2019.01.04土佐寿司の本と田村カブ

土佐寿司の本と田村カブ

 高知の老舗書店・金高堂のベストセラーランキングで4週連続1位をキープ(12月7日現在)している書籍があります。『土佐寿司の本』松﨑淳子・著(飛鳥出版室)だ。土佐寿司ってどんなお寿司? 松﨑淳子さんってどんな人?仁淀川生まれの土佐寿司はあるの? 好奇心がムズムズと湧いてきた。この本の編集に携わった高知在住のフリー編集者、松田雅子さんに話を聞きました。


article168_01.jpg第7回郷土野菜を楽しむ会が「土佐料理 司 高知本店」に作ってもらった豪華な土佐田舎寿司盛り。上から左回りに、潮江菜、ミョウガ、田村カブ、四方竹、金糸巻き、海苔巻き、こんにゃく、入河内大根あじめ胡椒漬け、シイタケ。まさに田舎寿司の皿鉢。(撮影/門田幹也、写真提供/土佐学協会)

 11月5日に初版2000部でスタート、半月余りで1000部の増刷とは景気がいい。元編集者としてにわかに好奇心が湧いてきたぞ。まずは今年の2月3日付け高知新聞の記事。
<おいしいと評判のサバ寿司がある。どこかの店で食べられる味ではなく、土佐の郷土食が専門の高知県立大学名誉教授、松﨑淳子さん(91)の手作り。「食べたい」という人が引きも切らないこともあって、土佐の食文化を研究する土佐学協会が「土佐のお寿司の本」として書籍化することにした>
 どうやら松﨑さんのおいしい寿司が食べたい人たちが企画した「食いしん坊本」のようです(失礼!)。
 土佐学協会は2006年、土佐に生きる人、土佐に心を寄せる人に喜びや希望、活力を与える知や技を調査研究し、土佐学を創出するとともにその成果を教育に活かすことを目的に設立された組織。理事長は司牡丹の竹村昭彦社長、松田雅子さんはそのメンバーのひとり。

article168_02.jpg松﨑淳子さん。笑顔が素敵なスーパーおばあちゃんです(撮影/門田幹也)

 著者の松﨑淳子さん(現在92歳!)にはまだお会いしたことはないですが、高知県立大学名誉教授のほかにも土佐伝統食研究会代表、土佐学協会副会長などたくさんの肩書を持つ「土佐伝統料理の生き字引き」的存在(竹村社長)らしい。

article168_03.jpg松﨑流サバ寿司の詳細なレシピも収録されている。サバが釣れた時は私も松﨑流でサバ寿司を作ってみようと思います。

 さて。おいしいと評判の松﨑淳子さんのサバ寿司は『土佐寿司の本』の表紙を飾ると同時に本の中でも松﨑流の詳細な写真入りサバ寿司レシピが展開されている。脂が乗ったサバを柚子酢で締めたものに柚子酢を利かせ、生姜のみじん切りをたっぷり混ぜ込んだ寿司飯を合わせてある。残念ながら私はまだ食べたことがないが、見ているだけで生唾が出てきます。土佐学協会が松﨑流サバ寿司の本を出したくなった気持ち、わかります。
 おっと。ここまで書いてきてこれが仁淀ブルー通信の原稿であることに気が付きました。なんとか仁淀ブルーネタにしないといけない。さて、どうしよう?
 仁淀川流域の山間部でも塩蔵したサバを使ってサバ寿司は作られていたようだが、それだけでは新年最初のおめでたい仁淀ブルー通信の記事としては物足りない。
 “ダメもと”で編集の松田さんに「仁淀川生まれの寿司はありませんか」と聞いてみると、「田村カブを使った田舎寿司がありますよ」と教えてくれた。

article168_04.jpg田村カブは仁淀川町の伝統野菜。特徴のある姿をしている。(撮影/大村嘉正)

 よし! それならば仁淀ブルーの記事になる。田村カブは仁淀川町の山里で江戸時代から栽培されてきた伝統野菜です。2017年12月22日配信の仁淀ブルー通信で生産者の金尾大蔵さんを取り上げたことがあるので覚えている方もいるだろう。

article168_05.jpg田村カブの田舎寿司。(撮影/門田幹也)

 田村カブを使った田舎寿司は特徴のある淡い紫色がほんのり残る清楚でかわいらしい姿をしています。貴重な仁淀川流域の食文化が息づく田村カブの田舎寿司、何とか生き残ってほしいものです。参考までに、田村カブの酢の物の作り方を記録した映像があるのでご覧ください。

 なお、田村蕪については、仁淀川町の伝統野菜である田村蕪を次世代へ継承し、仁淀川町をはじめとする仁淀川流域の農産業を活性化する取り組み「田村蕪式会社プロジェクト」があります。

 仁淀川流域には、ほかにもアユの姿寿司やアメゴの姿寿司が残っている。

article168_06.jpgアユの姿寿司。(写真提供/南の風社)

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article168_08.jpg高知の寿司の全リスト(土佐伝統食研究会『土佐の食卓』より)。高知は寿司文化の宝庫だということがここからもわかる。

 仁淀川流域の貴重な食文化のひとつとして、あるいは貴重な観光資源としてこれらの寿司を残し、後世に伝えていく必要がある。土佐寿司の本の作者、松﨑淳子さんにはもっともっと長生きしてご活躍いただきたいと思います。

(仁淀ブルー通信編集長 黒笹慈幾)
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