2018.08.17流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 日高村編

流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 日高村編

屋形船や『水上たたみ走り大会』など、ここ数年で仁淀川を舞台にいろんなことを始めた日高村。仁淀川流域には伸びしろありという村長に、これからのビジョンを話してもらいました。


第3回 日高村村長 戸梶眞幸さん
仁淀川とのかかわりを深めて、村の暮らしを未来につなぐ

仁淀ブルー通信編集長・黒笹慈幾(以下黒笹):今回はなんと仁淀川の屋形船からお届けします。仕事なんですけど、顔がニヤけるのを止められません。

日高村長・戸梶眞幸さん(以下戸梶):すごく暑い1日になりそうで、どうなることかと思っていたんですが、川面に出ると涼しいですね。

黒笹:これまでの首長インタビューで登場した越知町長の小田さん佐川町長の堀見さんは、キャンプやカヌーを通じてプライベートでも仁淀川にかかわっていますが、日高村と仁淀川の関係ってどうなんですか?

戸梶:日高村は、日下村と能津村、加茂村の一部が昔(1954年)に合併して誕生したのですが、現在JRや役場など村の中心機能がある旧日下村地区は、江尻という集落の短い区間でしか仁淀川に接していないんです。そういうこともあって、日高村の観光といえばゴルフぐらいという時代が最近まで続いていました。

article148_01.jpg日高村村長・戸梶眞幸さん。

黒笹:自分たちとかかわりのある川という意識が低かったんですね。

戸梶:しかし、能津地区(旧能津村)にこの「屋形船仁淀川」ができて、川との親近感は増してきたと思います。屋形船仁淀川がある川辺では、毎年夏には「世界水上たたみ走り大会in仁淀川」がひらかれるようになり、こちらも好評です。同じ日の「仁淀川の能津花火大会」では、都会の花火大会では考えられないくらい近くで、ほぼ真上に花火をながめられます。

黒笹:江尻集落では、仁淀川の河畔に親水公園も整備されていますね。

戸梶:今年の夏、その江尻に、小さな集落の暮らしを体験できる「POP UP INN(ポップアップイン)」というキャンプ施設ができました。うちの地域おこし協力隊の小野が関わっているのですが、田舎のいろんなことに参加できるようなことをやっています。畑から野菜を収穫してバーベキューするとか、村民に弟子入りして川漁体験するとか。

黒笹:仁淀川や地域に寄り添う新しいことが始まっているんですね。

戸梶:SUPツアーをしている方も江尻に一軒家を借りたようで、川下りの中継基地として利用するみたいです。

article148_02.jpgSUP(サップ)とはこのような乗り物。大型のサーフボードみたいなものの上に立って、シングルパドル(水かきが一つだけの櫂)で漕いで進みます。

仁淀川のポテンシャルを活かし、新たな経済の回転を

黒笹:キャンプ場以外の宿泊施設はどうですか?

戸梶:それが日高村にはないんですよ。屋形船仁淀川のとなりに集落活動センター(注)を作りたいと私は願っていて、そこを宿泊施設にすればいいんじゃないかと。

[注:集落活動センター/地域住民が主体となり、旧小学校や集会所などを拠点に、地域の課題やニーズに応じて様々な活動をする。観光物産館や、地域食材を活用した食堂、ジビエ肉活用施設など、集落の存続を目指した事業が行われている。高知県ならではの取り組み。]

黒笹:屋形船仁淀川のそばなら、川の眺めのよい宿泊施設になりそうですね。

戸梶:本業ではないけれど、この地域には川漁師がいます。集落活動センターをつくり、そこで川魚やイノシシ肉を加工し、商品として村外や観光客に提供できるようになれば、地域で小さな経済が回っていきます。そして誰かが起業できれば、多くの住民が関わるようになり、地元に残る人も増えるのではと思うんです。

黒笹:地域の自然や幸を利用した6次産業化ですよね。

article148_03.jpg対談の場としても、屋形船は面白いスペースです。

戸梶:話は変わるんですが、先日、アユと鵜飼いで有名な長良川(岐阜県)を視察して、本当に美味しいアユに出会いました。そこはアユ料理専門店で、焼き方など調理のレベルが、私が知っているものとは全然違っていました。尻尾の先から頭まで美味しかった。それから山や川の幸の加工品も多かった。自然の恵みを最大限生かしていました。

黒笹:この川は数年前から「仁淀ブルー」ということで注目されているのですが、「じゃあ、仁淀ブルーってなに?」となったときに、具体的に触れるもの、体感できるものが重要なんです。こうやって屋形船から外に手を伸ばして、仁淀川の涼やかな流れに触れるようなことが。体感としては食も鉄板。仁淀川の場合はやはりアユで、美しい川だからアユそのものが素材として素晴らしい。それを活かさない手はないですよね。

article148_04.jpg屋形船から手を伸ばせば、透明な水流が指をすり抜けていきます。

戸梶:アユもエビもウナギもある。集落活動センターができて、そこで川の幸を丁寧に調理、加工して提供すれば……。

黒笹:越知の小田町長も同じことを言ってました。川辺なのに、仁淀川で獲れるものをいつどんなときでも同じ値段で食べられる場所がないと。

戸梶:この地域にはまだ元気なお母さんたちがたくさんいます。でも10年先はわからない。それまでに、小遣い程度でもいいので、地元にお金が落ちて、お金が回る仕組みを作りたいんです。

定住人口だけでなく、関係人口にも目を向ける

黒笹:日高村の人口はどれくらいですか?

戸梶:平成27年国勢調査では5030人。年間で80人ぐらい減っています。ある程度の人口規模は自治体運営の基礎みたいなものですから、人口を保つ、増やすことは大事です。

黒笹:首長さんの願いとしては理解できるんです。でも、日本全国で人口減ですから、日高村だけ減らさないというのはなかなか難しいと思うんですよね。なので、定住人口だけでなく関係人口(注)も増やすという発想があってもいいのではないかと思うんです。関係人口も0.5掛けぐらいで定住人口に入れてもいいんじゃないかと(笑)

[注:関係人口/出身地である、仕事をしている・していた、自分や両親が育ったなど、人生においてその地域と関係を持つ人の数。]

戸梶:なるほど。

黒笹:関係人口って地産外商の担い手になりますし、場合によっては、いざというときに最初に駆けつけてくれる人になるわけです。関係人口の増加を意識してやるというのは、地域の将来にじわじわと効いてくると思うんですよね。

戸梶シュガートマトの産地ということで、日高村の産業は農業が主だと思われているんですけど、芋けんぴや紙などの製造業も多い。村内の雇用は役場をのけると600人ぐらいですが、4分の3は村外から通っているんですね。そういう人たちの中から、例えば子育て世代などが日高村に移住してくれるような取り組みが必要だとは思っています。

article148_05.jpgとんでもなく薄い紙を漉く会社が、日高村にはあります。
article148_06.jpg忍者伝説の残る洞窟も日高村にはあります。

article148_07.jpgほどよい田舎の日高村にはいろんな魅力が。サイクリングで巡るのもお勧めです。
article148_08.jpgオムライス街道も、あいかわらず人気です。

黒笹:逆に、高知市街から車で30分ぐらいと近いので、日高村に移住して、企業の多い高知市で働くというのもありです。ほどよい田舎感が売りになる。高知に近いけど村だよと。移住といえば、日高村の地域おこし協力隊のことも聞かせてください。仁淀ブルー通信(2018.03.16配信記事)では埼玉県から日高村へ移住した大野宏子さんを取材させてもらいましたが……。

戸梶:いま、協力隊は5人おるんですけど、1人が3年の任期を待たずに鍼灸の仕事で独立します。

黒笹:それはいいですね。

戸梶:川の恵みを生かすとか、名産のトマトを加工の分野でもっと活用するとか、まだまだ余地がたくさんある村だと思うんですが、なかなか移住に踏み切ってくれる方は出てこないですね。

article148_09.jpg対談後は、屋形船仁淀川で霧山茶をいただきました。日高村は銘茶の産地なのです。

ゴルフファンも仁淀川ファンに

黒笹:日高村にはゴルフ場が2つありますが、小さな村なのに珍しいですよね。それも、あっちの山とこっちの山みたいに、けっこう近い距離にあります。

戸梶:それぞれ、芝生の質も、コース設計も全然違うゴルフ場です。

黒笹:共通のクラブハウスというか、宿泊施設があれば、日高村を訪れたゴルファーは2倍楽しめますよね。

戸梶:集落活動センターを作って、宿泊できるようになればいいのですが。

黒笹:そうすれば、ゴルファーに仁淀川観光のアピールもできますね。ところで、日高村はオムライス街道で盛り上がってますが、日高村の仁淀川沿いにはオムライス食べるところがないんですよ。

戸梶:オムライスどころか、日高村の仁淀川には食事処がないんです……

黒笹:オムライス街道、仁淀川にも進出できないですかね。

戸梶:それも能津地区に集落活動センターを作れば可能だと思います。仁淀川に面したこの能津地区がブレイクすれば、日高村全体にいい影響があると思うんですが。

黒笹:来年は、高知県をあげて、自然や地域の文化・暮らしを活用した体験型観光に力を入れることになっています。集落活動センターの話を前に進めるには、いいタイミングじゃないでしょうか。

戸梶:なんにせよ地元の盛り上がりが大切。みんな何とかはしたいんです。それぞれの想いの方向性をいかに一つにしていくのかを考えながら、これからも村の行政に取り組んでいくつもりです。

article148_10.jpg仁淀川のおかげか、終始リラックスしたインタビューが出来ました。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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