2019.02.01<仁淀川野鳥生活記>6 仁淀ブルーに潜って魚を捕るニホンイタチ

<仁淀川野鳥生活記>6 仁淀ブルーに潜って魚を捕るニホンイタチ

この連載のシリーズ名は、「仁淀川野鳥生活記」ということではありますが、ちょっと派生形ということで、素潜り漁をする動物をご紹介したいと思います。高知で魚を捕らえる動物といえばカワウソが有名ですが、残念ながら、もはや目にすることはできません。そこで、カワウソと同じイタチ科のニホンイタチです。わたしの子ども時代(半世紀も昔)には、イタチの毛皮を竹竿の先に縛り付け、岩穴に潜り込ませてウグイやハヤを追い出して、刺し網などで捕らえる漁法が残っていました。こんな遊びをやったのも、わたしなどの世代が最後かもしれません。昔の人間は、自然観察にも長けていて、イタチが魚を捕らえる名人ということを知っていたんですね。



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高知県で見ることができるイタチは、もともといたニホンイタチに加え、日本では対馬だけに天然分布していた大陸系のチョウセンイタチが移入され、現在は2種類です。ニホンイタチは山間部を中心に、チョウセンイタチは市街地や平地を拠点に勢力を広げているようです。2種の見分け方は、頭胴長に対する尾の長さの比率、大雑把に言えばニホンイタチは50%以下、チョウセンイタチは50%以上ということのようですが、個体差もありますので、ほかの識別点も合わせたほうがより正確になります。さて、わたしが撮影したイタチは、山間部での撮影なので、ニホンイタチだろうとは思っていましたが、体長がわかるようにスケールと一緒に撮ってみました。明らかに尾が短いので、ニホンイタチで間違いないですね。

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ついでに体の特徴をもう少し。上の写真は、水中からイタチの足を撮ったものですが、足指の間に小さな水掻きが見えると思います。この水掻きのおかげで、水中を自在に、猛スピードで動けるのです。

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それから、イタチはダックスフントも顔負けの胴長短足です。このため、不審な気配を感じると、立ち上がって周囲を見回すことをよくやります。ただ、視力はあまり良くないように思うので、匂いを探っているのかもしれません。

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イタチの漁を撮ろうと思った時、どうせなら森の中の様子も、雪景色のなかのイタチもと欲張った考えで、標高1,300メートルあたりの仁淀川の源流部で撮影を始めました。照る日も曇る日も、猛吹雪の日も、老骨にむち打って観察を続けたのですが、どうしても水に潜る場面を見ることができませんでした。谷沿いを歩いているし、サワガニやカエルを捕らえた場面は見ることはできましたが、肝心の魚を捕らえてはくれません。

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一年目の冬が終わり、2年目の冬には、大雪の中ブラインドに籠って観察していると、沢沿いにやってきたイタチは、いつも沢から山のほうに斜面を登っていくのです。そこで、やっと場所選びを間違えたことに気づきました。川に潜って魚を捕らえるイタチを何度も見てきたので、イタチは川さえあれば潜るものだと思い込んでいたのですね。源流部の谷は、アメゴは居ないわけじゃあないけれど、イタチが日常的に潜って捕らえるほどはいないのですね。山のイタチは、ヒメネズミやアカネズミなんかを主食にしているのでしょう。こんなことに気づくのに2年もかかって、自分のアホさ加減にがっくりしてしまいました。

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3年目の冬は、安居川に場所を移してまずは観察です。魚がいる川だからといって、どこにでも潜るというわけではなく、潜るポイントを見つけるのが簡単ではありません。それでも、一カ所見つけることができ、やっと撮影開始です。

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イタチが魚を捕らえるイメージは、逃げようとする魚を猛スピードで追いかけて捕らえるものと思っていましたが、撮影が進むうちに、ちょっと違うのではないかと気づきました。上の写真、アメゴを一直線に襲うように見えますが、ほんとはアメゴなど見えてはいないのではないかと思えます。

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イタチは、アメゴにはまったく気づいていないようだし、アメゴのほうも逃げる素振りもありません。何度か、魚と一緒に写った写真をみると、どれも同じようでした。昼間なら、また違ってくるのかもしれませんが。たぶん、イタチは、岩に寄り添って眠っている魚を捕らえているのでしょう。

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川に潜って魚を探すイタチ。川底を、岩に沿うように素早く動きます。潜っている時間は、長くても5、6秒でした。あまり長くは息が続かないのかな。

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穴があれば、奥の方まで入っていきます。イタチの体は柔軟で、狭い穴でも体を折り曲げてUターンできるのです。

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ウグイを捕らえて穴からでてきました。だいたい、首根っこをがっしりくわえることが多いです。捕らえる魚は、ウグイやカワムツなど穴に入って休む魚種がほとんどです。

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ウグイをくわえて、川底を全速力で駆けて帰ってきました。泳ぐのではなく走るのか、とちょっと衝撃でしたけど、泳いで帰ってくることももちろんあります。

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カワムツを捕らえて水から上るイタチ。これは、鏡川で撮ったもの。カワガラス、ニホンイタチと川で暮らす生き物を撮影して思うことは、時に主人公さえ食ってしまうほどの仁淀川自体の存在感ということです。透明な水は、波紋ひとつで様々な表情を見せてくれますし、透明なはずの水が、折り重なることで奥深い色合いを展開してくれます。くわえて、川底の小石、青、赤、ピンク、紫、緑と多様な色合いをしており、写真に彩りを添えてくれます。写真を撮るものにとっては、とても魅力的な川ですね。

(野鳥写真家 和田剛一)
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