2017.11.10来春オープンの新キャンプ場について、町長たち大いに語る

来春オープンの新キャンプ場について、町長たち大いに語る

政治家といえば背広姿に金バッジのイメージですが、さすがに仁淀川流域ではひと味違う。

越知町と佐川町のお隣さん同士、町長がともにアウトドア派のキャンパーで、焚き火を囲み、語り合い、大自然を楽しむ、ちょっとイケてるオヤジたちなのです。

このふたりが仁淀川の自然資産を生かす「わが町の地域振興」について語り合った、お泊りキャンプ対談の詳細を報告します。

 11月3日に、「越知おいしいデイ・キャンプ」というイベントが越知町の宮の前公園で開催されました。秋の青空のもと、仁淀川流域食材での豪華なランチ、ピザ作り、汁なし担々麺などが無料で楽しめるという素晴らしい一日だったのですが、その夕方、興味深いトークショーが開かれました。

article_108_01.jpg「越知おいしいデイ・キャンプ」の様子です。

 題して「たき火を囲んでぶっちゃけアウトドアトーク・仁淀川とアウトドアで地域振興をやるぜよ!」

article_108_02.jpgトークショーに参加したのは、左から福島信彦さん(仁淀ブルー観光協議会)、堀見和道さん(佐川町長)、小田保行さん(越知町長)、黒笹慈幾(仁淀ブルー通信の釣りバカ編集長)。

 越知の町長・小田保行さんは夫婦でテントでのキャンプにはまっています。なんと役場の会議まで、キャンプ場に設営したドーム型巨大タープのなかででやることも。そして、越知町に隣接する佐川の町長・堀見和道さんは、軽自動車改造のキャンピングカーでのキャンプを、こちらも夫婦で楽しんでいます。
 隣町の町長がともにキャンパーとは何たる奇遇、そんな自治体はないだろう、ということで、仁淀川河畔のキャンプサイトでの対談となりました。その様子をお届けします。

article_108_03.jpg越知町、小田保行町長のキャンプスタイル。
article_108_04.jpg佐川町、堀見和道町長のキャンプスタイル。

アウトドアで仲間と一緒に過ごす喜び

article_108_05.jpg仁淀川流域食材での美味しいランチに、おもわず笑顔に。(左:堀見佐川町長ご夫妻、右:小田越智町長ご夫妻)

黒笹慈幾(仁淀ブルー通信編集長、以下黒笹編集長):隣町同士の首長さんが、こういったキャンプイベントに参加するというのは稀有なことです。今日は午後からデイキャンプを体験していただき、野外でのグルメを楽しんでもらいましたが、いかがでしたか?

article_108_06.jpg高知産の食材にこだわりまくる高知市帯屋町のレストラン「Se Relaxer(ス ルラクセ)」のシェフ・山本巧さんが、仁淀川流域のアマゴでパエリアを作ってくれました。

堀見和道(佐川町長、以下堀見):ご来場の皆さんはほとんどが越知の人ですよね。佐川の町長はこんな感じです(笑)よろしくお願いします。今日いただいた、地元食材をつかった料理は見た目もきれいで、本当に美味しかった。このような解放感がある場所で、景色を見ながら、時間がゆったり流れるのは幸せだなと感じました。それから、気の合う人と一緒にご飯を食べるのはいいことだなというのが、正直な感想です。

article_108_07.jpgいの町本川産の「本川手箱きじ」を使った料理も登場。仁淀川流域6市町村には美味しい食材がたくさんあります。

小田保行(越知町長、以下小田):自然のなかでというのは非日常ですよね。私を含め、みなさんも屋外で食事をするというのはあまりないと思います。子供の頃の遠足ぐらいかな。こういう機会を、地元や県内の子供たちにもどんどん持ってもらいたいというのが、私の今の想いです。

黒笹編集長:福島さん、昨夜は初めてテントで宿泊したわけですが、どうでしたか?

article_108_08.jpg仁淀ブルー観光協議会の福島さんは、このようなテントに泊まりました。

福島信彦(仁淀ブルー観光協議会事務局長、以下福島):都会のテーマパークなどにはない魅力があるなと感じました。キャンプの夜、仲間と一緒にゆったりと焚き火の炎を見ながら過ごす時間は何事にも代えがたいなと。今晩もそのひとときを楽しみにしています。

なぜ、町長たちはキャンプに目覚めたのか

黒笹編集長:越知での今回のような野外グルメイベントは、実は昨年の秋に引き続き2回目です。なんでこんなことをしたのかというと、来年の春、越知町に新しいキャンプ場ができるんですね。で、「そもそもキャンプの楽しみって何か」「キャンプ場ができるって、地元の人にはどんな意味があるのか」というのを考えてもらいたくて、こんなイベントを企画してきました。この9月にはここ宮の前公園で、自然体験中心の子供向けイベントもしました。

article_108_09.jpg我が釣りバカ仁淀ブルー通信編集長黒笹の奥さまも参加。美味しいコーヒーをふるまわれていました。

黒笹編集長:さて、なぜ町長さん二人がここにいるのか。小田さんはスノーピークのキャンプ用具のオーナーなんですね。昨年の「越知おいしいキャンプ」でも小田さんはテントで宿泊していたので、ご存知の方は多いと思います。そして堀見さんは、あちらに停まっているかわいらしキャンピングカーのオーナーで、奥さんと二人でラブラブでキャンプしているんです(笑)。堀見さん、なぜ町長をやりながらキャンピングカーにはまったんですか?

堀見:小さな夢があったんです。できればあと12年ほど町長の仕事をさせてもらい、60歳ぐらいになったらキャンピングカーを買って、それで旅して、60年の人生の経験を、日本中のいろんなところに住んでいる若者に語り継いでいきたいなあと。
 しかし、今年ちょっと入院してしまいまして、「やっぱ働いてばかりではいかん、遊ばないとなあ」思っていたところ、たまたま私の知り合いがフェイスブックに「軽のキャンピングカーを買ってくれないか」とあげていたんですね。これは、早く買えという神のお告げだと、衝動的に購入したんです。

article_108_10.jpg明らかに行政の話はしていないだろうな、という町長さんたち。

堀見:退院してすぐに、そのキャンピングカーで家内と一緒に四国カルストに行きました。そして、普通のインスタントラーメンを車の中で作って食べただけなんですけど、家で食べるより何十倍も美味しいと感じた。それからインスタントコーヒーを飲んだんですけど、世界で一番じゃないかという味がしました。

article_108_11.jpg堀見さんが「世界で一番美味しいインスタントコーヒー」を飲んだ四国カルスト。

堀見:やはり場所というのが人の気持ちを変えるのでしょうか。心のゆとりができるというか、いい刺激を受けて、自然と一体になると、今まで気づかなかったことに感謝できるというか。言葉では伝えにくいんですけど、いいものだなあと思いました。
 軽トラックを改造した小さいキャンピングカーです。「足を曲げて寝るんじゃない?」と心配されますが、しっかり足を伸ばせます(笑)。

黒笹編集長:僕はビーパルというアウトドア雑誌の編集長をしていたので、いろんなキャンピングカーを取材し紹介してきたんですね。で、記事をつくりながらも、キャンピングカー文化が日本で広がるには時間がかかるだろうと思ってました。もともとアウトドアが好きな人がキャンピングカーを買うことはあっても、普通の人にはハードルが高いだろうと。それが、「病院のベッドで天井を見ながら突然買おうと思う」なんて、新しい時代になってきたんだなあ。そういえば小田さんもアウトドアとは無縁だったのに、突然スノーピークのキャンプ用具のオーナーになった。どういう経緯なんですか?

article_108_12.jpg「越知町のアウトドア会議室」、小田さんのテント。

小田:越知町には課題があって、滞在型の町ではないんですね。高知市に泊まって、仁淀川の中上流域を観光する人が多い。それを、宿泊して滞在してもらえる町にしたいと思っていました。それからこの町の状況としては、自然のままの河原を利用するなどの簡素な、でも水洗トイレを完備したキャンプ場はある。そんななか、黒笹さんを通じてスノーピーク社長の山井さんを紹介してもらい、越知町に来てもらった。それでエンジンがかかったというか、これで一挙になんとかできそうだと、新しいキャンプ場づくりを考え始めたんです。
 でも私はキャンプ用具を持っていなかったので、スノーピークの本社を訪ねたんですね。本社を見ればその会社の考え方や製品の良さがわかる。そして、まずは使ってみないとなあと、スノーピークのキャンプ用具をそろえ始めたんです。衝動買いといいますか(笑)。キャンプ用具は、テントなど立てると大きいんですが、収納すればコンパクトになる。少しづつ密かに(編集部:奥さんにばれずに? でしょうか)買うことができる(笑)。

article_108_13.jpg快適でデザイン性に優れたキャンプ用具があれば、自然を借景にしたプレミアムなリビングができる。

黒笹編集長:スノーピーク愛用者のことを「スノーピーカー」というんです。で、スノーピーカーのキャンプで多いのがいま流行りの「グランピング」みたいな感じで、最先端でラグジュアリーなスタイルなんですね。そして、レンジローバーやBMWなどの高級車にキャンプ道具を積んでというのが典型的なパターン。けれども小田さんは軽トラにスノーピークを積んで登場する。それを見て僕はとってもかっこいいなと思いました。高知らしいなあと。軽トラのスノーピーカーって、そんなにいない。

小田:軽トラの荷台に収まるぐらいのキャンプ道具でも、組み立てて広げると、野外でリビングのような空間ができるんですよ。面白いですよね。

新しいキャンプ場は、仁淀川流域の人が使っちゃおう

article_108_14.jpg新キャンプ場の計画図。

 越知町のキャンプ場プロジェクトですが、2カ所で進行中です。
 まず来年春。浅尾沈下橋(映画「君が踊る、夏」の舞台)の下流約1㎞に位置する「日ノ瀬」にスノーピーク監修によるキャンプ場が誕生します。仁淀川の河畔にあり、見渡す川辺の景色は川と山と森という、人工物が何も見えない環境です。ここには、快適なオートキャンプが可能なテントサイトと、隈研吾氏(東京オリンピックメインスタジアムを設計した世界的建築家)デザインのトレーラーハウス「住箱(ジュウバコ)」10基を用意。住箱は仁淀川を見渡すウッドデッキに設置され、最高のロケーションでのアウトドアを楽しめます。

article_108_15.jpg日ノ瀬近くの仁淀川の景観。

 そして来年秋。今回のイベント「越知おいしいデイ・キャンプ」の会場で、これまでも無料キャンプサイトとして親しまれてきた宮の前公園の入り口付近に新たな観光拠点が。ここに、仁淀川流域の観光情報の提供や、高知県の特産品を販売するセンターハウスが完成します。また、ここにも「住箱」が7基設置されます。

小田:日ノ瀬にできるキャンプ場は、自分の好きなスタイルでキャンプできるという自由さがあります。手ぶらで来た人でも泊まれますし、地元の美味しいものも楽しんでもらえるようにしたい。越知町の地域おこし協力隊では、地元名産の山椒を使った焼き肉のタレを作りましたし、ジビエ料理なども開発中です。

article_108_16.jpg越知町の地域おこし協力隊で開発した、特産の山椒を使った商品。

黒笹編集長:堀見さん、佐川の町長として、隣の町に自然体験型の新しい施設ができることについてどう思ってますか。佐川町で今やっていることについても触れながら、話してもらえると嬉しいんですが。

堀見:いま、世界的な動きとして、持続可能な社会、地域を作っていこうというのがあります。国連でもSDGs(持続可能な開発目標)というのが採択され、それを受けて日本政府や各自治体もSDGsに取り組んでいくというのが今年の8、9月から出てきました。
 それで、仁淀川流域の各自治体でいま取り組んでいるようなことは、「持続可能な」というキーワードにぴったりなんですね。佐川町では、植物学の父・牧野富太郎先生ゆかりの町ということで、地域でずっと自生してきた牧野先生命名の山野草を牧野公園で大切に育てています。それから、佐川町の面積の半分は檜と杉の植林なんですが、放置されているのが多い。それを自伐型林業というやり方で手入れすることを始めています。きちんと管理することで木は元気になるし、下草が育って多様な動植物が増え、本来の山林の姿に戻っていく。自然と共に生きていく中山間地域ならではの町づくりをしています。そんな「持続可能な」という流れのタイミングで、自然を活用したキャンプ場とは、越知町はいいものを造ってくれますよね。佐川町のみんなで新しいキャンプ場におしかけて、越知の人が予約できないくらいにしたい(笑)。

article_108_17.jpg牧野富太郎先生が愛したシコクバイカオウレン。牧野公園にて。

小田:ありがとうございます。素晴らしい応援演説だと思います。

堀見:よく、こういうキャンプ場を作ったり、観光のイベントをすると、観光客のため、外からの人のためにとなりがちです。しかし大切なのは、その地域にいる人がいかに楽しむかだと思います。なので、「佐川町のやつらに使わせんぞ!」ぐらいの勢いで、越知町の皆さんで思いっきりキャンプ場を楽しんでほしいです。越知町のみんなが楽しそうにしていたら、ちょっと行ってみようかと、自然と外から人が集まってきます。

article_108_18.jpg失礼ながら、お二人とも政治家には見えません。すっかりアウトドア親父であります。

黒笹編集長:そうですよね。キャンプ場はお客さんを呼ぶ装置に見えますけど、実はそうじゃない。自分たちの大切な地域づくりの施設ですよね。なにより、子供たちの自然体験の場になる。今は都会の子も田舎の子も変わりないんですよね。基本的には同じことを毎日やっている。でも本当は違うはずなんです。田舎の子は田舎の子らしく、自然の中で思う存分遊んで、自然体験を身につけないといけないと思うんです。
 僕は東京生まれですが、母親の田舎の広島で田舎の子と同じ小学生時代を過ごして、自然の素晴らしさを身体に染み込ませました。それが結果的に、アウトドア雑誌の編集をしたり、高知移住後も自然に関わる仕事をすることにつながっている。
 特に小学生時代の自然体験ってものすごく重要で、その子の一生を決めるんじゃないかと思っています。キャンプ場で遊んだ子は、キャンプ場に帰って来る、つまり故郷にもどってくるんです。

article_108_19.jpg故郷の自然で遊ぶ越知町の子供たち。

いざというときのために、キャンプ場で経験を積む

黒笹編集長:新たなキャンプ場を利用して、越知町としては、仁淀川観光においてどんなメニュー化を考えていますか

小田:最初からあまり大きなことは考えないように、と思っています。仁淀川沿いは道が狭いところがまだあり、団体を乗せた大型バスが通れないところがあります。だから、まずはフットワークの軽いファミリー層や友人同士のグループに来てもらえたらと思っています。それから、先ほど堀見さんから「地元の人が楽しまないと」という話がありましたが、私も同じ意見です。

article_108_20.jpg焚き火でマシュマロを焼く。

小田:ところで、最近は火をおこすことをしたことがない子供が多いですよね。でも、越知町のスノーピーカーの子供たちは火をおこしたり、親の手伝いをしながらキャンプしている。そういう体験を積んでいると、いざ南海トラフ地震が起きたとき、避難場所の体育館などでストレスを感じたら「僕らはテントでも寝られるよ」という小・中学生になるんじゃないか。
 普段楽しみながらキャンプして、いざというときにその経験を役立てられる子供になっていく。そんなふうにつながればいいですね。

article_108_21.jpg子供のころから、野外でいろんなアウトドア体験を。

黒笹:キャンプのスキルって、災害対応の技術なんですよね。炊き出しと同じ(笑)。堀見さんは、キャンプ場と防災についてなにか考えたことがありますか?

堀見:越知町の新しいキャンプ場は、避難している気持ちを忘れさせてくれる避難所として使えるんじゃないですか。気持ちがふさぎがちになるときに、美しい自然の中で過ごせるというのは、避難している人にはありがたいんじゃないかと思います。いざというときは、佐川町民もよろしくお願いします(笑)

article_108_22.jpg新しいキャンプ場でも、こんなときが持てるといいなあ。

黒笹:今回は貴重なセッションになったと思います。そろそろ空が暗くなってきました。このあたりで終わろうと思いますが、これから僕らはキャンプします。まだまだ個人的な話はいくらでもできると思いますので、ぜひご参加ください。たき火を囲んで、ゆっくりと楽しみましょう。

article_108_23.jpgトークショー夜の部はこんな感じで。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
●今回の編集後記はこちら