2019.05.31仁淀ブルーの水に磨かれた美しい魚体を記録する

仁淀ブルーの水に磨かれた美しい魚体を記録する

仁淀川の水を住処に暮らす魚たちの顔ぶれは、季節によって多少入れ替わりがあります。しかし今回紹介するアマゴとカワムツは年間を通して仁淀川に暮らす定住魚(レジデント)。5月から6月にかけて盛んに羽化する水生昆虫を捕食する彼らと遊ぶために、人間が知恵を絞って考え出したのがFF(フライフィッシング)、西洋式毛ばり釣りです。今回は食べるために釣るのではなく、撮るために釣る新しいFFスタイルの提案。題して「キャッチ&イートからキャッチ&ショットへ」。さわやかな五月の仁淀川の渓谷へ、写真と動画と音声でご案内いたします。


 土佐市新居の仁淀川河口から遡ること50km、一大支流の上八川(かみやかわ)川のほとりに集落が点在する、いの町上八川上分地区の標高300mあたりが今回の取材を行った場所です。

article185_01.jpg支流の最源流に近いわりには、穏やかに流れる里川の顔を持つ上八川。

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 このあたりまで来ると上八川川の川幅は狭まり、水量も少なくなってくるので、のんびりと毛ばり竿を振ってアマゴやカワムツと遊ぶにはちょうどいい渓谷の規模になります。ここから上流に向けて5分も車を走らせればもう仁淀川と吉野川の分水嶺、郷ノ峰(ごうのみね)峠に達します。
 と、こう書くとこの場所がかなりの山奥と思われてしまいますが、実際はそれほどではなく、上八川川も里川の渓相をしていて危険な箇所はありませんからご安心ください。チェストハイ・ウエーダー(胸までの長さの長靴)を履いて川通しに上流に向かって歩きながら、竿を振り、毛ばりをポイントに投げていきます。

私がキャスティングしているところを上から撮影してもらった。

 毛ばりは写真のような小さなものでサイズ18番、ブルーダンパラシュートというタイプのものを使いました。この毛ばりはこの時期に水中から羽化して空中に飛び出す水生昆虫(主としてカゲロウ類)をまねて作られたもの。カゲロウ類はこの時期のアマゴやカワムツの主食メニューです。水生昆虫は幼虫のうちは水中の石の表面や砂の中で過ごし、この時期になると繁殖のために変態をして水面から直接空中に飛び出します。魚たちはふだんは流れてくる幼虫を水中で食べていますが、繁殖のために羽化するこの時期は流れに乗って成虫が水面を漂うことも多く、捕食しやすいことから夢中になってエサを食べるので、人間が作った巧妙な偽物(毛ばり)を間違えてくわえてまんまと釣られてしまうことになります。

手持ちのカメラでキャストし終わったラインと毛ばりの動きを撮ったもの。

 ここで私が使っている渓流のFF(フライフィッシング)の道具を紹介しましょう。竿は全長が8フィート3インチ(約2.5m)のカーボン製で4ピース(4本継ぎ)の携帯タイプ。運搬用時はステンレス製の丸いケースに収まります。山岳渓流用のFF専用リールに3番(太さの基準で里川の釣りには3番か4番が適正)のラインを巻いてあります。このリールを竿にセットして渓流に入ります。

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article185_03.jpg4ピースの竿とそのケースとリール。ともに源流向きの軽量バージョン。

 ポイントと思しき水面に毛ばりを投げ、水面に浮いた毛ばりが自然に流れるように操作してやると、騙された魚たちが(笑い)水中から勢いよく飛び出し毛ばりに食いつくというわけです。

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article185_05.jpg毛ばりを収納するフライボックス。見やすいように色のついた素材を巻き込んだパラシュートと、浮力の強いカディスというパターンのものを中心に収めてある。サイズは小さめの16番と18番番のものが多い。
釣り上げられたばかりで何が起きたのかわからずキョトンとしているカワムツ。

おなじく口に毛ばりをくわえて上がってきたアマゴ。

毛ばり釣り師の中には「キャッチ&リリース」といって釣り上げた魚をすぐさま再放流するストイックな人たちもいますが、私はカワムツは放流しますが(美味しくないから)、アマゴは魚籠に放り込んで持ち帰る「キャッチ&イート」派ですね。渓流の女王アマゴの味は捨てがたく、脂ののった塩焼きが頭に浮かぶからです(笑い)。


article185_06.jpgいままでは釣ったアマゴはそのまま胃袋へ、が私のスタイルだったけれど…

 さて。めでたく魚が釣れたら、急いで背中のリュックに入れておいたアクリルの水槽を取り出し、水面から顔を出している石の上に水平に置き、水を入れて魚を泳がせます。最初のうちは暴れますが、しばらくすると動きが落ち着いてくるので、ここからが撮影タイム。アクリルの水槽は通販で購入したもので、下の方に目盛りが刻んであり、魚の飛び出しを防ぐための蓋つき。中で魚が反転できないように奥行きを薄く作ってあります。

article185_07.jpg携帯用のアクリル水槽、大きいものは20cm×4.5cm×14cm(高さ)、小は9.5cm×2cm×7cm(高さ)。共に通販で購入(プロマリンわくわく観察ケースSML3点セット1280円)

 アクリル水槽に釣れたアマゴとカワムツを入れた動画をご覧ください。どうです?5月の渓谷の風景と一体になった水槽とその中を泳ぐ魚の姿、なんとも美しいと思いませんか。動画には仁淀ブルーの沢音とカジカガエルの鳴き声も入っていますので、しばしお楽しみいただければと思います。

★次回の配信は6月14日。
「こんな表情が仁淀川にあったのか!? 秘境感満点の水路を行く」です。
お楽しみに!

(仁淀ブルー通信編集長 黒笹慈幾)
●今回の編集後記はこちら