2018.02.02「仁淀川いきものがたり」里山の神的存在アカガエル!
みなさん、アカガエルを知っていますか? 里山の生態系の中で、かなり重要な位置にいるアカガエル。仁淀川周辺でも里山の田んぼ周辺や水たまりで見ることができます。
アカガエルはその昔は、食用になっていたほどだから、どこにでもたくさんいた。身近なところではニホンアカガエルとヤマアカガエル(トップの写真左:ニホンアカガエル、右:ヤマアカガエル)が存在する。この2種は産卵期や産卵場所もほぼ同じだ。北海道と沖縄を除くほぼ日本中に分布し、仁淀川周辺にももちろん生息している。
まだまだ寒さの続く2月。里山の田んぼではこの寒さの中、動き出している生き物がいる。
人けのない静かな田んぼで、耳をすましていると何やら鳴き声が聞こえてくる。
アカガエルだ!
アカガエルは地域でズレはあるものの、まだ寒い春前に繁殖期を迎える。
仁淀川周辺では近くの田んぼで1月から2月にかけて産卵が始まっている。数年前には越知町で1月にアカガエルの産卵を見た。山間部だとヤマアカガエルになる。
ちなみに、私の住む東京周辺では2月の中旬からだ。
アカガエルがこんなに寒い冬のさ中に産卵することを知らない人も多いのではないだろうか。
カエルなので産卵するには水が必要で、田んぼやその周辺の水たまりなどで卵を産む。オスが待ち構える水場にメスがやって来るとたちまちオスに抱きつかれる。1匹のメスにたくさんのオスが集まって、取り合いになることがよくあり、これをカエル合戦と呼んでいる。
卵は一か所にまとまっていることが多い。1匹のメスが産む卵の数は、メスの大きさでも違うが、おおよそ500~3000粒と言われている。産んだばかりの卵には寒天質はない。産卵から時間が経つにつれ、水を含んでいき、あのプルプルの状態になる。
ニホンアカガエルとヤマアカガエルの卵は見ただけではほとんど区別がつかない。しかし卵の小さな塊を手のひらに乗せてみるとすぐわかる。手の平で塊が崩れずに持てるものは、ニホンアカガエル。ヤマアカガエルは、指の間から卵のつぶつぶがすり抜けて落ちてしまう。
さて、産卵のためには水たまりが必要なのだが、昔は田んぼが最適地だった。
しかし今の田んぼは昔のものとはつくりが違う。。水が自然に溜まるようなところだといいが、今の田んぼの多くは稲刈りが済むと、水を抜いてカラカラに干してしまう。大雨などが降らない限り、稲刈り後の田んぼには水は溜まらないしくみになっているのだ。
昔の田んぼには近くに「ため池」があり、そこから田んぼに水を流す構造になっていた。しかし現在の田んぼは、池をつくらず、コックをひねれば水道のように水が出てきて田んぼに溜まるようになっていることが多く、作業に手間隙がかからなくなっている。
これは、働く人間にとっては大進化なのだが、この急激な変化に適応できないものたちもいる。
もちろん田んぼは、もともと人の作った場所だから本来の「自然」とは違う。しかしいろいろな生き物たちが長い時間をかけてそこに適応し、利用し、生命をつないできた。その仕組みを少しでも変えてしまうと田んぼを利用している生き物にも影響が出てしまうのだ。
たとえばアカガエルは、1月、2月の産卵期になっても田んぼに水がないので産卵できない。
アカガエルが産卵できないということは、やがてその周辺からいなくなってしまうということだ。アカガエルがいなくなると、里山に住む生き物たちにも大きな影響をもたらす。
なぜならこのアカガエルは里山に住む生き物たちの餌として大いに役立っているのだ。
カエルがどうしてあんなにたくさんの卵を産むのか? 生態系を考えれば納得できる。
一塊りの卵からカエルに成長し卵を産めるくらいまで成長できるのは約20パーセントほど。様々な生き物に食べられてしまうのだ。
もしこの寒い時期にアカガエルが卵を産んでいなかったら、生きていけない生き物がたくさんいただろう。周囲に餌となるものはほとんどいないが、アカガエルの卵やオタマジャクシが餌となって多くの生き物を助けている。
また田んぼに住む肉食の生き物は、カエルで成長していると言ってもいいだろう。サギや猛禽類などの鳥類やイタチなどの哺乳類もカエルを頼りにしている。田んぼに生きる生き物たちの食物連鎖に欠かせない位置にいるのだ。
田んぼの変化にもかかわらず、アカガエルがたくさん見られる地域は、卵やオタマジャクシが生き残る隙間が自然界にまだまだ残っているということかもしれない。
地域の里山の自然が本当に豊かなのかどうかは、このアカガエルの量でおおよそ判断できるのだ。
あなたの家の周りの田んぼはどうだろう?
早春にアカガエルの卵やオタマジャクシを探しに出てみてほしい。地域の自然環境が確認できるだろう。
奥山英治(日本野生生物研究所)
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