」







★次回の配信は7月12日。
「清流ならではの喜び、ボディーラフティングを楽しもう!」(仮題)です。
お楽しみに!
(仁淀ブルー通信編集長 黒笹慈幾)
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