2018.06.01流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 越知町編

流域6市町村トップ・インタビュー「仁淀川と私たちの町」 越知町編

仁淀川流域6市町村の首長に、仁淀ブルー通信編集長が会いに行きます。
この、美しい清流に恵まれた地域で、首長たちはどんなビジョンを描いているのでしょう?
第1回は、この春に誕生した新キャンプ場『スノーピークおち仁淀川』が注目されている越知町へ。

第1回 越知町長 小田保行さん
地域の財産となるキャンプ場に

仁淀ブルー通信編集長・黒笹慈幾(以下黒笹):越知町念願の新キャンプ場『スノーピークおち仁淀川』がこの春完成しました。町長一期目で取り組むにはじつに大きな仕事で、いろいろ大変だったでしょうね。

越知町長・小田保行(以下小田):住民からは、越知町が旅行者にとって滞在型の地域になるような仕組みを作ってほしいという要望があがっていました。私はそれを公約にしていたわけですが、今の時代、特徴のあることをしないといけないと思っていました。越知町では、魅力といえばやはり仁淀川ですよね。それを活用した、何かいい『かたち』がないかなと思っていたところ、たまたまスノーピーク社との出会いがあり、この清流を臨む滞在型の観光拠点へとつながっていきました。タイミングが良かったと思います。

黒笹:高知県の人がやる仕事にしては(笑)、驚異的なスピードでできましたよね。3年でここまで来るなんて(笑)。

小田:全然それは意識してないですけど(笑)、ずっと行政のなかで生きてきたので、スピード感を持って住民に応えることは心にありましたし、言ってきました。なんというか、時代の空気というか、「自然を求める都市部の人たちに、田舎としていい空間を提供」ということができる時期だったのかなと思います。

article137_01.jpgこの日はあいにくの天気でしたが、軒の長い管理棟のウッドデッキのおかげで、雨空を楽しめました。

黒笹:このキャンプ場が実際に姿をあらわしたとき、僕がイメージしていた以上の存在感があるなと思いました。ここも一応『箱物』で、箱物といえばなにかと批判されたりしますが、高知県みたいに良好な自然を持っている地域にとって、キャンプ場というのは非常に親和性の高い箱物です。

小田:ここはもともと荒れたミカン畑と雑木林でした。それが「いいね!」という場所に生まれ変わった。先だっては、町の若いお母さんがここでかき氷屋をやってくれました。そんなふうに、いかにこのキャンプ場を町の人に使ってもらうか、認知してもらうかが課題で、この一年で取り組んでいかなければと思っています。

黒笹:そうですね、お客さんの施設でありながら、地域の人の共有財産でもある。キャンプ場が完成しました、では次はというと、どうやって地域の人に使いこなしてもらうかですよね。
ところで、このキャンプ場を訪れるたびに、”人間の作るものの美しさ”と、”自然の美しさ”はマッチするんだなという想いを僕は強くするんです。きれいな人工物と、素敵な自然とが、それぞれ互いを磨きあげたような美しさがここにはあります。このような場を作り上げる苦労はいろいろあったでしょうね。

article137_02.jpg仁淀川の自然を、より心地よいものにしてくれるキャンプ場です。

小田:町の職員は大変だったと思います。短い時間でオープンまで運ぶという難しさがありました。いろいろ不測の事態も起こったわけですし。
僕自身の不安は、職員たちが、事業に関われる楽しさや主体的になることでのおもしろさを感じ、そういう気持ちを持って仕事をしてもらえるかどうかでした

黒笹:やらされている感にならないように、ということですね。

小田:たまたま自分は担当になった、だからやってます、みたいな感じが一番よくないと思っていましたので。でも、そうはならなくて、自分のこととしてそれぞれの職員たちが取り組んでくれました。それはよかったし、感謝しています。こういった事業を担うことで、職員の一人一人も人間として成長できたのではないでしょうか。

黒笹:このキャンプ場のオープニングセレモニー(4月22日)のあと、越知町役場の人たちがここで『お疲れさま会』みたいなのをしていましたよね。わいわい楽しんでいるなかに、達成感みたいなものが見えました。それが役場の人っぽくなくて(笑)。

小田:ええ、ええ(笑)。

黒笹:僕がいた出版界でいうと、新雑誌を無事創刊したときの打ち上げみたいでした。このキャンプ場プロジェクトは、彼らのなかに何らかの資源を残したんだろうなと、僕は感じました。
役場の仕事って、こういった非日常というか、不連続なことって、なかなかおきないですよね。普通は日々繰り返しって言ったらおかしいけど、自分の担当範囲として決まった仕事をこなしていく、というのが役場の仕事というイメージです。

小田:このキャンプ場のプロジェクトは、役所を横断的につながないとできないことでした。例えば、キャンプ場は観光施設というだけではないし、これからの使いこなしを考えると、教育の分野にも関係します。

黒笹:みんなのプロジェクトになるだけのポテンシャルがあるのだと思います。

article137_03.jpgこの日はお隣の佐川町からも町長夫妻を招いて野外パーティーでした。

越知町では、軽トラでキャンプ場へ、がスタイルに!?

黒笹:スノーピークおち仁淀川はオープンして2週間ですけど、小田さんは泊まるのは初めてですか?

小田:2回目です。1回目は住箱に泊まりました。テントで泊まるのは今日が初です。

article137_04.jpg小田夫妻と、自慢のスノーピーク製キャンプ道具。

黒笹:今日も軽トラでやってきましたか?

小田:もちろん、軽トラです。

黒笹:おととしだったかな、小田さんが宮の前公園(越知町市街に隣接の無料キャンプサイト。秋のコスモス祭りが有名)でテントを張ったとき、軽トラにスノーピークのキャンプ道具を満載してきましたよね。僕は、面白いなあと思ったんです。釣りなど自然相手の遊びをずっと楽しんできたし、アウトドア雑誌の編集長もしていた僕ですが、軽トラでキャンプに来るスノーピーカー(スノーピークを愛用するキャンパー)ってそれまで見たことがなかった。

article137_05.jpg軽トラのスノーピーカー、小田町長。

小田:うちの職員にもスノーピーカーがいまして、彼女は黒塗りの軽トラを買いました。スノーピークのステッカーを貼ったりしてますよ。たぶん黒笹さんが、「軽トラでキャンプするのは珍しい」という話をしたからですよ。

黒笹:これだと思っちゃったんだ

小田:彼女、やるなーと思いました。あれでスノーピークの本社(新潟県三条市)に乗り込んだら面白いですよね。軽トラで新潟まで行くのは大変ですが(笑)。

黒笹:スノーピーカーとしての小田さんから、このキャンプ場を訪れる人にアドバイスをお願いします。

小田:国道33号からキャンプ場を目指してほしいです。高知方面からの仁淀川沿いの道路を利用すると、行き違いの難しい狭小箇所があります。狭い道に慣れていない人にはおすすめできないです。

黒笹:国道33号だと越知市街を経由するので、キャンプの食材の買い出しもにも便利ですよね。

小田:地元の野菜や焼き肉のタレは『おち駅(観光物産館)』で買えます。その隣は肉屋ですし、スーパーも昭和レトロな商店街もすぐ近所です。キャンプ場の近くですと、少し上流に行った鎌井田(かまいだ)集落には昔ながらの雑貨屋があり、ちょっとした日用品を売っています。

article137_06.jpg浅尾沈下橋の向こうにあるのが鎌井田集落。

黒笹:鎌井田って、川辺にある雰囲気のいい田舎の集落なんだよね。映画のロケ地にもなった浅尾の沈下橋もあるし、ぜひ訪れてほしいですね。してほしいといえば、個人的には、『麺や倉橋』の汁なし担々麺をこのキャンプ場まで出前してほしい(笑)。それから、週末はここに軽トラが野菜を売りに来るとか、キャンパーの食材をあつかうマルシェみたいなものがあればいいなあ。

小田:いや、実は、このキャンプ場の少し下流に住んでいる、越知町地域おこし協力隊の卒業生が有機野菜を作っていまして、『あまがえる農園』というのですけど、注文があればキャンプ場に持ってくる、というのはできるようです。というか野菜を売りに来たいらしい。

黒笹:地元の野菜や薪などをキャンプ場に供給できるようになれば、地域にお金が落ちますよね。すると町民の理解も深まる。キャンプ場はお客さんだけの物じゃない、となる。

小田:野菜の行商にくるとか、マルシェ的なことなど、「にぎやかしはウエルカム」なのがこのキャンプ場、『スノーピークおち仁淀川』です。

黒笹:キャンプ場も、越知町も、これからどんどん面白いことになりそうですね。今日はインタビューにおつき合いいただき、ありがとうございました。

越知町ホームページ
スノーピークおち仁淀川

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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