2018.04.27新連載! <仁淀川野鳥生活記>1 小さなミソサザイのパワーあふれるさえずり

新連載! <仁淀川野鳥生活記>1 小さなミソサザイのパワーあふれるさえずり

今回から、仁淀川流域の野鳥や動物を紹介することになりました高知県在住の写真家・和田剛一です。地域への貢献とか経済的に役に立つようなことではないけれど、こころはいくらか楽しく、豊かになるようにという思いで続けていこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
さて、第一回、仁淀ブルーに映える野鳥は、カワセミやツバメや、いろいろいるとは思いますが、まずは春一番の元気者ミソサザイをご紹介したいと思います。


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 ミソサザイは、大人の親指に尾羽をつけたくらいの、日本の野鳥の中では、もっとも小さい野鳥のひとつです。しかし、小さいからと侮ってはいけません。写真は、絶好調でさえずっているミソサザイの典型的な姿ですが、尾羽をぴんと立ててリズミカルに振りながら、大きく開けた口から繰り出す流麗な歌声は、声量豊かで仁淀川の瀬音をも圧倒する勢いです。

 ミソサザイは、大きな仁淀川が「谷」と呼ばれているあたり、源流部の森にすんでいます。どこの谷筋にも普通にいるのですが、小さい上に色も地味な茶色なので、あまり目立ちません。しかし、残雪が消え始めた2月後半あたりからさえずり始め、3月に入ると本格的なさえずりが深い谷底から響き渡るようになるので、その存在はだれもがすぐに気づくことになります。さえずりの期間は長く、8月いっぱいくらいはさえずっています。なぜそんなにさえずってばかりいるのか、本当のところはミソサザイに聞かないとわからないことではありますが、観察者が勝手に解釈してご紹介します。

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 ミソサザイは、一夫多妻の習性なので、体が小さい割には広いなわばりを持っています。春早くからさえずり始めるのは、自分の縄張りを守るためとも言えます。巣作りはオスの担当であり、縄張り内の谷筋の大きな岩の裏側や大木が倒れた根回りなどにコケで巣を作ります。巣の場所をメスに知らせ、誘うためにもさえずりは止められない。材料のコケを口にくわえて運んでいる最中にも大きな口を開けてさえずるのだから、コケはこぼれてしまって作業はなかなかはかどらなかったりすることも。

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 巣の位置が、水面からあまり高くない場合は、大雨の増水で流されることもある。そうなると、また最初からやり直しになります。

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 さえずりに魅かれてメスが覗きにやってくると、オスはここぞとばかりに一段と声を張り上げ、翼を広げ、尾羽も広げてダンスのように舞いながら巣に誘い込むのです。

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 メスが巣を気に入れば、子育ての準備に入ります。メスも巣作りに参加し、内装や産座用に羽毛などを運び込みます。メスが卵を温め始めると、オスの仕事は一段落ですが、のんびりしている暇はありません。次のメスのために巣作りを開始しなければならないからです。

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 それではミソサザイの元気な歌声をお聴きください。

 小さい体で、このようにパワフルなミソサザイは、さえずりを聞いているだけでも元気をもらえそうな気分になりますが、間近に姿を見ることができれば、よりわくわく感は大きくなるでしょう。あまり警戒心の強い鳥ではないので、山歩きの途中、目の前に突然現れてさえずりを聞かせてくれるかもしれません。渓流で竿を出しているとき、竿先の石の上でさえずってくれるかも。ミソサザイの住む森にでかけるときは、頭の隅にちょっとだけ、ミソサザイのことをメモしておいてくださいね。

(野鳥写真家 和田剛一)
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