2019.03.08ステキな女性登山ガイドと仁淀の知られざる名山に登る

ステキな女性登山ガイドと仁淀の知られざる名山に登る

ラフティングやカヌーなど川の案内人は多い四国ですが、プロの「山の案内」は珍しい存在。その一人、しかも女性の登山ガイドが仁淀川流域で暮らしています。彼女が主催する山歩きツアーに参加してきました。

 目指すは、いの町旧吾北村(ごほくむら)にある小式ケ台(こしきがだい・949.8m)。仁淀川の支流・上八川川(かみやかわがわ)沿いの国道から車一台分の細道に入り、くねくねと曲がりながら登った先の集落から歩き始めました。

article177_01.jpg画面左上奥のこんもりとした山が小式ケ台。山頂は稜線の向こうに隠れている。

 それにしてもこの集落、標高はなんと約580m。麓の国道からの標高差は500mぐらいあります。車であれば約15分でたどり着きますが、徒歩の時代にここまで登って来るのはどれだけ苦労したことでしょう。

article177_02.jpg天候によっては雲を下に見る集落から登り始めた。

 しかし、「山奥の集落の暮らしは大変だ」という認識は、正しくもあり、間違ってもいるようです。今回の登山ガイド、三浦真紀さんはこの地域の歴史を話してくれました。
「地元の人に訊いたり調べたりすると、かつては、このあたりの集落は今よりもさらに山の上にあったようです。」

article177_03.jpg山肌に天空の集落が点在する仁淀川流域。

 なんでも、大昔の人々は山並みの尾根を伝ってこの奥地に移り住んだらしい。そして、水の都合や農業のしやすさ、気候の穏やかさなどを求めてでしょうか、だんだんと少し標高の低い場所に降りてきたようです。「麓から遠い」ではなく「麓は、栄えている山上の集落群からは遠い」だったのか……そんなことを考えながら、私たちは小式ケ台を目指しました。

article177_04.jpg登山ガイドの三浦真紀さん。結婚と仁淀川をきっかけにいの町に移住。

 三浦さんはかつて大手アウトドア用品会社に勤めていましたが、14年前、結婚を機にいの町へ移住。その後、日本山岳ガイド協会認定の「登山ガイドⅠ・自然ガイドⅡ」資格(※)を取得し、四国の山々を案内する「Happy山歩き四国」を主宰しています。
 ※一般登山道のある無雪期の山のガイドや、自然、歴史、民俗等を解説する自然ガイドができる資格

article177_05.jpg集落を結ぶ街道を登っていく。

 ところで小式ケ台という山、四国の登山愛好家でも知らない人が多いと思います。登山ガイド本にも掲載されていない低山ですが、かつては親しみ深い山だったようです。小式ケ台の手前の峠までは、永らく使われてきた山の集落を結ぶ街道が残っていて、今回歩いてみても整備された登山道に近い状態でした。

article177_06.jpgこつ然と現れた巨木。そばにはお宮があるので、おそらく人が植えたもの。どれだけ昔の人が植えたのだろう、その人は男なのか女なのか、年齢は、髪型は、服装は、などと空想が膨らんでいく。

 また、峠には祠やお宮がいくつかあります。そのそばにある巨木は、自然に生えたものではなく、神木のようなものとして人が植えたのでしょう。かつてこの山奥には、今よりもずっと賑やかな暮らしがあったようです。

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article177_07_2.jpg小式ケ台への尾根道に点在する祠やお宮。かなり山奥にあるのに、いまでも人が訪れ、祈りを捧げているようだった。

 峠からは尾根伝いに山頂を目指します。植林の伐採期を迎えたのでしょう、山頂までは登山道だけでなく、広い林道も延びています。
「何年か前まで小式ケ台は植林に覆われていたのですが、伐採がすすんだので展望が開けています。再び植林される前の今がチャンスだと思い、ツアーをすることに」と三浦さん。植林が一部残っているので360度の大展望とはいきませんが、山頂の手前付近から眺めると、石鎚山系などよく知られている山並みが新鮮な角度から楽しめました。

article177_08.jpg植林が伐採されたため見晴らしがよくなった小式ケ台山頂。

 ところで、この小式ケ台登山での最大の難所は頂上。そこは広さが小学校の校庭ぐらいの平坦な山頂なので、地形的には簡単に登れるのですが、イバラやタラの木など棘のある植物にすっかり覆われていました。
「森を切り開いたあとは、イバラが繁茂するんですかね」といいながら、三浦さんが手早く剪定バサミを取り出し、ルートを探すために先行しました。さすが、準備がいいなあ。

article177_09.jpg木が伐採されたあとの山肌を守るように、イバラが繁茂していた。

 まもなく、「こっちから行けそうです!」と声が届き、私たちはイバラの棘をよけながら山頂に立ったのでした。

article177_10.jpg小式ケ台山頂。

 山頂はイバラのため気を抜けませんでしたが、それをぐるりと囲む林道には快適に腰を下ろせました。ここで昼食とおやつタイム。みんなでいろんな話をしました。
「山の集落が点在するこの山域ですが、昔は今ほど森に覆われていなかったそうです」と三浦さん。なるほど、薪や炭として木は利用されていたし、農地も必要だし、家の屋根に使う茅(カヤ)を育てておく茅場もあったことでしょう。森を開拓したということは、イバラの原にも悩まされたのでしょうか? 
 私たちはこの登山で、ちょっとだけ昔の山人たちと同じ経験をしたのかも。

article177_11.jpg日常や喧噪から遠く離れて、なんだか自分を取り戻せそう。

 以前の仁淀ブルー通信で紹介した三浦ガイドのツアー「春の本川を楽しむ、森林軌道跡を歩こう」もそうですが、〈山に秘められた歴史に触れてもらう〉というのが三浦ガイドの特徴の一つのようです。山に登るだけでも気持ちいいけど、山を熟知したガイドに歴史や文化、自然の不思議を紐解いてもらえば、なんだかすごく得した気分になれます。深く山を楽しみたい人にはおすすめです。

article177_12.jpgガイドと一緒に山に登れば、自然や登山のことがより深く楽しめる。

 それから、登山を始めたい、または始めたばかりの女性にも、三浦ガイドのツアーはバッチリです。登山の基本や山の自然について教えてもらえるし、なにより同性の登山ガイドゆえの気遣いがあります。
 この取材では、三浦ガイドから「山を見上げて、稜線など山の姿に素敵な『ライン』を発見すると、そこがどんな場所なのか、登って確かめずにはいられないんです」というようなことを耳にしました。つまり彼女、かなり登山の深みにはまっているということ。こういう人と山に登るのは面白いですよ!

■仁淀川流域のランドマーク的存在である横倉山や、四国の屋根・石鎚山系など、三浦ガイドが案内する登山ツアーが3月から目白押しです!詳細は「Happy山歩き四国」へ。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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