2018.08.31流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 土佐市編
仁淀川が海と出会う土佐市。漁業も農業も盛んで、製紙など製造業についても技術力のある企業に恵まれた自治体です。まもなく観光協会ができるなど、仁淀ブルー観光への機運も上昇中。自らも体験型観光に参加しようという市長にビジョンを語ってもらいました。
第4回 土佐市長 板原啓文さん
地域の自力をアレンジして、仁淀川と共に
仁淀ブルー通信編集長・黒笹(以下黒笹):今日は仁淀川の河口にやってきました。太平洋の眺めが雄大なカフェ(ニールマーレ)に、土佐市長の板原啓文さんをお迎えしています。
土佐市長・板原啓文さん(以下板原):波があまりないせいか、今日はサーファーたちが海にいませんね。
黒笹:かつてこのあたりはサーファーが集うくらいの、こじんまりとしたエリアだったと思うんですけど、このカフェが入っている「南風(まぜ)」という観光施設と、津波対策で避難タワーができました。国道を挟んだ北側には、今年6月にリニューアルオープンした新居緑地公園があるなど、幅広い年齢層の人たちが楽しめるようになっています。
板原:新居緑地公園には大型遊具をいくつか新設しまして、なかでも「ふわふわドーム(トランポリンのように跳ねて遊べる丘)」が評判です。
黒笹:ここは仁淀川が海と出会う場所の施設ということで、仁淀川流域観光において重要な役割を担えると思うのですが。
板原:「ここから始まる仁淀川」みたいな。
黒笹:そういうキャンペーンをやってるんですか?
板原:いや、やってないですけど(笑)。このごろ、海外からのクルーズ船が高知新港に入港することがあります。高知新港から仁淀川河口って、車で15~20分ぐらいの距離じゃないですか。だから彼らにぜひ仁淀川河口へ来てもらいたいと思ってます。
黒笹:どうせなら、クルーズ船から乗り換えてもらって、別の船で仁淀川河口を訪れてもらうのはどうでしょう。運が良ければ、船旅の途中でクジラに遭遇するとか。
板原:ああ、いいですね!この河口からもうちょっと西へ海を行けば天然記念物の海岸があるんですよ。メランジュという珍しい地層で、漁船クルーズでの観光コースにもなっています。
ドラゴン広場でのグルメと買い物を、仁淀ブルー観光に
黒笹:土佐市街には観光拠点としてドラゴン広場がありますけど、仁淀ブルー観光にあまり活用されていないと私は感じています。情報発信が足りないというか。もっといろんなことができるはずなんですが、どうでしょう。
板原:ドラゴン広場ですが、かつてそこにはスーパーマーケットがあったんです。それが移転したあと、商工会がメインとなって地域の活性化に使い始めたんですね。
黒笹:土佐市には「仁淀川河口の町」という顔があるのですから、仁淀川と結びつけるようなイメージをドラゴン広場にもっと付与すればいいんじゃないでしょうか。 仁淀ブルー観光といっても、いまのところ定番なのはラフティングやカヌーなど体験型です。でも、観光旅行ってお土産がつきものですよね。「仁淀川に行ったら必ずこれを買って帰ろう」みたいなものが、実はこの流域にはあまりない。そういうものを意図的に作り、それがドラゴン広場には必ずある、となればいいんじゃないですかね。
板原:そういう仕組みを作らなければと思ってます。グッズなり土産物は欲しいですね、本当に。
黒笹:今の観光ってやっぱり食ですよね。そして「行ってきたよ」っていうお土産。鉄板ものがあると強いですよ。
来年、高知県では体験型観光が熱い
板原:土佐市には観光協会がなかったのですが、今年の9月、ついに立ち上がります。高知県の来年のイベントは自然体験がテーマの一つ。土佐市のポテンシャルは高いし、土佐市観光協会が中心になっていい流れを作ってもらえればと思ってます。
黒笹:ここ数年で注目されてきたSUP(スタンドアップパドルボード)ですが、仁淀川河口でも盛んだと聞きます。
板原:大会も開催しています。今年で3回目になるんですが、毎回100人ぐらい参加しています。
黒笹:SUPがはやる以前から、ここはサーファーが多い海です。仁淀川河口は、宣伝しなくても全国からサーファーが集まってくるような聖地ですが、土佐市としてはサーフィンを観光的にとらえようとしたことはあったんでしょうか。
板原:たぶん3、4年前の話ですが、世界大会をここでやりたいというのがありました。しかし、いろいろあって立ち消えに。
黒笹: サーフィンをもうちょっとうまく観光に使えないでしょうか。徳島県などは結構うまく利用していますよね。 昨年、徳島県の吉野川ではラフティングの世界大会がありましたが、そのおかげで吉野川=世界レベルのラフティングの川という認知が広がったと思います。 もしここで世界大会ができていれば状況はもっと変わっていたかもしれません。東洋町の生見海岸ではサーフィンの世界選手権をすでに実現しています。ところでSUPのようなウォータースポーツ系について、土佐市は観光的に何かやっていこうというと考えていますか。
板原:大会などに補助をするというような関わり方ですね。土佐市観光協会ができれば、体験型観光についても取り組んでいくと思います。
黒笹:体験型観光といえば、今年の6月に開催されたサイクリングイベント「仁淀ブルーライド」は好評でした。
板原:仁淀ブルーライドでは、私はちょっと喋りすぎまして、次回は参加しないといけなくなりました(笑)。70㎞コースに。
黒笹:日常では絶対に走らない距離ですよね(笑)。あの仁淀ブルーライドでは、エイドステーション(補給・休憩スポット)が話題になりました。6市町村それぞれに参加サイクリストをもてなしたのですが、参加者にアンケートしたところ、佐川町のエイドステーションが一番人気でした。佐川といえば酒蔵の町。到着したサイクリストに、桝(マス)になみなみと注いだお酒の仕込み水を差し出したんだそうです。サイクリストたちは、「え~お酒!?、なんだ仕込み水か、おいしいなあ!」と盛り上がったとか。佐川町長の堀見さんはそのことを自慢げに話してましよ(笑)。
板原:いの町の池田町長は、仁淀ブルーライドに備えてかっこいい自転車を買ったみたいです。ところが急用で参加できなくなって、自転車をお披露目するだけになったみたいですが(笑い)。来年は参加するって張り切ってますよ。
黒笹:仁淀ブルーライドは観光としてすごくインパクトがあるので、これから大きく育つ可能性があります。自動車に出会わずにきれいな仁淀川の景色を見ながら走れるコース設定も素晴らしい。ひょっとすると流域観光の花形になるかも。せっかくだから仁淀川流域の首長みんなが自転車で参加する流れになると面白いですね。
板原:私は自慢のママチャリでいこうと思います。 あえて差別化で。
黒笹:そういえばママチャリって、選挙運動で乗ってる人がけっこういますよね。政治家だから乗り慣れてたりして(笑) 。
板原:はい。図星です(笑い)。
懐の広い地域の、草刈り首長
黒笹:土佐市といえば海産物も農産物も豊富ですか、そういうものが揃っているお店というのはあるんですか。
板原:民間なのですが、「地のもん市場ハレタ」があります。地元の野菜や果物、加工品やお菓子などを売ってます。魚関係の加工品があるのはここ「南風」ですかね。このあたり海の名産であるウルメイワシのオイルサーディンなどが人気です。
黒笹:土佐市はいろんな産物があるから、攻めどころがたくさんです。気軽に買えるものから、土佐文旦など、贈答にも最適な高級品もある。
板原:じつは、私の家は文旦農家なんですよ。
黒笹:そうなんですか!私も山北でみかん園をやったことがあるんです。1年だけですが、4反の畑を借りて友達と2人で。温州と文旦、小夏もありました。草刈りだけで体中の水分を全部飛ばして、春になったらヘロヘロになりました。そしたら畑を貸してくれた人が「あんたたちを見てると危なっかしくていけないから、もう貸さない」と落第しちゃいましたけど(笑)。もっとやりたかったなあ。
板原:大変さはよくわかります(笑)。私の場合ですが、朝早く起きて、文旦畑の山で1時間ぐらい草刈りして、役場に行くというのが夏の朝の日課です。
黒笹:信じられないくらい草はどんどん伸びますもんね。
板原:うちは段々畑でして、上から下まで草刈りしたころには上の段の草がもう伸びています。私の手の平には草刈のタコがあります。
黒笹:僕が草刈りで大変な目に会ったのは1年だけでしたが、だんだんと草刈りに目覚めまして、その後しばらくは、道端に草があると刈りたくてしょうがなくなりました(笑)。
板原:なんだか達成感がありますしね(笑)。
黒笹:草刈りを観光に使えないですかね(笑)。都会では滅多にできない体験だからハマる人がいるかも。土佐市に来て農地で草刈りをすると、次の年の早春には文旦が届くとかはどうですかね。
板原:なるほど。草刈りが観光にねえ…。にわかには信じがたい(笑い)。お酒をおおいに楽しむと翌朝は少々辛いんですが、それでも午前5時ぐらいに起きます。そして8時前には役場に出勤です。
黒笹:早起きしてまず畑で草刈りというのは、都会の首長さんにはない話ですよね。
板原:じつは、前夜のアルコールを抜くためにやってます(笑)。
黒笹:そういえば土佐市には刺身などが美味しい居酒屋さんがありますよね。お遍路したときに立ち寄った、なんかゴツゴツした名前の…。
板原:「がしら亭」ですか?
黒笹:そうそう。土佐市はお酒飲みには楽しい街ですね。「亀泉」という、東京でも知られる人気の酒蔵もあります。
板原:そしてですね、いまは高知市にある「酔鯨」が、もうすぐ土佐市に移って来るんですよ。
黒笹:銘酒の里でもあるわけですね、土佐市はまったく懐が広いですね。仁淀川観光にきたら、ぜひ立ち寄って、地元の産品に出会ってほしい町です。今日はインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。板原市長が来年の仁淀ブルーライドにママチャリで参加するときには、ぜひ取材したいと思います(笑)。
(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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